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2022年ことしのおかず大賞

 ご来賓の皆さま――

 この度はお忙しい中、また数多くの記事がある中、2022年ことしのおかず大賞授賞式へお越しいただき、心より深く御礼申し上げます。

 司会進行は私、タベル・ノ・スキーが務めさせていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。

 ことしのおかず大賞は、本ページの著者でありまするしあ昌が、2022年に食しましたおかずの中から、もっとも印象に残った逸品に贈られる賞です。独断と偏見のみで選出されたこの賞に、名誉なんていうものは一切ございません。よって賞典がないことも、言わずもがなでしょう。

 本賞の目的は、1年間365日、貴重な命をいただきながら生かされていることを心に刻み、またこの受賞式を通して、命を生み出す母なる地球、食材を育ててくれる生産者、私たちのもとへ食材を届けてくれる運搬業者、心を込めて調理してくれる料理人、そのほか食に関わるすべての方々に対し日頃の感謝を表し、さらには今回ご来賓の方々とともに、お互いの命、すでに旅立たれた命、そしてこれからやって来る命を祝福することにあります。

 さて、前置きが長くなってしまいましたが、大賞の発表に参りたいと存じます。2022年ことしのおかず大賞は――

(だだだだだだだだ~~~~~~だん!)

カレイのずし

です。

(ぱちぱちぱち~!ひゅーひゅー。どんどん。ぱふはぷ~)

 さて、こちらのおかずでございますが、ご存知でない方も多いかと存じますので、ご説明差し上げます。

 韓国には、カジャミシッケ(가자미식해)と言われる料理がございます。カジャミ(가자미)が魚のカレイ、シッケ(식해)が「食醢」と書いて熟れ鮨を意味します。小さく切ったカレイに、粟飯、細切りにした大根、にんにく、生姜、粉唐辛子、塩などを混ぜて熟成させた発酵料理です。

 もともとは北朝鮮の咸鏡道(함경도)地域の郷土料理ですが、朝鮮戦争で故郷を追われ、江原道(강원도)束草市(속초시)に避難した人々によって南の韓国に広まったと言われています。

 それではここで、審査委員であり審査委員長でもあり、さらには主催者でもありまするしあ昌から受け取った受賞理由を、僭越ながら代読させていただきます。

「11月のある日、発泡スチロールの箱に入って、あなたは我が家にやってきました。一見、普段からよく食べる大根の和え物「ムセンチェ(무생채)」のようでしたが、よく見ると、魚の切り身が入っているではありませんか。しかも、どう見ても生です。それはそれは驚きました。

 食べてみて、さらに驚愕しました。あま~い。小沢さんもびっくりの甘さです。それは「強い甘み」という意味ではなく、「甘い」と「幸せ」は同義語だったのだと疑わないような幸福を呼ぶ甘さでした。水分が適度に抜けた大根は、大地の爽やかさと食感の楽しさを伝えます。そこに、ゆっくりと、しかし確かな存在感でやって来る刺激のある辛さ。味の幅を広げ、口の中には宇宙が広がるようでした。そこで感じたのは、骨がそのまま残る小ぶりにカットされた生のカレイです。噛みしめながら感じるのはほのかな潮の香りで、生臭さは一切ありません。柔らかい骨と弾力のある肉厚の身は独特で、ああ、美味しいという言葉はこのためにある・・・そう感じさせる逸品でした。

 あなたの素晴らしさは、味だけではありません。一つの料理としても優秀なのに、決してそれに驕ることなく、それだけに頼ることなく、ご飯やお肉との相性も抜群だったのです。あなたがいるだけで、純白に輝くお米の深みは増しました。豚肉とは長年のパートナーのようにお互いの味を引き立て、見事な調和を生み出していましたね。多様性と一体化が具現化すると、あなたになるのかもしれません。感服です。

 いつ、どこで、誰といても、最高の食事を演出するあなた。しかも長持ちはするし、発酵食品で健康にも良いときた! その功績を称え、ここに表彰いたします」

(ぱちぱちぱち~)

 さてここで、今回受賞されましたカジャミシッケ様よりご挨拶を賜りたいところではございすが、皆さまもご存じの通り、カジャミシッケ様は料理でいらっしゃいますのでお話しすることができません。熟成され、食べられるだけの運命です。

 非常に残念ではございますが、しかし、もしお気持ちを伺うことができるのであれば、「この受賞を機に少しでも多くの方にカジャミシッケを知っていただき、皆さまの食と健康に一役買うことができれば、これ以上に嬉しいことはない」そう仰るに違いないと、恐縮ではございますが、推測する次第でございます。

 以上を持ちまして、2022年ことしのおかず大賞授賞式は終了させていただきます。

 来年の受賞に関しましては、現時点で予定はしているものの、どんなレストランのシェフよりも気まぐれな主催者でございますので確定ではない旨、予めご了承いただけますと幸甚です。

 それでは最後になりますが、皆さま、良いお年をお迎えくださいませ。

 なお2023年にお越しいただいた方におかれましては、謹んで新春のお慶びを申し上げますと同時に、本年も皆さまにとって図らずもぴょんぴょん飛び跳ねちゃうくらい嬉しい出来事が続く一年となりますよう、お祈り申し上げます。


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