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ロー入試合格者のステートメント【慶應ロー編①】

本記事では、慶應ロー合格者2名(いずれも既修者コース・普通合格)が実際に提出したステートメントを紹介し、書く際のポイントを解説していきます。慶應ロー入試の受験を検討している方は、是非参考にしてください!
(ライター:棚橋/The Law School Timesディレクター)


ステートメント課題

慶應ローのステートメントでは、主に以下2つの課題に対する回答を用意する必要があります。

課題①

あなたが、大学学部、大学院その他の教育研究機関において、どのような問題意識にもとづいて、学習、研究およびそれに関連する活動を行ってきたか、また、そのことがどのような将来のビジョンに結びつくのかを特筆すべき事項を1つから3つにまとめ、その主題を箇条書きしたうえで、内容について説明してください。なお、説明を裏付ける資料を「その他の書類」として提出する場合には、その資料との関連を明記してください。

課題②

課題①に加え、なお記載すべき自己評価およびあなたの将来のビジョンがあれば、説明してください。


本記事ではまず【慶應ロー編①】として、課題①のみを分析していきます!続く【慶應ロー編②】では課題②を分析しますので、ぜひそちらもご覧ください!


合格者ステートメント※

■ 1人目

【特筆すべき事項】

①法律相談部における法律相談会での取り組み
②対審式形式のゼミにおける最高裁判例の検討

【本文】

1 私は、◯◯大学法学部で、法律相談部とゼミでの活動においてそれぞれ問題意識に基づいて活動してきた。以下、各活動に分けて述べる。
 ⑴ 法律相談部での活動
  ア  私は、法律相談部において、次の問題意識に基づいて活動してきた。それは、常に法律論に基づく理論的な正しさから現実の問題を解決しようとすると当事者の意図や具体的な事情いかんにより「その人」にとって最適な解決を現実の事案に即して考えることの重要性を忘れてしまいがちであるという問題意識(Ⅰ)である。
  イ  法律相談部は、年に数回法律相談会を開催し市民が持つ法律問題を解決するという活動を行う。入部当初の私は、法的にいかに解決すべきかという問いに固執していた。しかし、必ずしも訴訟等の法的手段を望まない依頼者が多いと認識(Ⅱ)し、依頼者が本当に望む解決策は何かという点を意識するようになった。
 また、依頼者は、いわゆる「生の主張」を持ち掛けてくる。「生の主張」には、法的に重要な事実や主張だけではなく、感情面や解決に直結しない事実が混在している。そのため、法律論の一点張りでは解決が困難であり、仮に解決できたとしても依頼者の望む解決策ではないことがある。
    そこで、私は、法律相談に取り組む上で、法律に関する相談会であるという先入観を捨て、依頼者と同じく法律に素人であるという意識のもとで話を聞くように心がけた(Ⅲ)。そして、聞き入れた「生の主張」から、依頼者がどのような解決を望んでいるか(話し合いによる解決を望んでいるのか、あるいは訴訟での解決を望んでいるのか等)を確立させたうえで、法的に解決すべき事項と法的側面以外のアプローチで解決すべき事項とを選別し、依頼者が望む解決や依頼者にとって最適な解決を導き出し、依頼者が納得する結論を実現した。
  ウ  このように、私は、依頼者にとっての最善の策は何かという点に関心をもったうえで法律相談の活動に取り組んだ。
 ⑵ ゼミでの活動
  ア  私は、ゼミにおいて、最高裁まで争われ判断が下された事案において、その判断の過程や内容、結論を鵜呑みにしてしまいがちであるという問題意識(Ⅳ)に基づいて活動してきた。
  イ  私の所属するゼミは、民法に関する最高裁判例について第4審として対審式を行うものである。対審式では、最高裁の判断を鵜呑みにせず再考することで理論的妥当性や当事者にとってより良い解決策を思考することを目的とする。
    例えば、乳癌の手術にあたり当時医療水準として未確立の乳房温存療法について医師の知る範囲で説明すべき診療契約上の義務があるとされた事案(最判平成13・11・27民集55巻6号1154頁)の対審式に取り組んだ(Ⅴ)。本事案の争点は説明義務の範囲であった。
    最高裁は、「患者に対して医師の知っている範囲で、①当該療法…の内容、②適応可能性や③それを受けた場合の利害得失、④当該療法…を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務がある」と判示した。
    これに対し、私は医師(上訴人)側の立場から最高裁の判断に問題点がないか再考した。その結果、②③を説明義務の範囲に含めることは、医師が当該療法を消極的に評価している場合においては実質的に正しくない療法を患者に説明・勧誘することと同視でき医師に自己矛盾を強いることになるという点、医師の意見を鵜呑みにする危険を有している患者を未確立の療法に誘導する危険性があり寧ろ誠実な診療にあたるべき臨床医としての注意義務に違反するといえる点を根拠として、説明義務の範囲は①③に限定すべきであると結論付けた(Ⅵ)
  ウ  このように、私は、医師の説明義務の範囲について問題意識を持ちゼミでの活動を通じて主体的に考察した。

2 私の将来のビジョンは、常に柔軟な発想で物事を多角的に把握することにより、依頼者にとって最適な解決や現実的にみて妥当な解決を導くことのできる弁護士になるというビジョン(Ⅶ)である。
 ⑴  確かに、法律相談部の活動として学生が行う法律相談と弁護士が行う法律相談は、法学部に在籍する学生が行うのか、弁護士資格を有する法律のプロが行うのかという点で異なる。
   しかし、法的側面からのみ解決を図るのではなく、依頼者の望む解決や依頼者にとって最適な解決は何かを意識し、違うアプローチがないかを熟考する姿勢は共通であり、法律の専門家たる弁護士こそ、このような姿勢を肝に銘じるべきであると考える。
   そこで、依頼者は「生の主張」を有しており、法的側面からでは解決できなかったという経験、法律相談会に来たからといって必ずしも訴訟で法的に解決することを望んでいるとは限らず、より穏当な解決を望んでいたため依頼者の満足のいく解決ができなかったという経験を、実務において弁護士の法律相談にも結び付けたいと考える(Ⅷ)
 ⑵ ゼミでは、前述の通り最高裁の判断が下された事案を再考することが主な活動であった。最高裁の理由づけや結論とは違うものを考えることは非常に難しく、先生や他のゼミ生から鋭い指摘をされた際には説得的な反論ができず、主張に行き詰ったという経験がある。
   そこで、最高裁判決が出ている事案と類似の事案について最高裁判例の立場では敗訴になってしまう依頼を受けた際に、最高裁判例を再検討し、類似の事案でも相違点に着目して勝訴できないかなど多角的な視点から再考することで、依頼者に最適な解決を目指すことに結び付けたいと考える(Ⅸ)

【コメント】

本ステートメントの特徴
(Ⅰ)の部分
問いに従い、自分が抱いた問題意識を端的に示せています。
(Ⅱ)の部分
自分の経験に基づく気づきを示せています。
(Ⅲ)の部分
提起した問題に対して、自分なりの解決方法を示せています。
(Ⅳ)の部分
問いに従い、自分が抱いた問題意識を端的に示せています。
(Ⅴ)の部分
具体的な情報を示せています。
(Ⅵ)の部分
検討結果を示し、法的思考力があることを示せています。
(Ⅶ)の部分
問いに従い、自身の将来のビジョンを示せています。
(Ⅷ)及び(Ⅸ)の部分
前述した自身の活動と、将来のビジョンの結びつきを示せています。

全体的な感想
 
本ステートメントは結論ファーストが心掛けられており、また構成・ナンバリングも適切であるため、とても読みやすいです。
 法律相談部での活動を述べる部分では、「自己の経験を述べる→経験の中で問題点を発見する→発見した問題点に対して自分が導いた解決方法を提示する」という流れで文章が書けています。一般論を述べるのではなく、自己の経験と紐付けて論述できているため文章に説得力があり、この点が高評価に繋がったと思われます。このような文章の流れは汎用性があるものなので、皆さんも真似してみてください。
 ゼミでの活動を述べる部分では、自分なりの法律論を示せており、法的思考力があることをアピールできています。もっとも、やや一般論としての法律論を厚く書きすぎ、問題に対する深い悩みを示せていない印象も受けます。例えば「知人の医者に話を聞いてみたところ、特定の療法の良し悪しを判断するのは困難であるとのことだった」など、自分が悩んで行動したことを示すことができれば、内容のオリジナリティ・説得力を増すことができ、より良いステートメントになると思います。
 将来のビジョンを述べる部分では、先述した2つの活動・問題意識を「事案に応じた適切な判断ができる柔軟性」として抽象化し、上手く1つのビジョンに繋げることができています。ステートメントのまとめとして適切であり、高く評価されているでしょう。


​​■2人目

【特筆すべき事項】

① 刑事矯正の在り方に対する問題意識の発現
② 講義「刑事政策」の受講および海外における刑事政策との比較
③ 社会的弱者とされる人々に寄り添う国際的な弁護士という将来のビジョン

【本文】

① 刑事矯正の在り方に対する問題意識の発現
 私は、日本における再犯の中で性犯罪が7割を占めているという事実を踏まえ、そこに関わる刑事政策、とりわけ、刑事矯正の在り方に対して問題意識を抱いた(Ⅰ)。確かに、「痴漢は日本特有の犯罪である」という言葉の通り、日常生活を見ても、日本では、スマートフォンのカメラに、痴漢対策としてのシャッター音が付いており、これは世界的にも異常なものである。このことから、私は、日本での痴漢やその延長にある性犯罪の実態、具体的には刑事矯正施設があるのにもかかわらず、なぜ再犯率がこのように高くなるのかに対して興味を持った。

② 講義「刑事政策」の受講および海外における刑事政策との比較
1 そこで、刑事収容者に対する教育・矯正の現状に対して理解を深める為、今井猛嘉先生の「刑事政策」を履修した(Ⅱ)。この講義では、刑事収容者が出所後に再犯する背景について、法律だけでなく、経済や社会といった多角的な観点から分析した。ここで、犯罪を生み出すのは個人だけの問題ではなく、彼らを取り巻く社会という環境が大きく影響していることを理解(Ⅲ)した。そして、「社会」の存在自体に法整備の在り方に関する問題や、貧困問題の解決などのあらゆる問題が集約されることに気が付いた。ここから、新たに、「社会」の在り方に対する問題意識を形成するに至り、後述する私の将来のビジョンが確立された。
2 他方で、日本の刑事政策や社会の在り方が、海外と比較して如何なるものかを知るべく、アメリカに留学をした(Ⅳ)。アメリカでは、日本と比較をすると、自由をより強調しているため、矯正施設を含む刑事政策は有効ではないのではないかと、当初は疑問視をしていた。しかし、アメリカにおいても、社会貢献を取り入れた収容者矯正が一定程度の再犯防止に繋がっているという統計があることを知った。ここで、社会の関わりや「社会」それ自体の重要性は日本に留まらない、グローバルなものであると再認識(Ⅴ)した。

③ 社会的弱者とされる人々に寄り添う国際的な弁護士という将来のビジョン
 先述の問題意識、及び活動は、国籍或いは犯罪の被害者・加害者を問わず、「社会」がもたらす強大な影響の「被害者」となっている人々の手助けをするという私の将来のビジョンと結びつく(Ⅵ)具体的には、貧困がもたらす犯罪や国内にいる外国人が言語などの問題を介して、法律問題に巻き込まれていることで、かかる問題の被害者にならない為の活動及びその対策に積極的にかかわりたい(Ⅶ)そのために、法律と企業などを含む社会の間に存する互いの影響について更に理解を深め、また、多角的な視野を養う必要がある。そして、これらの能力を備えた上で、「社会」に起因する問題に対して、真摯に向き合える法曹となり、法整備や国際法務を通じて、日本に留まらず、グローバルに社会貢献をしていきたい(Ⅷ)

【コメント】

本ステートメントの特徴
(Ⅰ)の部分
問いに従い、自分が抱いた問題意識を端的に示せています。
(Ⅱ)の部分
問いに従い、問題意識に基づく活動を示せています。
(Ⅲ)の部分
自分の経験に基づく気づきを示せています。
(Ⅳ)の部分
問いに従い、問題意識に基づく活動を示せています。
(Ⅴ)の部分
自分の経験に基づく気づきを示せています。
(Ⅵ)の部分
問いに従い、自身の将来のビジョンと先述した活動との繋がりを示せています。
(Ⅶ)の部分
(Ⅵ)で示した将来のビジョンをより具体的に示せています。
(Ⅷ)の部分
将来のビジョンからさらに踏み込み、将来のビジョンを実現するための具体的な行動にまで言及できています。

全体的な感想
 本ステートメントでは、問いに対して端的に回答が書かれています
 なお、質問文の読み方としては「問題意識に基づく活動」を「特筆すべき事項」として記載する(具体的には「刑事政策の講義の履修」「アメリカへの留学」をそれぞれ①②と設定する)のが素直かな?という気はします。
 もっとも、本ステートメントのような書き方でも問題ないでしょう。採点者は結局「問題意識と、それに基づく活動」「将来のビジョン」という2つの情報を求めているに過ぎず、これらが表現できてさえいれば評価されると思われます。本ステートメントでは時系列順で出来事が並んでおり、読みやすい点がむしろ評価されている可能性もあります。形式的な部分については過度に気にする必要はないと考えます。
 本ステートメントは「一般的な社会問題の提起→自身の経験から問題意識を具体化→将来のビジョンと絡めて解決策を提示」という流れで書かれています。1人目と同様、自身の経験から問題意識を得た上で自分なりの解決策を提示できており、構成が適切です。自分の体験・気づきと将来のビジョンとの繋がりも明確で分かりやすいです。
 また、将来のビジョンを示す部分では、将来のビジョンを実現するための具体的な活動にまで言及できているのが印象的です。本気で将来のビジョンを実現する意思を感じさせ、高評価に繋がったのではないでしょうか。
 ただ、問題意識に基づく活動の部分をより深く掘り下げることができれば、更に良いステートメントになると思います。具体的には、アメリカへの留学を取り上げる場面で「アメリカにおいても、社会貢献を取り入れた収容者矯正が一定程度の再犯防止に繋がっているという統計があることを知った」と述べられていますが、そのような統計があることは日本にいても調べられると考えられ、わざわざアメリカへ行った結果得られた知見としては少し弱い印象を受けます。ステートメント中で「日本の刑事政策や社会の在り方が、海外と比較して如何なるものかを知るべく、アメリカに留学をした」とまで述べているのですから「実際にアメリカの矯正施設に訪問し、矯正施設が再犯防止に対して有効であると実感した」など、アメリカに留学したからこそ得られた気づきを書くことができると、一層説得力のあるステートメントが完成するでしょう。


おわりに

いかがだったでしょうか?
慶應ローのステートメントは要求される文章の分量が多く、作成に苦労する方も多いかと思います。しかし、時間をかけて自分の将来像を考える時間は必ず自分の財産になります。就活の軸を考える上でも重要な過程ですので、ぜひ全力で取り組んでみてください!


The Law School Timesは司法試験受験生・合格者が運営するメディアです。「法律家を目指す、すべての人のためのメディア」を目指して、2023年10月にβ版サイトを公開しました。サイトでは、司法試験・予備試験やロースクール、法律家のキャリアに関する記事を掲載しています!noteでは、編集部員が思ったこと、経験したことを発信していく予定です。


※太字及びギリシャ数字は筆者が加筆しています。一部個人情報を*印で加工しています。本記事の本文中では、noteの機能上、インデントが揃えられていませんが、実際のステートメントではインデントを揃えています。

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