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<進撃の巨人>マーレ人が2000年間絶滅しなかった理由

 進撃の巨人に関する疑問でしばしば上がるのがこのようなものだ。「エルディア帝国は1700年間に渡って民族浄化を続けていたのなら、なぜマーレはこれほど長きの間に渡って滅びなかったのか」というものだ。確かに始祖ユミルの記憶にもマーレは存在しており、2000年前の段階でも存在していたことが判明している。どうしてマーレはこれほど長き間に迫害に耐えて復活することができたのだろうか。結論から言うと、古代マーレ人は消滅している。現在のマーレ帝国は後世の人間が勝手に名乗っているだけだ。これが私の考察である。

 エルディア帝国ほどの大帝国は多種多様な民族を含んでいるし、その中には同化するものも多い。例えばアラブ人はもともとアラビア半島の民族であり、エジプト人はエジプト語を、シリア人はシリア語を話していた。しかし、イスラム帝国が地域を征服し、イスラム教の影響力が強くなるに至ってシリア人やエジプト人はアラビア語を話すようになり、自分のことをアラブ人だと思うようになった。ユーラシア内陸部の住民が軒並みロシア語を話すのも同様だ。この地域に数多存在したウラル系の民族やトルコ系の民族はモスクワ大公国に飲み込まれ、ロシア語を話すようになった。漢民族が10億もの人口を誇るのも、2000年掛けて中国が同化されていった証だ。

 2000年もの間、古代の民族が存続するのは珍しい。聖書の民族で残っている民族はユダヤ人とギリシャ人とアルメニア人だけだ。他は全て激しい民族移動の中で消滅した。古代マーレ人も恐らくエルディア帝国の中で2000年の間に消滅したと思われる。現在のマーレ帝国の言語は壁内世界と同じであり、マーレ人は恐らくエルディア帝国の言葉を使っている。

 進撃の巨人はヨーロッパ風であり、エルディアはゲルマン民族を、マーレはローマ帝国をモデルにしていると思われる。ゲルマン民族がローマを征服したように、エルディア人はマーレを征服した。マーレは重装歩兵のような格好をしており、かなり文明が進んだ国だった可能性が高い。ローマのような壮麗な文明が存在したはずだ。エルディア帝国はマーレ帝国を滅ぼして世界の覇者となったという話は伝説として2000年間語り継がれてきただろう。

 新しい国を建国する時にしばしば問題になるのは国名だ。これといって独自の歴史がない新国家は国名に頭を悩ませることになる。この時に良く使われるのは古代の歴史を遡り、偉大な国家に因むことだ。例えばガーナという国は中世に存在していたガーナ王国にちなんで名付けられた。この国は現在のモーニタリアに位置し、地理的にかけ離れているのだが、問題にはならなかったらしい。

 エルディア帝国を打倒し、自由を手に入れたへーロスたちはおそらく頭を悩ませたのだろう。エルディア帝国時代の民族浄化で自分たちの民族性は消え失せている。言葉もエルディア語しか存在しない。どうしたものか。その時に浮かんだのはエルディアに滅ぼされた太古の偉大な文明の名前を掘り起こすことだった。彼らにとって一番穏当な名前はマーレだっただろう。古代マーレとは何の関係も無くなっているが、問題はない。神聖ローマ帝国がローマとは無関係だったように、新マーレ帝国は古代マーレとは別の国として建国されたことになる。

 似たような経緯で名付けられた国が存在する。聖書に出てくるダビデとゴリアテの逸話を覚えているだろうか。ゴリアテはヘブライ王国を侵略しようとしたペリシテ人の兵士で、ヘブライ王国のダビデ王によって投石で倒された。それから1000年後、ユダヤ人の反乱を鎮圧したローマ帝国は、ヘブライ王国を解体し、この地にパレスチナという名をつけた。ペリシテにちなんだことは言うまでもない。ローマ帝国がユダヤ人への意趣返しとしてパレスチナという地名を名付けたように、へーロスもエルディアへの意趣返しとしてマーレの名前を復活させたのだろう。

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