何度めのため息か
会社をでて、すぐに原に電話する
「私が異動みたいです・・・」
「・・嘘でしょ。え、今どこですか?ご飯行きましょ?それとももう帰りたいですか?」
流石の行動力だ。30分後には、駅前の串カツ屋にいた。
「なんて言われたんですか?」
捜査員のようにその時の状況を聞いてくる。どのように言われたのか、どのように答えたのか、その時の店長はどんな感じだったか、次の人はいつからくるのか。
一通りの話題を3回転したところで、そういえば土佐はこの話を知っているのかという話題に落ち着いた。私も自分から言いたかったので、会社にいるはずの土佐にラインしてみた。
すると思いもかけない言葉が帰ってくる。
「実はもう知っていた。店長から月末に言われた」
え・・
本人より先に、他の人に言う店長の神経。そしてそれをそのまま言ってくる土佐の神経とは。気を遣える人だと思っていたからこそ、混乱が生じた。
のちに、このことが原と土佐に壁を作ることとなる。
30分くらい経っただろうか。原とは正反対にのんびりと現れた。
「いや、でも土佐さんもすごくしんどかったでしょ。そんなことずっと隠しとかなあかんくて」
原も大人になったものである。くる直前まで、信用できないだの、魔性の女だとか毒づいていたくせに。
二人が会話を楽しんでいる時、自分は今後どうしていったら良いか考えていた。
素直に従うべきか、断るべきか。でも断るってことは、辞めなきゃいけないみたいなものだ。いや、辞めなきゃいけない。
最初から不満はあった。どうして全く異業種からきているにも関わらず、たった2ヶ月で独り立ちさせられるのか。どうして一番の数を持たしてくるのか。明らかにキャパオーバーな私をみても特に何かフォローを入れてくるわけでもない店長。コロナウイルスによる緊急事態宣言もあり、だんだんと距離があいていく得意先。それに従い数字も上がらず、自分の知識をまずは上げていこうと、業務外にひたすら勉強。テキストだってメルカリで4000円だして買った。お前ら新卒組はここまで必死でやったか?
もうどこへの怒りがあるのかわからない状態だった。
帰り際、土佐が「今日はゆっくり休んでください。仲良しのミッキーに話を聞いてもらってください」と声をかけてきた。
これまで自分が異動候補に上がっていて、それが違ったわけだからすごくほっとしているように見えたのは私がただのひねくれ者だからなのか。