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9/2 am11:51 新宿

サウナの中の湯気のような空気を吸い込み、吐いた。 暑い。熱い。あつい。


茹だるような暑さの中、タイミング悪く引っかかった赤信号を見つめながら歩みを止めた。



そういえば、ここの信号はそこそこ長いんだった。


数年前、″ここ″で暮らしていた頃の記憶がぼんやりと浮かんだ。人の多さは変わらない。誰かの話し声もけたたましいクラクションの音も、バスが通るたびに震える地面も、全部そのままだった。まるでみんなが好き勝手に演奏しているオーケストラのようだった。




チリン、 という音が聞こえた。 風鈴の音だった。




暑さにやられてとうとう幻聴が聞こえたかと思ったのも束の間、また鳴った。音がした方を見てみると、小さな宝くじ売り場があった。どうやらお店の人が軒先に吊るしているもののようだった。


粋なことをするもんだなあと、なんだか嬉しくなった。暑さでどよんとした人々のすぐそばで、チリン、チリリン、と楽しげに鳴っている。



横断歩道を渡ってそこを離れても、音はしばらく聞こえていた。鉄ではなくガラスで作られたそれは、短く高く、飛び跳ねるように響いていた。

あそこにはまだ、おだやかな風が吹いているらしい。






おわり

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