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四国にプロ野球新球団は可能なのか

「さっさと実行せず既得権益を守るプロ野球は終わりだ」と
特にプレジデントオンラインなどのネット記事や
一部のスポーツライターからしばしば批判される
「16球団構想」をはじめとしたプロ野球の球団拡張。
その候補地とされることが多い地域の一つが四国、
特に坊っちゃんスタジアムがある松山だ。
球団拡張の勉強会にも参加している都市だが、
市自体は「16球団構想」に対してもやや慎重姿勢。
また「16球団強硬派」とでも言うべき
先述のライターや外部の賛成派からは
「四国全体から集客できる」という主張が多い一方で、
四国出身のプロ野球OBからは
四国という地域の特性を理由に
その発想に疑問を持つ声
もあがっている。
 
ここではその四国四県の
集客におけるアクセス面を考察してみよう。
 

観戦に必要な所要時間と交通費

四国の公共交通機関事情

まず公共交通機関で特急、新幹線を使用する場合。

高松から市坪までは特急を使用しても3時間弱、
徳島と高知からだと4時間を超え、
運賃は特急料金を含めると5,000~10,000円近くかかる。
 
これを他の地域と比較してみると、
北海道は
運賃の高さでは四国とあまり変わらないが
新幹線ではないにもかかわらず
所要時間が四国より短い。
それ以外の地域は新幹線なので
こちらも金額は安くないが所要時間はかなり短い。

有料特急を使用しない場合は、
四国とそれ以外の地域との違いが
より顕著になっている。
旭川―北広島の所要時間が
高松―市坪の特急の所要時間と
ほとんど同じな北海道もさることながら、
山形や福島どころか盛岡との接続も
四国に比べればはるかに容易な
東北、仙台に注目すべきだろう。

最後は関西と関東。
交通網の発達した大都市圏に住んでいると、
アイランドリーグ等を取材しているはずの人でも
地方の交通事情に対する認識が
あまりにも希薄な主張が後を絶たないので
載せておいた。

どちらもある程度離れていると
所要時間がそれなりに長くなるが、
たとえ有料特急や新幹線を使っても
距離が短いぶんまだ安い。
大都市圏に分類されるだけあって、
公共交通網がかなり充実していることがよくわかる。
何といっても特筆すべきは関西、
特に甲子園から京都と奈良への速さと安さだ。


無料ではない自家用車と四国の「絶景」

続いては自家用車を使う場合。
関西や関東は駐車場がない甲子園をはじめ
自家用車をあまり想定できないこともあって省いた。
公式の駐車場が51台しかない仙台と、
球場の駐車場が皆無なため
静岡駅周辺の駐車場に停めてから
列車で球場へ向かう設定の静岡も
あくまで参考として載せているだけで
実際にはまず使えない。

こちらも有料道路を使用するケースから。
ガソリン代は個人差が生じるが
使用したサイトの出した数値をもとにしている。
駐車場の料金は含めていない。

四国各地の所要時間は
鉄道を使う場合よりも若干短くなるが、
それでも2時間以上はかかるうえに
片道5,000円以上、往復10,000円以上を要する
交通費がとにかく痛い。
この点は北海道も似たような状況だ。
その一方で意外と近いのが東北。
青森や秋田まで行くとさすがに遠いはずだが、
先日新球場での一軍公式戦も行われた盛岡に
山形、福島の3県と仙台は
四国に比べてはるかに交通の便がいい。

有料道路を使用しない場合の四国は
高知が多少ましな程度。
デーゲームでも帰宅が深夜になる高松と徳島は
いくらなんでも時間がかかりすぎる。
この点では北海道のほうがまだよく、
しかも同じ距離であっても
所要時間には非常に大きな差ができている。
道が狭く山道も多い四国と
平坦かつ直線で広い道路が少なくない北海道との違いが
如実に反映されていると言えよう。
とはいえ、
所要時間とガソリン代のことなどを考えれば
年に何度も、特に平日に観戦に行くには
非現実的な地域がほとんどで、
その中でも四国は
このデメリットが際立って高くなっている。


小さくて広い四国の現実

四国の広さと分散する人口

四国出身のプロ野球解説者が言っていたことが
よくわかる内容だったかと思う。
結局のところ
松山に一軍新球団を作るとすれば
四国全体から集客を行うのは絶望的である。
平日はもちろんのこと
日曜のデーゲームでも翌日に差し支えかねない環境で
他三県からの観客をあてにするのは
無理があるし、
交通費だけで1万円以上を要するのでは
リピーターも増やしづらい。
スポンサーの獲得などは
四国全域を何とか活用できたとしても、
集客に関しては松山都市圏のみ、
無理やり広げたとしても
愛媛県内までが限界と言わざるを得ない。
小さそうに見えて
主要都市を現実の人間が移動するには
北海道や東北よりもはるかに広い。
それが四国なのである。
 

そうなると
都市圏人口が大きなネックになる。
もともと200万人以上を抱えている
札幌、仙台大都市圏に対し
松山都市圏は70万人、
愛媛県全体の人口も120万人にすぎない。
北海道の主要な地方都市や
東北各県の県庁所在地都市圏人口を
四国各県の中心都市圏人口が上回っているとしても、
それは年1回訪れる観客が
少し増えるかどうか程度のオプションにすぎないし、
そもそもその人口を追加しても
松山は札幌や仙台に
ダブルスコア差をつけられているのだ。
「愛媛県で見れば何とかなるだろ」と
言う人もいるかもしれないが、
関東なら千葉や茨城から西武や横浜へ、
関西なら和歌山から甲子園まで
片道1時間半以上をかけて観戦に行かせるのと
同じことである。
職場や学校が球場に近い場合でもなければ、
現地取材を生業としていて
たとえ遠くとも現地へ向かうスポーツライターや
自分自身は絶対に球場へ足を運ばない人の
頭の中ぐらいにしか
そんな奇特な人はそうそう多くいないだろう。

声高な「16球団」の裏に見えるもの

これでは
先ほど「四国全域を何とか活用」と書いた
スポンサーも疑問符が付く。
現在アイランドリーグや
各球団へ出資している企業も
独立リーグを維持できる程度の金額ならともかく、
どう頑張っても物理的に
一軍レベルの集客が見込めない球団に対して
一軍を維持・強化できるだけの金額を
出資するだろうか。
スポンサー企業も
ただの慈善事業ではないのだから、
「スポーツ文化」「野球文化」に対して
そこまで多額の出資をするとは思えない。

そのような現実を踏まえると、
松山や四国にプロ野球の一軍球団を作るには
既存球団よりも経営規模を大幅に縮小し、
さらに「戦力均衡」のため
「既得権益」も収益を分配させたうえで
新球団と同等の規模に縮小するなど
徹底的に自己犠牲を強いなければならない。
これによって最も大きな損失を被るのは
各球団の収益が大幅に減ったことで
年俸や選手保有数を徹底的に削られることになる
現在と未来のプロ野球選手である。

そしてもう一つ恐ろしいのは、
このような主張を繰り返しているのが
「16球団」の話に限らず
「選手の自主性を重んじろ」
「自己犠牲を強いるな、勝利至上主義をやめろ」など
常日頃から
「選手ファースト」「子供たちのため」を謳い、
プロ野球をほとんど取材しないかわりに
独立リーグや少年野球などを取材しつつ
声高に日本球界全般を
批判している人たちに多いことだろう。

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