見出し画像

個人的The Sounds Of The Year 2021を作った話

 年末ということもあって、友人が立ててた「2021年の曲で良かった曲10選を紹介しあおう」という企画に参加しました。ただ、普通に10曲選んで参加するだけじゃなくちょっと捻りたくなったので、ジャンルを分けた個人的な10の賞を選定するアワード形式で参加しました。選定する範囲も楽曲単品だけではなく音楽を含むもの全体に広げてみました(この形式はその時直近でみたThe Game Awardsの影響)。あれこれ色々書いたので、せっかくだからこちらにも置いておきたいと思います。
 この企画に参加した時は雑誌記事とか雑誌ライクなweb記事とかをイメージしてそんな感じに仕立ててみていました。が、同じことはこちらではできないので、内容を再編集して放流しておきます。

企画に参加した時の雑誌記事的なイメージで作ったもの


レギュレーション

 これが今回の賞を選んだ際のレギュレーションになります。

・2021年リリースで出会った印象に残る音楽にまつわる諸々の中から、ジャンルを分けて10の賞を選定
・各賞受賞楽曲の中から年間大賞を決定
・賞は単品の曲だけでは無く、曲を含む作品などにも贈られる
・あくまでも自分が出会った作品からの選定(なのでプールが狭い)
・個人的な主観で「印象に残った強さ」を重視して選定(思い出補正が強い)

 各賞にツッコミどころはあるとは思いますが、あくまでも個人的な選定なのであしからず。


個人的各種部門賞

 まずは10の部門賞です。

Best Vocal Song Award:『爆笑 / syudou』

人間ボーカル曲で印象に残った曲に贈られる賞

 「うっせぇわの人の面白い曲がでた」という触れ込みで友人に紹介された一曲。確かに一聴した段階では、メロディやアレンジのどこを取ってもキャッチーで、ボーカルのパワフルな表現力で芯の強い芸人の生き様を伝えてくる面白い曲だなぁと思ったのですが、そこで友人に「もう一度この曲が何の曲なのか歌詞に注目して聴いてみて」と言われ聴き直してみたところ、この意味が分かってしまい文字通り爆笑しました。
 個人的にこの曲で触れたいのがアレンジ表現で、「お笑い」をテーマにした曲なので随所随所にコミカルな表現を散りばめながらも、それらを浮かせることなくカッコよく綺麗にまとめている手腕が流石だと思います。
 特にサビで繰り返される「同音程表拍4分4連打」は下手すると超ダサくなりがちなリスキーなメロでありながら、そこに笑い声を歌詞に当ててボーカルの表現力で自信みなぎる強い印象を付与することで、逆にこの部分がこの曲の顔となるくらいのキャッチーさを与えているのは凄いと思います。
 また、この部分が「ダッサw」と笑われたとしても、芸人としては用意したウケポイントで笑われることが本望という、テーマ「お笑い」で包含できてしまうのが、この曲の良さを更に深くしていると感じます。
 ただのアレンジやボーカルが強い曲に留まらずに、バックストーリーやテーマを惜しみなく曲に落とし込みながらも、破綻させることなくキャッチーに仕上げたことに、凄みを感じた一曲でした。

Best VOCALOID Song Award:『Jょなのかマジック / うみゃ』

VOCALOID主体曲で印象に残った曲に贈られる賞

 ボカコレ2021春登場の初音ミク&音街ウナ+伊織弓鶴(ナレーション)という編成の一曲。古のニコニコらしい雰囲気のポップでネタ満載でありながら影のあるストーリーの曲です。
 検索避けのお願いのナレーションから始まり、暗そうなテーマの曲が始まるかと思いきや、急に明るい曲が始まって、陽気な歌詞だけどよく聴くとストーリーは暗くてと、何重にも聴く側を裏切ってくる楽しい曲です。
 歌詞の言葉遊びや音ハメなどの細かいテクニックも上手いですし、Bメロはよく聴くとかなりテクニカルと技術面でも聴き飽きないです。なんとなく家の裏でマンボウが死んでるP氏やsasakure.UK氏あたりを想起させられます。
 この時代にこのようなMVも合わせて「ニコニコらしい観る曲」でハイクオリティな作品を出してきたのが個人的にかなり推せるポイントになった一曲でした。

Best Synthetic Vocal Song Award:『ハルノ寂寞(Vo. 弦巻マキ) / 稲葉曇』

合成音声曲(非ボカロ)で印象に残った曲に贈られる賞

 様々な展開を見せ始めた「弦巻マキ」。その展開の一つである「Synthesizer V 弦巻マキ」の公式デモ曲として発表されたのがこの曲です。この曲が登場した時のインパクトが個人的に大きく印象的だったので今回の受賞となりました。
 ボイロの「弦巻マキ」(正確には「VOICEROID+ 民安ともえ」)と比較して、特徴でもあった声のクセはまっさらになり、元気さや陽気さが象徴的とされているキャラのアンニュイな曲ということで、初めて聞いた時はかなり意外で驚いたという印象が強かったです。また、歌詞だったり映像だったりをよく観察してみると、おや?と思うところがちらほらみられて色々考えさせられたのも印象に残っています。「弦巻マキ」の新たな一面を感じさせられた印象に残る一曲です。

Best Game Sounds Award:『東方虹龍洞』

サウンド面が印象に残ったゲームに贈られる賞

 東方新作整数タイトルの東方虹龍洞は、ゲームとしてもストーリーとしてもめちゃくちゃ面白いところに過去作を思い起こさせるファンサが沢山用意されているのですが、サウンド面でも新しさと懐かしさを感じる要素双方が準備されていました。
 東方曲らしさとされる「キャッチーなメロ」を全面に押し出す曲も多く存在するのですが、それらを抑えた「BGMとしてのリフ」を主軸にした曲が増えたのが印象的でした。「妖異達の通り雨」(1面道中)「神代鉱石」(4面ボス)「ルナレインボー」(6面道中)あたりの印象的なリフだけどBGM寄りな曲たちだけでなく、「星降る天魔の山」(5面ボス)「あの賑やかな市場は今どこに ~ Immemorial Marketeers」(6面ボス)「幻想の地下大線路網」(EX道中)などのメロが強い曲でも古のキャッチーなメロと比べるとゲームを引き立てるために一歩引いた演出としての曲のように感じました。
 個別の曲の世間的な人気は東方人気投票などをみると、この作品の曲は従来の作品ほど人気はないようですが、それは「ゲーム体験を支えるためのBGM」としての役割にシフトした結果とも言えるでしょう。それでも東方曲としての個性は失われておらず新たな方向へと進化して行ったのだと実際にプレーして痛いほど感じた作品でした。

 ちなみに、似たような話をもっと高度な音楽的な分析を通じてしているとても良いnoteがあるのでこちらもどうぞ。


Best Music Game Music Award:『Apollo / TJ.hangneil』

音楽ゲーム楽曲で印象に残った曲に贈られる賞

 本当に気持ち悪いくらいに凄い曲。
 同作者の「神威」や「OZMA」などと共通して、複数の特徴的なリフをサンプリングとブレイクビーツと共に絡めながら更に加工していくスタイルは健在。そこに加えて、リフ群Aが途中で現れた対極的なリフ群Bと絡み合いながら侵襲されていくという構成が上手くできていて、得体の知れないものに侵略される気持ち悪さが感じられます。
 また音ゲーの超大ボス曲として登場しただけあって、BPMも拍子も曲中で幾度も変わり細かいパッセージもあるなど、ふんだんに音ゲーボス要素も含まれているのですが、それらが蛇足というわけではなく、曲として意義のあるものにもなっているのも凄いポイントです。
 SEGAのアーケード音ゲー「オンゲキ」の超大ボスとしての曲ですが、それを抜きにしても、映像作品としての凄さがボス級の作品でした。

Best Anime Sounds Award:『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』

サウンド面が印象に残ったアニメに贈られる賞

 サウンド面だけじゃなくキャラのたち方や脚本の凄さなど様々な方面で素晴らしいSF作品。
 音楽面では、ゴジラに詳しくなくとも聴けばなんとなくゴジラシリーズ感が分かるリスペクトの含まれたBGMが散りばめられていたり、時にコミカル時にシリアスな雰囲気を際立てる様々な曲が作品を彩ってたりしています。
 また、特に音楽面で印象的なのが「ALAPU UPALA」という劇中曲です。物語の大きな謎として1話からずっと流れる「ALAPU UPALA」という民謡は、その不思議な響きも相まって、この作品に深く引き込んでくるものとなっています。
 サウンド面の話をすると「音楽の持つ効果を様々な方面で感じることできた面白い作品でした」と結論づけることになるのですが、それよりもまず「SF作品としてめちゃくちゃ良い作品」ってことは言わせて欲しい。

Best Anime Song Award:『雑草魂なめんなよ! / Taiki』

アニソンで印象に残った曲に贈られる賞

 「八十亀ちゃんかんさつにっき 3さつめ」の主題歌であるこの曲。名古屋(及び東海)をネタにしたアニメにふさわしく、勢いと迫力でパワフルにそしてキャッチーにいくスタイルは、まさに名古屋という趣でとてもハマりました。
 また、TVサイズでは1サビしか流れないので、アニメを見ている頃はこの曲の全容を知りませんでした。その後見た、フルMVは、TVサイズからなんとなくこうだろうと思ってたのとは違っていたのですが、なかなかに面白いものでこちらもツボにハマりました。
 TVサイズとフルMVの二面性がどちらも面白くてツボにハマった一曲でした。

Best REMIX Award:『Time-Warped After Chopping My Stag Beetle (DJ Shimamura Remix)』

Remix曲で印象に残った曲に贈られる賞

 要するに「クワガタにチョップしたらタイムスリップした(DJ Shimamura Remix)」です。
 クワガタチョップはまさに世代で、更にDJ Shimamura氏によるUK Hardcoreのリミックスの方向性もまさにあの頃ハマったサウンドに仕上がっていたので、もうブッ刺さりな一曲でした。

Best Virtual Award:『Beetle Found a Mate / ISA』

バーチャル界隈で印象に残った曲に贈られる賞

 Vでこういうジャンルをやる人いるの!?と驚かされた一曲。この手の方向性は全く詳しくないけど、それでも洋楽インディーらしさは伝わるとても良い曲で好き。ドライブしてる時のラジオとかで流れてきてほしい曲。
 ISA’s SONGROOMはいいぞ。

Best Music Entertainment Award:『Ghost Astley Tokyo - Music Video』

音楽を使ったエンタメ作品で印象に残った作品に送られる賞

 「幽霊東京」と「Never Gonna Give You Up」のマッシュアップのMV。マッシュアップ音源自体は2020年投稿ですが、そこに別の人がMVをつけて投稿したのが2021年。このMV作成時に追加された部分があるのですが、この作品をきっかけにRickrollについて調べた後に改めてそこを観てみると、納得するものがあり、MV作者の界隈への造詣の深さを感じさせられました。
 また、個人的に「幽霊東京」単体はそこまでハマっていなかったのですが、このMVとの出会いでそのオケの素晴らしさにも気づかされました。
 マッシュアップのクオリティ、MVのクオリティ、そして映像に散りばめられたネタの数々とこの作品に深く触れれば触れるほど面白さを感じるとても楽しい作品でした。


個人的The Sounds Of The Year 2021(年間大賞)

 最後に各部門賞の10作品から年間大賞を選定しました。

 年間大賞のThe Sounds Of The Year 2021は『Apollo / TJ.hangneil』となりました。この作品は音楽の技術的な凄さも役割としての凄さも映像作品の凄さもとても印象的かつ衝撃的で個人的にインパクトがかなり大きかったのでこの曲を選ぶことになりました。


あとがたり

 友人の企画から始まった今年の音楽の振り返り。やってみたら思っていた以上に面白く、何より色々書いてみている中で「自分がどんな要素を大事に聴いていたのか」が確認できたのが面白かったです。こうして振り返ってみると、今年は音楽の音の部分というよりも、その音楽の持つストーリーであったり役割であったり、音の周りにある情報を特に聴いていたようです。あまりそういう聴き方を意識して行っていた訳ではなかったので、こうして認識できたのは良い体験でした。
 ちなみに、今回の賞の選び方ですが、実際のところは先に作品を選んだ後にそれらに賞をあてた形です。今回選んだ作品の他にも10選に入れたい候補は数作品あったので、ジャンルをおおよそ分けて、10選作品を決めて、それらに賞をあてるという作戦を取りました。その結果、昔の自分なら入れてそうな賞が消滅していたりしたのも、昔と今の聴き方の変遷を感じられてこれもまた良い体験でした。
 こういうおもしろい体験をするきっかけとなる企画を提供してくれた友人には本当に感謝しかないです。そして皆さんもいろんな形式で今年の音を振り返ってみてはいかがでしょうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?