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<進撃の巨人>壁内世界の過疎のヤバさを検証する

 進撃の巨人はついにアニメ最終話を迎えた。ここまで長い年月だった。かれこれ10年以上も追いかけていたことになる。私の人生の短期目標の1つはエヴァと進撃の巨人の最後を見届けることだったが、これで私のアニメ人生も一区切り付くことになった笑。

 さて、作中でエレンは常に「壁の外に出て自由が欲しい」と願っていた。確かに壁で囲まれた世界から一歩も出ることができないというのは窮屈なものだ。エレンは外に出ることができる鳥に憧れていたし、彼の自由への奮闘は作中のメインテーマとなっている。

壁内世界の見取り図

 ここで1つ気になるのは、壁内世界がどの程度窮屈だったのかということだ。設定資料によると3つの壁のうち、ウォール・シーナは250km、ウォール・ローゼは380km、ウォール・マリアは480kmが半径らしい。この範囲を図示すると以下のようになる。

  え?ちょっと広くね?日本よりも遥かに広いではないか。計算してみると、大体72万平方キロメートルの面積となる。日本の国土の2倍だ!!!

 壁内世界の広さは尋常ではない。馬の一日に進める距離は30kmほどだから、馬を使ったとしても壁内世界の端から端まで一ヶ月もかかることになる。なんということだろう!これではそもそも壁を一生見たことがない人も多いのではないか。エレンの価値観では、江戸時代の日本人は「籠の中の鳥」ということになるが、流石に無理があるのではないか?

 今度は人口密度を計算してみよう。ウォール・マリア突破時点で壁内世界の人口は125万人ほどだったらしい。1平方キロメートルあたりの人口密度は1〜2である。これはなんと日本の200分の1だ!なんと地球全体の人口密度よりも遥かに低い。

 世界には人口密度の低い国があるのではないか。世界一人口密度の低いモンゴルがだいたい人口密度が一平方キロメートル辺り2人である。壁内世界はこれより更に低いことになる。日本一人口密度の低い福島県の檜枝岐村が一平方キロメートル辺り1.6人で、壁内世界とだいたい同じくらいだ。

日本一人口密度の低い、福島県檜枝岐村
見た所、山と森しかない。
ここの住民も日々窮屈さを感じているのだろうか。

 パラディ島の技術水準は壁外に比べて100年遅れている。こうなると、パラディ島は近代以前並みの人口密度だから、過疎なのは仕方ないのでは?という発想が浮かんでくる。いやいや、江戸時代ですら日本の人口は3000万人ほどだった。今の4分の1だ。到底パラディ島の人口密度の低さには追いつかない。パラディ島はちゃんと灌漑設備もありそうだし、いくら遅れていると言っても幕末くらいの文明水準はあるだろう。やっぱり壁内世界の人口密度は低すぎるのである。西部開拓時代のフロンティアよりも人口密度は低い。

 こうなると、壁外の調査をする前に、まず壁内の開拓をする方が優先ではないかと思えてくる。壁内世界は近世ヨーロッパのように描かれているが、実際の様子はシベリアに近い。果てしなく未開拓の原生林が広がり、人々は限られた村に集中して住んでいる。隣の村までの距離は10kmどころか100kmであることもある。しかも壁によって交通はかなりの部分、阻害されている。飛行機も車もない時代は、家族が病気になれば、近くの街まで数十キロの道のりを運んでいかなければならない。道中は悪路であり、しばしば狼や盗賊が出没する。ヘンゼルとグレーテルで描かれたような暗い森林の世界だ。広大な自然の前に人類はただただ己の無力さを実感するだろう。

 この世界の調査兵団はコロンブスやアポロ宇宙船のような扱いだろう。市民の生活からするとどうでもいい話だ。それに志願する人間は軒並み命知らずの荒くれ者か、変人と相場が決まっている。

最寄りのジャスコまで110kmであることを示す看板。
壁内世界ではこれが日常である。

 幕末の蝦夷地の人口密度は今よりも格段に低かった。おそらく壁内世界と同じくらいだ。榎本武揚は蝦夷地を独立させて函館共和国を作ろうとしたが、奇妙なことにこの発想はパラディ島に逃亡したエルディア帝国と良く似ている。マーレ大陸を本州とすれば、パラディ島は北海道のような扱いだったのかもしれない。

 壁内では口減らしのために無謀な奪還作戦が行われて人口の2割が死んだと言われているが、耕地が不足することなどあるだろうか?難民に与える土地はいくらでもある。口減らしというのはウソで、非常事態に乗じた単なる粛清のような気もする。

 壁内世界の具体的な街の規模を考えてみよう。産業革命期のロンドンから推測すると、王都の人口はせいぜい10万人くらいだろう。シガンシナ区の人口は4万人ほどだ。同様の突出区の都市が全部で12個あるから、合計すると48万人になる。人口の大半が農村に住んでいることを考えると、都市はこれで全部だろう。壁の出入り口のある付近に都市ができるのは、地理的にも非常に理に適っている。街の周囲を壁でぐるりと囲まれているから、盗賊から街を守るのにも便利だ。おそらく壁内世界の都市の治安維持は壁を利用して行われているのだ。

壁内に存在する城塞都市。
この世界ではかなりの大都市だ。
周囲を取り囲む壁は治安維持にも好都合である。

 王都と12個の城塞都市を除けばもはや壁内世界にめぼしい都市は存在しないだろう。実際に作中でこれ以外の街の描写は無かった。あとは全て村落だ。壁と壁の間には広大な森林と草原が存在し、その中に村落が点在していることだろう。村落の住民にとっては壁は遠くの存在でしかない。長野県民とっての海のようなものだ。巨人は遠い外国の話に聞こえるだろう。ウォールシーナの村落の住民にとってのウォール・マリア突破事件は、西日本の住民にとっての東日本大震災の感覚に近いだろう。

 さて、ここまで広大な壁内世界でエレンはなぜ「壁に閉じ込められいる」という発想に至ったのだろうか。アルミンは16タイプで言うところのN型なので、そうした発想に至ってもおかしくない。ところがエレンのようなS型の人間にとっては、自分たちが壁に囲まれているという事実は観念論すぎて理解できないだろう。我々が地球に閉じ込められていると感じないのと同じだ。

 エレンの気持ちは想像するしかないが、1つはエレンの住んでいたシガンシナ区は城塞都市であり、壁に囲まれていたのが原因かもしれない。これに親父の教育が加わった結果、「壁に閉じ込められている」という強迫観念が生まれたのだ。シガンシナ区はきっと日当たりが悪く、エレンの家もしょっちゅう日陰になっていたのだろう。壁に怒りを感じるのももっともだ。

 ただし、壁がデメリットばかりかと言うとそうではない。三重の壁自体は巨人から人類を守るためのものだが、それだけならわざわざ狭い城塞都市に住む必要はない。巨人対策に関してもウォールマリアを除けば関係のない話だ。彼らが城塞都市に住むのは治安上の理由が大きいだろう。壁で街がぐるりと囲われているために住民は盗賊に襲われる心配がない。実はシガンシナ区の壁は盗賊から住民を守るために使われていたのだ!実生活の上での敵は巨人よりも盗賊だったのである。シガンシナ区の住民は壁が破られたことで自分たちの敵が巨人だったことを知り、更に世界の真実が明かされたことで壁外世界が敵だったことを知るという二重のパラダイム・シフトが起きたのだろう。

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