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noteで学ぶ高校物理 :熱力学1 (気体の状態方程式)


はじめに

3,4回の記事で高校範囲での熱力学を解説します。
ポアソンの式の導出などでは微積分を使用しますが、そのような発展的な説明より、むしろ基本的な事柄の説明にスペースを割く予定でいます。
また重要語句は、初出の際は太文字にする事とします。
また特に強調したい重要な部分でも太文字を使用します。
今回の記事では気体の状態方程式を扱います。

様々な量

気体の「状態」とは何で決まるものでしょうか。
例えば、熱い冷たい、匂い、色なども気体の状態を表す言葉です。
このような言葉(概念)は他にも無数にあり、しかもどれを重要視するかは状況や人によるでしょう。
例えば出かける時は自分の「匂い」や外の「気温」が気になるかもしれませんし、洗濯物を干す時は「湿度」が大事です。
このような気体にある色々な状態の中で、「物理的に」あるいは「熱力学を学ぶ上で」大切なモノは次の4つです。

圧力  : $${pressure}$$
体積(容積) : $${value}$$
モル数(状態量) : $${mole number}$$
絶対温度 : $${temperature}$$

なぜこの四つなのでしょうか。
一つには、比較的簡単に客観的な見方ができるという理由があります。熱力学は、物理学の中でもとても古くからある分野ですが、熱力学が完成した頃、まだ世の中の多くの事は分かっておらず、その中でも選りすぐりに客観視できる量についての研究が進んだのです。
また、熱力学は工業と共に、もっと言えば蒸気機関のようなエンジンと共に発展してきました。この4つの量は物理的だけでなく、工業的に大事な量なのです。

そして気体、正確には理想気体(理想気体についての詳しい説明は気体分子運動論で)に対してこの4つの量を結びつける、次の式が成り立ちます。

$${PV = nRT}$$
$${P}$$ : 圧力 $${V}$$ : 体積(容積)
$${n}$$ : モル数(物質量) $${R}$$ : 気体定数 $${T}$$ : 絶対温度

ここで前述4つの量と、新たに登場した気体定数について少し詳しく述べておきます。


各文字についての解説

①圧力
これは力学範囲ですが、力$${F}$$が面$${S}$$にかかっているとき(あるいは面$${S}$$が力$${F}$$を与えるとき)圧力$${P}$$について

$$
\tag{1}P = \cfrac{F}S
$$

あるいは、

$$
\tag{2}F = PS
$$

(1)は圧力の定義式となります。この式を変形(分母を払う)事で(2)を得ます。熱力学の問題を解くうえでは、(2)の方がよく使うでしょう。

圧力の定義を言葉で表すならば、「単位面積あたりに、面Sにかかる(面Sが与える)力」となります。

②体積(容積)
わざわざ()をして容積と書いているのは、気体が面を持たないからです。
固体や液体には面(机の表面や水面など)を持ち、それがモノと別のモノとの境界線となり、それの内側で体積が決定されますが、気体にはそのような境界線は存在しません。なので、気体の体積とは、つまるところその気体が入っている容器の容積(容器の面の内側で決定される体積)ということになります。

③モル数(状態量)
原子の種類によらず、$${6.02×10^{23}}$$個の原子が含まれている時、それの量が 1 mol であると決めます。
鉛筆でもビールでもドーナツでも、12個あれば全部「1ダース」と呼ぶのに似ています。
また

$${N_A = 6.02×10{23}}$$

と、この個数に文字を当てます。この定数をアヴォガドロ数といいます。
このように文字を決めれば、ある袋に$${n}$$ mol の気体が詰められているとすると、その袋内の気体分子の総数$${N}$$は、

$${N = nN_A}$$

となります。この式は後の記事(気体分子運動論)で使います。

④気体定数
万有引力の万有引力定数$${G}$$や、クーロンの法則の定数$${k}$$と同様に、$${PV}$$と$${nT}$$との量的関係の帳尻を合わせるために式に加えられている定数です。逆に言えば、各量の単位をうまく調整すれば、この$${R}$$という文字はいりません
具体的な数値としては、

$${R \fallingdotseq 8.31}$$

本当はもっと桁が続きますが、問題を解くうえではこの桁数までで十分でしょう。また気体定数は問題内でほとんどの場合与えられますから、最初は無理に覚える必要もありません。

⑤絶対温度
私たちが普段気温などで使う摂氏(℃)の他に、より科学的な温度として絶対温度(K)があります。Kはケルビンと読みます。
詳しくは気体分子運動論での記事で述べますが、物体が熱い(温度が高い)というのは物体を構成する分子の分子運動が激しいことを意味します。逆に物体が冷たいとは分子運動が穏やかであることを意味します。
上の事を認めれば、温度には下限があることが分かります。
つまり分子が「運動しない」、止まっている時温度が究極的に低くなり、その時の絶対温度を 0 K としてそれを基準に温度を決めます。摂氏は水が氷るときの温度を 0 ℃ としていますが、この時絶対温度は 273 K となる事が知られています。これを用いると、気体の温度が$${t}$$ ℃ である時、$${t + 273}$$ K となります。


状態方程式の見方

もう一度方程式を見てみましょう。

$$
PV = nRT
$$

この式で、モル数$${n}$$の気体をある容積の変化できる密閉容器に入れたとすれば、変化しうる値(変数)は$${P}$$、$${V}$$、$${T}$$の三つです。
仮に、密閉状態にある気体の圧力が$${p}$$、体積が$${v}$$であると分かっているとします。この時、状態方程式を変形して、

$$
T = \cfrac{PV}{nR}
$$

となりますから、これより気体の温度$${t}$$は

$$
t = \cfrac{pv}{nR}
$$

と分かります。
また、逆に温度が$${\tau}$$、体積が$${\varpi}$$と分かっているとすると、その時の圧力$${\pi}$$は、

$$
\pi = \cfrac{nR\tau}\varpi
$$

となります。
そして最後に、温度が$${\Tau}$$、圧力が$${\varPi}$$の時、体積$${\varsigma}$$は

$$
\varsigma = \cfrac{nR\Tau}\varPi
$$

です。
この上三つから分かる通り、気体は二つの状態量を決定することでもう一つの状態が自動的に決定します
これは気体(理想気体)のとても重要な性質の一つです。また上のような状態方程式の使い方は、問題を解くうえでとても基礎的でかつとても重要です。

上では変数を圧力、体積、温度の三つとしましたが、量としてはまだモル数があります。もちろん、このモル数が変数となる場合も存在し、高校では気球がそれにあたります。この場合、気球の球の部分の容積は決まっていますから、体積が定数となり、変数は圧力、温度、モル数の三つとなります。
また、状態方程式は変数を三つ持ちますが、これは直感的に気体の状態を追いかけることはほぼ不可能であることを示しています。
「温度が上がっているから体積はおおきくなるだろう」、「圧力が低いから温度も低いかな?」という感覚的な推論は全くあてになりません。
実際、$${T}$$が大きくても圧力がさらに上がっていれば体積は逆に小さくなりますし、圧力が下がっても体積が大きくなれば温度が上がる場合も十分あります。

さいごに

今回はここまでです。
誤りの指摘や質問等はコメントでしていただけるとありがたいです。
次回は「熱力学第一法則」を扱います。

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