2024年の戦場はミャンマーになるかもしれない
2020年代に入って再び国際情勢がきな臭くなった。2021年のカブール陥落、2022年のウクライナ侵攻、2023年のガザ戦争、まだまだ戦争は終わらない。現時点でベネズエラや北朝鮮に不穏な動きが見えているが、2024年という文脈で危ぶまれるのはミャンマーだ。
独立以来、70年以上に渡ってミャンマーでは内戦が続いていた。国土の中央部を支配する国軍と、周辺の山岳部を支配する少数民族民兵との戦いだ。ミャンマーと言えば真っ先に民主化運動が浮かぶが、これは内戦とは別の都市部の話である。アウンサンスーチーが運動をしている時も、軟禁されている時も、元首になっているときも、常にミャンマー周辺部は内戦状態だった。
2021年、国軍がまたまたクーデターを起こし、アウンサンスーチー政権は崩壊する。これに怒った民主化活動家はPDFという団体を作って地下に潜り、国軍への反乱を起こした。民主派は少数民族の民兵と手を組み、国軍に対して攻撃を繰り返している。
こんなニュースが飛び込んできた
どうにも、ミャンマー国軍が負けそうだというのである。何らかの停戦までこぎつければいいが、首都が陥落して軍政が武力で打倒される場合は問題が発生する。建国直後のミャンマーは首都のすぐ近くまで少数民族が迫り、政権崩壊寸前まで至ったが、今に至るまで何とか生き残ることはできた。しかし、ついに反乱軍が全面勝利するとなれば、深刻な問題が発生することは間違いない。
独裁政権に対する反乱軍の勝利といえば聞こえが良いだろう。スターウォーズをはじめ、このテーマの創作はいくらでも存在してきた。しかし、実際の反乱は仮に勝利したとしても、いい結果になることは殆どない。
民主化を成し遂げた国を考えてみよう。韓国や台湾はそれまで反共独裁政治が続いてきたが、政権が民主派に譲歩し、民主化が成し遂げられた。台湾の初の民選大統領である李登輝は蒋経国に指名された人間だ。韓国でも民主化後に最初に選挙に勝ったのは軍政の盧泰愚だった。東欧諸国も似たようなもので、体制側エリートの殆どはそのまま地位を保証され、処罰はなされなかった。最も暴力的だったルーマニアですら、国軍や共産党の反主流派が主体となって民主化が成し遂げられた。要するに、民主化がうまくいく国は体制と民主派の間に信頼関係が強い。暴力があっても小規模にとどまる。失敗例のチュニジアやエジプトですら、国軍が民衆への発砲を拒否したことが革命の原因だった。
一方、反乱軍が政権を武力で打倒する場合、予後は非常に悪い。最近の例だとカダフィ政権崩壊後のリビアが挙げられるだろう。リビアは程なくして無政府状態に陥り、現在も統一政府が存在しない。他にも似たような例はいくらでも挙げることができる。1992年のアフガニスタン・1975年のカンボジア・1979年のニカラグア・1991年のソマリア・1996年のコンゴなどだ。政権打倒後に国家が曲がりなりにも安定したのは1949年の中国や1991年のエチオピアだろう。しかし、この場合も新政権は容赦のない独裁政治で国内を締め付け、民主化とは程遠い状態となった。
ミャンマーが崩壊した場合、新政府が民主的になるとは到底思えない。むしろ、反体制派の構成を考えるに、深刻な内戦が始める可能性が高い。反体制派は統治の仕方がわかっていないし、民族的にもイデオロギー的にもバラバラだ。仮に民主派が議会政治を始めようとしても、早晩崩壊するはずだ。ミャンマー軍政の敗北は途方もない混乱の始まりであり、ミャンマーは恐ろしい事態に巻き込まれるだろう。
地政学的な事情もある。ミャンマーは米中対立の最前線となる可能性が高い。ウクライナと同じで地理的に非常に狙われやすい位置にある。ミャンマーが無政府状態になれば中国が介入しないとは思えないし、当然タイやインド、それに西側諸国もミャンマーの親中政権を壊そうとするだろう。ミャンマー国軍は冷戦時代に自国の地政学的危険性を良くわかっていたため、徹底した鎖国と中立路線を貫いた。お陰でミャンマーはインドシナ三国のように悲惨な戦争に巻き込まれないで済んだ。しかし、ミャンマーは相変わらずの内部危機を抱えた状態のため、慢性的な火種となっている。今回こそは逃れられないかもしれない。米中両陣営がミャンマーで代理戦争を行い、この国は現在のシリアやイエメンのような状態へと成り果てるだろう。国際社会はなんとなく民主派が正しいと思ってしまうし、道徳的にはそうなのかもしれないが、国軍が打倒された方がその後のミャンマーには災厄をもたらしそうである。
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