「16球団構想」であまり語られない障壁⑤新球場に求められる条件

球場の広さはどれくらい?

前回「なぜ16球団賛成派から新球場建設案が出ないのか」
について話をしたが、
建てたくても建てるのが難しい理由はたしかにある。
ほとんどの人は予想がつくと思うが、
土地がないからだ。
しかし、そもそもMLBやNPB仕様の球場を作るには
どれくらいの広さが必要になるのだろう。
今回はこの点について、
完全開閉式球場を中心に見ていこう。

比較的小さい部類に入るのがこのチェイス・フィールド。
単純な開閉式屋根の部分だとそこまででもないが、
エントランスなども含めると230×235m程度になる。
また知っている人は知っているだろうけど、
ここはずっと天然芝だったが昨年から人工芝が敷かれている。
日本だと
野球を見る見ないに関わらず変なところで天然芝至上主義が根強く、
ひどい場合は
「MLBの人工芝球場はトロピカーナ・フィールドだけ」
などと大嘘を拡散する輩もいるので注意
(野球解説者やスポーツライターではないのが救い…か?)。

こちらは以前にも紹介したミラー・パーク。
屋根が球場の外野に合わせた三角形に近いつくりになっている。
MLBの完全開閉式球場で
外観が球場のような作りになっているのはここだけ。
あとは全てチェイス・フィールド同様に
長方形の箱型のつくりになっている。
これはエスコンフィールド北海道も同じだ。

ドーム球場も見ておこう。
先に特殊な形態になっている札幌ドームと
後から屋根をつけたメットライフ以外で
最も大きいと思われるナゴヤドーム。

完全な円形で屋根の直径は約230m。
大きめの屋根をかぶせた形になっているため、
球場そのものの大きさは
これよりは少しだけ小さい。

こっちはトロントのロジャース・センター。
球場部分はナゴヤなどと同じ円形だが、
開閉式の屋根はチェイス・フィールド以降と同じ長方形型。
こうしてみるとヤフオクドームの屋根はかなり特殊なつくりだ。
大きさは円形部分だけで直径210m程度。

これでおわかりだろう。
新球場を建てるためには
球場だけを目いっぱい詰め込んだとしても
おおよそ250m四方の土地が必要になるわけだ。
果たして日本でこれだけのスペースが、
それも大都市圏で公共交通の便が悪くない場所、
あるいは駅は無くても交通路線のすぐそばに位置する場所に
そうそう残っているのだろうか。
駅から徒歩20分以上かかるとはいえ、
そんな敷地が残っていた
北海道は非常に特殊な例と言える。

「屋根がついてるからだろ。
青空の下でやるのにそんなばかでかいものいらん」
と思った人用に一応こちらも見せておこう。

1990年代からMLBで一気に広まった
新古典主義のはしりと言われる
オリオール・パーク・アット・カムデンヤーズだ。
周囲の建物や鉄道線などを生かして建てられた球場で、
空き地に作られたと考えていい場所である。
それでも測ってみると、
大まかに見ても240×205mぐらいあった。

巨大駐車場の隠れた用途

また私が確認できた範囲だと、
1990年以降に建てられたMLB球場のうち9ヶ所には
建設の際にある共通した特徴が見られる。
それは以前の球場の隣に建てられたことだ。
跡地の大半は現在駐車場になっているが、
ヤンキースタジアムのように
隣接していた多目的公園と、
陸上トラックなどを含めて役割を入れ替えるケースや、
NFLとの共有だった場合には、
野球が別な地に移転することもある一方で
NFLはやはり以前のスタジアムの隣に新しく作ったり、
NFLとMLBのホームが両方建てられることもある。
球場の周囲を覆う大量の駐車場には
そういった用途もあるわけだ。

現在のNPB12球団ホームだと、
実際の公園の大きさ等を無視し周囲の広さだけを見て考えたとしても
新球場を隣接して作れそうなのは
ZOZOマリンスタジアムぐらいじゃなかろうか。
東京ドームは後楽園球場の隣に作られた例になるが、
どちらも比較的小さいために
何とかなった側面が強く
次に同じことができる可能性はほぼない。
神宮球場は数十年前の神宮第二球場建設で
当時の規格水準でも無理だとわかっている。

ここから先は専門家の領域

なんだか尻すぼみな話で申し訳ないが、
これ以上踏み込むには私のような素人では知識が足りなさすぎる。
仙台や横浜などでたびたび聞くように、
この話には法律や条例などの問題も深く関わってくる。
スポーツビジネスの専門家や法律家の話を聞くのが最善だろう。
ただ、野球場を作る際には
ある程度の目安としてどの程度の広さが必要なのか、
それだけでもイメージしていただければ幸いである。
ましてや16球団構想で要求されるのは
観客席を非常に多く必要とされる球場だから、
建設にもそのぶん多くのスペースが必要となる。
便がいいからと狭い敷地に建てると、

東京スタジアムのように無理な作りを迫られることになるわけだ。
googleがわかりにくくしてるけど
南千住警察署の周囲三方向の土地がそう。
計測してみると160×147m程度しかない。
1960年代とはいえ永田雅一もよくこんなところに建てたなと思う。
しかし交通の便はいいがかなり狭い場所に対して
「この建造物は建てられるはずだ。認めない行政は〇ね!」
といった罵倒は野球場に限らずかなり見かける。
「マニアである自分さえ見やすければあとはどうでもいい」では
チームも周辺も困るのだ。

現在の状況でもう一つ気がかりなのは、
専門家が言うことに対しても
「自分への反対意見」には耳を傾けない可能性が高いことだ。
というか既に、
球団社長もこなした専門家の慎重意見に対して
罵声を浴びせる賛成派がSNSに数多くいる。
私はあまり見てないが反対派にもそういう輩はいるだろう
(反対派には野球自体をただ叩きたい、撲滅したい連中も
混ざっているのでその分別もしないといけない)。
16球団構想というかエクスパンションに関して
数多くの障壁があることはこれまでにも伝えられてきているし、
私がnoteに書いた以外にも
まだあまり知られていない壁は山ほどあるはずだ。
エクスパンションを実現させるためには
これらを次々と乗り越える必要があるはずだが、
実現に向かって動いているかもしれない人たちはともかく、
それ以外の賛成派は「やればできるはず」の一点張りが目立つ。
これが自助努力というやつだろうか。
この手の賛成派も
16球団構想のかなり大きな障壁の一つかもしれない。

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