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次の戦争が起きるのはベネズエラ・ガイアナ?

 ウクライナ戦争に続き、パレスチナでも戦争が発生しており、世界全体に不穏な空気が漂っている。2020年代に入ってから世界はより一層不安定化を増しているようだ。次なる紛争の火種として上がっているのが南米のガイアナである。

 ベネズエラの政権がガイアナの西部の領有権を正式に認めるように国民投票を行った。ベネズエラの主張によればガイアナのエセキボ川より西の地域はベネズエラの領土ということになるらしい。ガイアナの領土の7割を占める地域である。当然ガイアナは反発している。ベネズエラはずっと昔からこの主張を続けていたが、一層踏み込んだ形となった。

時事通信より

 ガイアナは南米の小国で、国土のほとんどがジャングルだ。これといって産業もなく、貧しい国である。ところがここ数年大型油田が次々と発見され、膨大なオイルマネーが流入するようになった。宝くじに当たったような一発逆転だ。2020年の経済成長率は86%という値を記録している。ガイアナは人口が少なく、一人あたりの石油埋蔵量が大きいため、南米のカタールとなりつつある。

凄まじい勢いで伸びるガイアナのGDP

  これと対象的なのがベネズエラだ。この国はガイアナよりもはるか前に石油ブームに湧き、南米で最も豊かな国となっていた。しかし、1999年に社会主義者のチャベスが政権を握ってから破滅が始まった。チャベスは大規模なバラマキを始め、政府は腐敗し、権力の維持以外にほとんど機能しなくなった。2013年にチャベスが死去すると、後継者のマドゥロの下で状況は更に悪化し、経済崩壊が始まった。現在ベネズエラの国民の2割が難民となり、国内は犯罪組織が暴れ回っている。ここまで酷い経済崩壊が起きたのは戦争・革命を除けば史上例がない。

崩壊するベネズエラの経済

 これほどまでの崩壊を見せながら、ベネズエラの政権は未だに倒れていない。1990年代の北朝鮮や2000年代のジンバブエに匹敵するしぶとさだ。何が政権を支えているのかは分からないが、キューバの支援や貧困層への懐柔でどうにか持ちこたえているらしい。世界一の石油埋蔵量を誇るのにもかかわらず、ベネズエラの石油産業は操業停止状態になってしまったため、政権は麻薬取引で資金を稼いでいるようだ。現に大統領の親族はアメリカで逮捕されている。

 ベネズエラの政権はガイアナの領土を奪取し、石油資源を手に入れると同時に、国民の不満を沈める目論見だろう。隣人が宝くじに当たった途端に強盗に入る厚顔無恥ぶりだ。ベネスエラの悲惨な状態を考えればそんな余力があるかは分からないが、政権が一か八かに賭ける可能性はある。ベネスエラの社会主義政権はキューバのカストロに薫陶しており、反米主義に染まっている。ロシアや中国にも接近を進めている。アメリカの警告を恐れずに予測不能の行動を起こす可能性は否定できない。

 域内の大国は曖昧な姿勢を見せている。南米は親米の右派政権と反米の左派政権が振り子のように交代している国が多い。2010年代は右派政権が多く見られたが、2020年代に入ると左派政権が再び増え始めた。ブラジルでは労働者党のルラが政権を奪還し、やや反米寄りの姿勢だ。したがって今回のベネズエラの動きに対して沈黙を貫いている。

 現実にベネズエラに行動を起こす力はあるのだろうか。ベネズエラは国内がガタガタの状態だが、それでも軍はかろうじて維持されており、兵力は10万を超す。これに対してガイアナは元々非常に人口が少なく、軍は3000人程度だ。ベネズエラの人口はガイアナの40倍なので、軍事的にかなり劣勢である。

 ただし、アメリカは自国の裏庭で反米国家が勝手に侵略を進めるのを許すはずが無い。当然、ガイアナが敗北しないように介入を行うはずだ。ベネズエラの人口と経済状況を考えると全面侵攻は考えにくいが、国境付近の限定戦争は十分に考えうる。1991年の湾岸戦争に似た戦争が行われるだろう。

 ガイアナで戦争が起きて得をする当事国はないだろう。唯一利益を得るのはロシアだ。ガザの戦争でてんてこまいの西側の力がガイアナに逸れればロシアはますます有利になる。ロシアはベネズエラへの支援を怠らないし、焚き付けることも考えられる。国際情勢はプーチンに味方しているようだ。

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