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pairsで松村北斗君似の殿方に面接された話

夏のとある失恋から立ち直るべく、ペアーズを再開した私。アポ一発目はいいねの数が多い人気会員さんだった。

■北斗さん 外資勤務

ペアーズは入会したてだと、新規会員として優先的に一覧に表示される仕組みになっている。
つまり入会したてが人目に留まりやすく、一番いいねが集まりやすい。
私は登録一週間くらいでいいねの表示上限500に達して、以降は「いいね数500+」としてプロフィールに登録されていた。
女性だと500いいね以上つくことは珍しくもなんともないが、男性はそんなにいない。
肌感だと男性は200を超えるとかなり人気会員なのではと思われる。
マッチした北斗さんはいいね数が500を超えていた。これは中々お目にかかれない。

北斗さんのプロフィールは、外資勤務、年収一本超え、3つ年上、留学経験あり、家事得意、塩顔で綺麗なお顔の写真、癖と破綻のない日本語の自己紹介文で、なるほど、これは人気が集まると納得。
減点ポイントが見つからないプロフィールだった。

常識的なメッセージをいくつかやり取りした後、会ってお話ししませんかということになり快諾。
これは幸先が良い。このまま失恋から立ち直りたい。
日程は土曜日の夕方に決まり、では夕ご飯ということでこの辺のお店はどうですか?と提案した。
先方は女の子と会いまくっているだろうし、お店探すのも面倒だろうという配慮だったが、意外な返事が返ってきた。
「すみません、カフェでもいいですか?」
土曜日の夕方5時半から会うのにご飯も食べないとはこれ如何に?と思ったが、まあ警戒されているなら仕方がない。そしてカフェって予約出来ないお店多いですけどね。多分お店決めにもたつくやつですね。と思いながらも、それならば
「そうですね!ではサクッとスタバとかにしましょうか!」
とお返事申し上げて、先方も了承。東京駅付近のスタバの前待ち合わせになった。
全くスムーズに入店できる気がしないが当日を迎えた。

約束の時間の少し前に、北斗さんからメッセージが入っていた。
「お店の前にいます。混んでいますね」
でしょうねー、と思いながらとりあえず落ち合いましょうということで、お店の前に向かった。
爽やかな人が立っていた。
「mさんですか?初めまして!でもスタバ入れそうにないんです。」
声をかけてくれた人は背が高く、肌は白くて綺麗で、清潔感に溢れていた。イケメンさんだ。
「初めまして。北斗さんですね?スタバ混んでますよね。そしたら新丸の方行ってみましょうか?」
「僕この辺りあまり歩かなくて。すみませんがついていっていいですか?」
「もちろんです!」
スタバがダメだったらあそこのカフェに行こうと思っていた場所に私が案内することになった。
バックアッププラン持っておけや、と思ったが、顔がいいので許した。

新丸の一階のカフェやら飲食店やらが並んでいる一角で、空いているお店に入った。
「こんなお店あるんですね!おしゃれなのに穴場ですね。」
「前から気になってたんです。来れてよかったです!」
なーんてね、来たことありまーす、と思いながらスムーズに着席。私のおひとり様活動が役に立った。

お店のこだわりっぽいドリンクを一杯づつ注文して、早速お話に取り掛かった。
向かい合って座っており、落ち着いた話し方をする私たちはまるで面接であった。
ちなみに彼は新卒から一貫して人事の仕事をしており、普段から面接しまくっているらしく、この場も織り目正しく面接と化していた。
しかしこの人、顔がいい。誰かに似ている。そうだ、松村北斗君だ!
朝ドラで拝見してからすっかり彼のファンになっていた私は、この大発見に俄然やる気がアップした。
この発見以降、私は完全に彼のことをほっくんだと思い込むことにした。
ほっくんとデートしていると思えば、なんて楽しい土曜日だろう。
(この文章で彼の名前を北斗さんにしているのもそのためだ。)
「アプリ始めたばかりなので不慣れなので失礼があったらすみません。」と北斗さん。
「いえ、私も始めて一週間なので、、!」と私。
正確には数ヶ月ぶり2回目のペアーズが始めて一週間。同時にインストールしたアプリでもアポは何件か入っていたので、全く不慣れではない。というかもはや歴戦の猛者であるが、もちろんそんなことは言わない。このアプリは始めて一週間。全く嘘ではない。
そこから趣味やお仕事、休日の過ごし方などいつものやり取りが続いた。

「今まで結婚の機会もたくさんあったと思うんですが、しなかったんですね?」
私は恋愛の話題に切り込むことにした。北斗さんはまた落ち着いて喋り出した。
「機会はあったといえばあったんですが、仕事を優先していて。でもこの歳になってきて、当然ながら結婚相手に求める条件が結構いっぱいできてしまって。」
「まあそうですよね。いい大人になってきて、勢いで結婚できる歳って訳でもないですし。いっぱいある、というのがすごく気になりますが。」
「僕100個ありますよ。」
「多いですね。一旦、一番大事なの訊いてもいいですか?」
うわ、くっそめんどくさそうだなーと思いながらも訊いてみた。しかし顔がいい。
「一番大事なのは、話し合いができる人ですね。」
「わかります。話し合いに応じない人いますからね。意思疎通ができること大事です。」
私は適当に相槌を打ちながら、割と淡々とお互いの話し合いについての価値観を披露しあった。
北斗さんは感情的になることなく、しかし無表情なわけでもなく話を続けた。
本当に面接官だなー、と思った。汎用性の高い丁寧な言葉選びと理論整然とした内容からは、手の内は決して明かしては来ないし、線を引きながら話している感じがすごくした。

「じゃあ二番目に大事な条件てなんですか?」
「次はですね、自分の親に紹介できる人、ですね。これ結構重要だと思っていて。結婚生活って家族ぐるみだし、この先ずっとじゃないですか。自分の親も気に入ってくれて、仲良くやってくれそうな方じゃないと難しいのかなって思います。」
まあ一理ある、が、結婚したこともないのによく滔々と結婚観語れるなーこの人、と内心で罵りつつも、なるほどなるほど、とお話を聞いた。
そしてこの辺りから、面接官ぽく感じていた印象が、なんか上から目線じゃない?という印象に変わり始めた。
確かに北斗さんのプロフィールも容姿も申し分ない。引く手数多だろう。
が、彼が絶対的に選ぶ側の立場で、アポで出会う無数の女の子達を査定しているように感じたのだ。
仕事の採用面接ではいつもその立場なのだろう。御社に入社したいです、という人達に対して、決定権がある立場から可否判断をしているはずだ。
それをマッチングアプリにおいても踏襲していると見受けられるようになった。
僕の求める人材像にあなたは見合う人ですか?と口にこそしないものの、こちらのプロフィールの確認と結婚相手に求める条件の開示からその気配を感じた。
初回のアポがカフェなのもそのためだろう。たくさんの女の子と会うから、いちいちご飯など行ってはいられないのだ。一次面接はカフェで、というのが彼の方針なのだ。

そして彼はご自身についてとっても自信があるようだった。
それはもちろんだ。申し分のない経歴をお持ちなのだから。
だからプライドも割と高いな?と感じる節もあった。
私が勤めている会社名が判明した時、北斗さんは慌てて「総合職ですか?一般職ですか?」と食い気味で訊いてきた。
縁あって私が勤めている会社は日本を代表する大企業である。(もちろん私如きは実力で正面から入社したわけではない)品行方正、高学歴のキラキラ君とキラキラちゃんしか勤めていない、私には場違いな超一流企業なのだ。
その辺のメンズよりは立派な企業になぜかお勤めの私は、ビビられてしまうことが多々ある。
会社名を聞いて彼の目に焦りの色が出たのを私は見逃さなかった。
「一般職っぽい扱いですかね」と回答した私に、彼はそうなんですねと安堵しながら返事をした。多分、「総合職だ」と答えたら、彼は負けたと思ったことだろう。総合職だ、といってやればよかったと今になっては思う。
そもそも総合職か一般職かなど、他の誰にも訊かれた事がない。彼は肩書きで相手を審査していた。彼のキャリアや自身に対するプライドを垣間見た。

「mさんの結婚相手に求める条件てなんですか?」
「うーん、ちなみに実は私結婚歴があるって知ってました?」
「え?」
面接官が初めて言葉に詰まった瞬間だった。
この時私はプロフィールに離婚歴を選択はしていたものの、自己紹介文であえては言及していなかった。北斗さんは御多分に洩れず読み飛ばしたようだ。
「ちゃんとプロフィール載せてますよー。」
と私がおちゃらけると、北斗さんは、え、え、と言いながら私のプロフィールをスマホで確認した。離婚の文字を見つけて彼は呟いた。
「・・・これは見てなかったですね。完全に。そんなことあるんだ。」
「すみません、自己紹介文にもやっぱりちゃんと書いた方がいいですよね。」
「いや、、書かないでいいと思います・・。僕も同じ状況だったら多分書かないと思います。」
「大丈夫ですか?びっくりしましたよね。」
「いえ、すみません・・。正直びっくりしてしまって、申し訳ないです。でも今時離婚も一般的になってきてますからね。理由ってお聞きしてもいいですか?」
それから私は離婚理由をお話しした。私の解答集からいくと、一番当たり障りのない、かつ割と元旦那に責任をなすりつけるバージョンのやつだ。
彼は一連の離婚話を、それで?それで?という相槌を打ちながら聞いていた。他のメンズの皆様は割と遠慮がちに話を聞いてくれることが殆どだったが、彼は前のめりの相槌を打ってきたのが印象的だった。査定されてるなーと思った。しかし顔がいいので話し続けた。
「そういう理由なら僕は問題ないですね。でも僕の親世代は離婚ということ自体についてよく思わないかも知れませんね。」
彼の倫理観には抵触しないようだが、彼の求める人材像にはミソを付けてしまったようだ。
それはそうですよねーと言いながら、私はこの面接がそろそろ嫌になってきたので、北斗さんの顔に集中することにした。顔がいいから何でもいっかー。

「離婚について思ってることあるんですけど、言ってもいいですか?」
彼は切り出した。
「はい、どうぞ。」
「離婚した方って僕のイメージだと、お別れしてその後は再婚せずにずっと一人でいるか、バツ5くらいまで結婚と離婚を繰り返すかのどちらかだと思うんですが、mさんはどちらになると思いますか?」
ん?何言ってんだこいつ?
「えーと、どうなんですかね、、。確かに結婚する、ということについてのハードルは前より低くなっていると思うんですが、離婚しようと思って結婚する方はいないと思いますし、、。」
「そうですね。一回したことあることについてはハードル低くなりますよね。結婚したことない人よりは経験があるので、また結婚ってすぐ決断できますよね。」
この人普段の面接でも割と堂々と失礼なこと言ってるんだろうなー、でも顔がいいなー。
彼はそのまま持論を展開した。
「いやー、でもびっくりしちゃいました。それは本当にすみません。でも、離婚歴隠してアプリやったりしないんですね?別に隠せるじゃないですか。そしたらもっといいね、来ると思いますよ。まだアプリ始めて一週間で僕しか会ってないんですよね?もっと会わなきゃダメですよ。」
んん?またこいつ何を言い出すんだ?
「隠しても、何の意味もなくないですか?どうせお話しすることですし。」
「だって隠していたら、もっと広く色んな方とマッチするじゃないですか。そこから会ってみたらバツイチでもOKになる方もいるかもしれませんし。隠さなかったら初めからマーケット狭めていますよね?」
「でも、バツイチが嫌だって方はこちらから願い下げなので、大丈夫です。」
「なるほど。そうですか。それなら確かに。」
我ながらよく言ってやったと思う。しかしアプリの戦略をダメ出しされるとは思っていなかった。この失礼さ加減から察するに、この人は結婚しなかったんじゃなくて、出来なかったんだろうな、と思った。こいつの襟をただしてやりたいが、私は他人にそこまでするほどお人よしではない。そしてこの人は紛れもなくバツイチ嫌悪派だ。顔が良くなければ暴れ出したいところだ。

「ライン教えてもらってもいいですか?またご飯行きましょう。」
お会計前、北斗さんの信じられない言葉に耳を疑った。一次面接突破したらしい。
「え、大丈夫です?全然私のこと刺さってないなって思ってたので、誘われないと思ってました。」
「刺さって、、るかはまだわからないですけど、お話しできて楽しかったです。」
この人は多分、私を一旦キープしているだけなのだろう。刺さってると返答しない所も上から目線だ。バツイチではあるものの、面接にはテキパキ答えた私は単に保留にされただけであると感じたが、顔がいいからもう一回会ってもいいかー。
ラインを交換して駅に向かって歩いた。

「そういえば宝塚お好きって言ってましたよね?一回見てみたいので、行く日に一緒にチケット取ってくれませんか?どうせ一人で行ってるんですよね?」北斗さんが無邪気に言った。
「是非お見せしたいんですけど、人気すぎて入手困難なんです。でも立ち見なら何とか2枚取れるかもしれませんが、それでも大丈夫です?」
「立ち見、、。公演て2時間くらいですか?」
「3時間です。真ん中で休憩挟みます。」
「じゃあ途中で帰るかもしれないですけど、立ち見で大丈夫です。別に途中で帰っても問題ないですよね?あと全部見たとしても、終わったら疲れてると思うので一緒にご飯とかは行きませんけど。」
「はあ、、。チケット取れたら連絡しますね、、。」
ヅカオタが聞いたらその場で血を血で洗う大戦が始まりそうな発言であった。
そしてこの俺が一緒に行ってやる、と言わんばかりの相変わらずの上からスタイル。
最後の最後まで失礼発言を重ねてくるこの男は大したものである。もはや腹も立たない。

「僕この辺、前歩いたことあるので、道教えますね。JRはあっちですよ。まっすぐ行けば着きます。僕は地下鉄なのでここで。」
北斗さんは別れ際急に土地勘を出してきたが、この周辺はおそらく私のほうが詳しい。
「そうなんですね!ありがとうございます。では今日はありがとうございました!」
ようやくお別れした。
すげえ疲れた。いくら顔が良くてもこれはダメだ。
その日のうちに、宝塚のチケットっていくらするんですか?とラインが入っていたので、丁寧に価格帯を返信したが、それへの返事も含めて、以降北斗さんからラインが来ることはなかった。
先がない相手に対する突然のサ終は私もよくやりがちなので一向に構わないのだが、ただ失礼な人だったなという印象だけが残った。

会っているときは、顔がいいからいっかーで諸々受け流していた。しかし振り返るとまあまあ怒りが湧いてくる発言が多く、後出しで彼のことがどんどん嫌いになってきた。思い出が1ミリも美化されない、むしろどんどん悪化していくという驚異的な対人体験である。
顔を見ると思い出すので、ついでに全く関係のない松村北斗くんのことも嫌いになってきた。これはとんでもない副産物である。ほっくんのことあんなに好きだったのに。SixTONESのファンクラブ入らなくてよかった。

アポに行って人生の推しが一人減る、という事件であった。

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