見出し画像

とあるシェアハウスで、虹を手にするまでのおはなし

これは私が、とあるシェアハウスで過ごした2年間を通して、虹を手にするまでのお話。

◼️プロローグ

一つの、忘れられない出来事がある。

「るかさんるかさん、ねえ、起きて。」

自室の扉の前から、隣の部屋の住人が慌てたように呼び掛けてくる。
勘弁してくれ、と思った。だって今は土曜日の朝7時。休日くらいもう少し、いやあと3時間くらい寝ていたい。どうして彼女は平日も休日も朝早くから活動できるのだろうか。若いって良いなぁ。

「一瞬でいいから、お願い。見せたいものがあるの」

私は布団から動き出せずうとうとしていたが、彼女の少し必死な声に負けて、重い腰を上げて部屋から出た。

「見て見て!家の中に、虹ができてるの。きれいだね!」

何のことはない、太陽光の反射で影が虹色になって壁に映っていた。
でも、彼女がとても嬉しそうに言うから、たしかに美しく見えたのだ。

「きれいだね。見せてくれてありがとう。」

彼女は屈託のない笑顔で、にこにこしていた。まるで陽だまりのようなあたたかい表情だった。

日常の中の、あの虹の出来事は今も印象に残っている。

◼️藍

「どこかに良い物件ないかなぁ」

社会人生活にも慣れてきたし、年齡も20代後半に差し掛かった。ありがたいことに私の実家は都心に近かったため、これまで留学以外に一人暮らしをした経験がなかった。そろそろ実家を離れ、自分の生活を作ってみたいと漠然と思うようになっていた。

そんな時、学生時代に参加した国際交流事業関係の友人による、シェアハウス住人募集の投稿をSNS上で発見した。
日本橋エリア、個室あり、キッチンなどの設備充実、同世代男女6人、そして敷金礼金0。――これは気になる。実家よりもさらに便利な立地で、家賃も安く、何より初期費用がかからない。

正直彼とはすごく仲良し!という訳でもなく、何度か話したことがあるくらいの関係だった。若干ぎこちなく敬語とタメ口を交えながら、内覧も兼ねたカジュアルなご飯会というものに参加表明をした。

シェアハウスの名前は『あいまいえ』。住む人と訪れる人、運営側と参加者。内と外の境界線があいまいな、港のような家。そして、住人が安心して本音を出しあうための対話の文化を持つこと。
そんなコンセプトと文化を聞いて、素敵な家だと思った。

緊張しながら参加したあいまいえのご飯会。住人たちと、話をした。みんな、とても気持ちの良いコミュニケーションをしてくれる方ばかりだった。

「あ、この人たちと一緒に暮らしたいな」

直感的にそう思った。もちろん内装や設備もロケーションも文句なし。文化とコンセプトにも共感する。
そして何よりも、人が魅力的だったのだ。

ご飯会が終わった後、シェアハウスに住みたいですか?という意思確認の連絡が来たので、はいと回答。
1ヶ月後、私は晴れてあいまいえの住人になれるという通知をもらうことになる。

藍色が持つ意味は、直感性。

◼️紫

あいまいえに住んで1ヶ月。最初の数日こそ緊張していたが、案外と人は慣れるものだ。私はここでの生活にすっかり馴染み、楽しむようになっていた。

気づいたことが一つ。ここには、Give & TakeよりもGive & Giveの精神を持つ人が集まってくるということ。しかもみんな、ありがたみを持たせるわけでもなく、自然にふるまうのだ。
柚子をお裾分けしてくれる住人、
冬至なので柚子風呂を用意してくれる住人、
クリスマスプレゼントにシャンパンを置いて行ってくれる元住人、
出張先のお土産を持って帰って来てくれる住人、
皆の温かさに支えられて生活をしている。

自然に人にGiveするという心の美しさに触れた。
私も、他者に心のあたたかさを向けられる人になりたい。

紫色が持つ意味は、美。

◼️橙

あいまいえでの生活が軌道に乗ってきたところで、私は時々友人を家に招くようになった。便利な場所にあったため、ありがたいことに多くの友人が訪ねてくれた。どこにでも出やすい立地だから、自分フットワークも格段に軽くなった。

普段から、あいまいえには沢山の人が出入りしていた。不思議なもので、住人の友人は、どこか似たような雰囲気を醸し出す。初対面にもかかわらず、とても心地の良いコミュニケーションを取ってくれる方が多いのだ。
社会人になると、新しい友人というものは、作りに行かないとなかなか自然にはできにくいと思っていた。あいまいえを通して、素敵な友人がぐっと増えたのは、本当に幸運なことだ。

橙色が持つ意味は、社交性、親しみ。

◼️赤

あいまいえでの生活を半年ほど過ぎたところで、私は誕生日を迎えた。
正直、自分の誕生日に頓着しないため、あくまでも普通の日として過ごしていた。そのつもりもなく友人と家でご飯を食べていたのだが、友人がお祝いしてくれた時は照れくさくも嬉しかった。同時に、もしかしたら誕生日当日に声を掛けたから気を遣わせてしまったかな?と少し申し訳なくなった。

友人と解散した後、満足感と少しの疲労感でぼーっとしていたら深夜になった。あぁ片付けて寝ないとな、と思って立ち上がろうとしたところ、住人たちが起き出してきた。

「「「おめでとう〜!!!」」」

――嘘でしょ、深夜だよ。みんな疲れてるはず。サプライズで用意してくれたの??
私は自然とこの言葉が出ていた。

「皆んなが愛おしいよ、ありがとう。」

気がつけば、私にとってシェアハウスの皆んなはもはやただの同居人でも友人でもなく、
友達以上血縁未満、
実の家族に近いような、そんな特別な存在になっていた。

赤色が持つ意味は、愛。

◼️青

気がつけば、あいまいえに入居して1年程が経っていた。
男女で、年齢も近いけれどそれぞれ違う、6人の他人が一緒に生活を作るということは、必ずしも楽しいことばかりではない。今思えば、些細なことだったかも知れない。それでも毎日の不満が少しずつ、確実に溜まっていた。鍵をかける頻度、洗い物の溜まり具合、洗濯物の放置、机に放置されたままのゴミ…。一つ一つは決して大きな事件ではなかったかも知れないが、ゆっくりと、私の中の「不満の水」が溜まっていった。
そしてある日、コップの中の水が一気に溢れ出したのだ。

「ごめん、もう無理。ここを出て行きたい。」

気がつけば、隣の部屋の親友に向かってそう呟いていた。親友も色々と溜まっていて、お互いに少し泣きながら色々な悩みや不安を話した。沢山話して、泣いて、考えて、後日「緊急住人会議」を開催することになった。

緊急住人会議は朝に行われた。
最初は私も親友も、うまく言葉にできなかった。
ここで話さなかったら、何もわかりあえずに喧嘩別れのような形になってしまう。いや、喧嘩にすらなっていない。
私は、もしかすると自分の発した考えが拒絶されるかも知れないと思うと、どうしても怖かった。この大切な住人たちに拒否されてしまったら、ショックでもうやっていけないかも知れない。

でも、「よくわかりあえないままに関係が終わってしまう」ことの怖さ、哀しさ、悔しさのほうが勝った。親友と私は、少しずつ今抱えているモヤモヤとした気持ちを、たどたどしくも言葉にしていった。

結果は、特に軋轢もなく、意見を受け入れてもらった。また、誰しも悪気があったわけではなく、それぞれの考え方の違いから行き違いが発生していたということがわかった。
各々が、快の部分と不快の部分の境界が全く異なるということも、改めて共有しあった。
当たり前のことでしょう、と思われるかもしれない。でも、やはり言葉にして対話して初めて、「人はみんな違うからわかり合えないことをわかること」の大切さに気がつけるのだと思った。

緊急住人会議での対話を経て、私は、この人たちと心からつながっていいんだ。と思えた。
同時に、私は私を縛っていた家族観からも解放された、気がする。
これまでは、家族や親類とは「どうして家族なのにわかってくれないの」という不満から発生する軋轢が多かった。
しかし、家族だって他の人間なのだ。自分の同位体ではない。言葉にもしないで全部わかって欲しいというのは、私のエゴだったのだろう。
逆に、血が繋がっていなくても、付き合いの年数が長くなくても、家族に近いような関係を築くことができるのだと知った。

青色が持つ意味は、信頼。

◼️緑

あいまいえでの生活も2年が経過した。
この2年というのは、あいまいえにとっても大きな節目、物件の契約更新のタイミングだ。

管理人夫婦の環境変化、多くの住人の環境変化…様々な経緯があり、対話を重ねた結果、あいまいえは2020年10月末をもって終了することが決定した。私はあいまいえが終了することには、結果的に納得していた。
もちろんこの場が無くなることは寂しいが、いったん都内の実家に戻って、また次の住居を探せばいい。
ただ、この物件はどうなるのだろう?家族向けにしてもやや大き過ぎるし、構造も少し特殊なこの物件は、いくら立地が良くてもしばらくは空家になるということも大いに有り得そうだ。
これは私のエゴかも知れないけれど、どうしてもこの素敵な物件が、大事に使ってもらえる人に渡って欲しかった。

私は迷わず、一人の友人に連絡をした。
その友人は、個人の「らしさ」を活かした「やくどころ」を仲間たちと一緒に創っていくようなコミュニティを育んでいた。そんな彼なら、この場をきっと彩りのある、陽だまりのような場所にしてくれると思うから。

「この家を引き継ぐことを考えて欲しい」

友人に相談する内容にしては、重過ぎる。そんな急な話にもかかわらず、彼は、真剣に聞いてくれた。

管理人夫婦、住人たちも含めて話し合いを何度か重ね、あいまいえの物件は、その彼が創るコミュニティに渡ることが正式に決定した。
あいまいえという名前ではなくなるけれど、この空間が、信頼できる人たちに渡ることになって本当に安心した。
彼らはきっと、この場所を大切に大切に、育んでいってくれるだろう。

緑色が持つ意味は、希望、安心、育つ。

■黄

あいまいえの解散が近づいていく中で、管理人夫婦、歴代住人、そして現住人で卒業旅行をした。

旅先でも、やはりあいまいえらしく、対話の時間がたっぷり取られた。
円卓を囲んでこれまでのあいまいえ生活について一人一人棚卸しをした。
なぜあいまいえに住もうと思ったか、
暮らす中で起きたこと、得たこと、
あいまいえの良いところ、好きなところ、
印象に残っている出来事、
住人のエピソード
などを一人一人の口から話し、思いを共有した。

思いのほか、しんみりすることもなく、むしろ清々しい気分になった。
私たちよりも先にあいまいえを卒業した歴代住人たちとも関係が太く長く続いていることを体感し、場としてのあいまいえは一旦無くなっても、皆との関係性の太さは変わらないだろうという確信を持てるようになった。
そして、お互いがこの先の未来にどんな道を進んでいくのかが楽しみになった。
私たちは、家族のような関係から、お互いの人生を応援し合う同志のような関係にシフトしていくのだろう。

私も、あいまいえで得た7色の宝物を持って、自分の道を歩んでいく。

黄色が持つ意味は、喜び、自己。

■虹

あいまいえという場で過ごした、あっという間の2年間。身体的にも心理的にも、本当に沢山の経験をした。同じ釜の飯を食べ、苦楽を共にした大切な仲間たち、あいまいえのご縁で出会った全ての方々に感謝したい。

あいまいえでの生活は、私の人生の中で間違いなく、彩り豊かに、キラキラと輝いていた…まるで虹のような尊い日々だった。

これから、今まで育んだご縁がさらに紡がれていくことが、楽しみでならない。

虹色が持つ意味は、万感の想い、希望。

■エピローグ

ここまで読んでくださりありがとうございました。

こちらの文章は「あいまいえ卒業アルバム」企画に向けて書いたものです。
本当は紹介したい具体的なイベントやエピソードが山ほどありました。
でも、その辺りは他の住人たちが素敵な文章で綴ってくれているので、今回は少し自己満足も入りながら、このような形で書かせてもらいました。

最後に、シェアハウスという暮らし方に興味を持ってくださった皆さんへ。
誰かと生活を共にすることは、間違いなくとても学びと価値の多い経験です。少しでも興味を持ったら、ほんのちょっと勇気を出して、飛び込んでみてください。私で良ければ、いつでもお話します!

◼️Special Thanks

・一緒に虹色のような生活を紡いでくれた住人たち
(ぺぺ、谷よっちゃん、ぽん、たくやさん、みかん、かっちゃん、にかちゃん、まいまい、しょうこちゃん)
・あいまいえの繋がりを大事にしてくれている歴代住人たち
(かまきち、ゆかりちゃん、かぴこさん、大地さん)
・ずっとあいまいえを守ってくれた管理人夫婦
(まっちさん、どひちゃん)
・一足先に卒業になった、あいまいえのお隣シェアハウス「SBL」の皆さま
・あいまいえの襷を受け取ってくれた、「コアキナイハウス」の皆さま
(匠くん、圭くん、and more!)
・「あいまいえ卒業アルバム」制作チームの皆さま
・あいまいえに関わってくださった全ての皆さま

心から、ありがとうございました。

画像1

画像2


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?