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【翻訳】トーナメントとキャッシュゲームにおける戦略の違いは何か【CASH、MTT、セオリー】GTOWブログ.36

トーナメントポーカーはキャッシュゲームポーカーと人々が言う程には変わらない。ポーカーの戦略について学んだことのほとんど、つまりハンドリーディング、バリューベット、ハンドクラスといった大きな概念は、どちらのフォーマットでも通用する。ポーカーの理論を理解していれば、トーナメントのある段階において非常に重要な概念であるICMを理解することを除けば、どちらのフォーマットにも適応するために必要なことはあまり無いと言える。

以下に述べる内容は、トーナメントプレイがキャッシュゲームプレイと、どのように異なるかを考えるのに役立ついくつかのヒューリスティクスである。これらの中には、アンティの存在など、トーナメントに内在するものではないが、慣習上、トーナメントの文脈でより関連性の高いものもある。また、『フォールドの価値』のように、トーナメントをトーナメントたらしめている中心的なものもある。



アンティはより広いレンジでプレイするインセンティブを与える

アンティはマルチテーブルトーナメント(MTT)ではよく見られるが、キャッシュゲームではそれほど一般的ではない。しかし、アンティがあるキャッシュゲームもあれば、無いMTTもある。にもかかわらず、アンティはMTTとキャッシュゲームを区別する主な要因の一つと見なされることが多く、これがプリフロップ戦略が2つのフォーマットで大きく異なる理由の一つである。
アンティとは、ハンドが始まる前に全プレイヤーが支払う必要のある強制的なベットの一種である。アンティはスタートポットのサイズを大きくし、全てのプレイヤーに大きな賞金を与え、全てのポジションからより多くのハンドをプレイする動機付けとなる。これは特にコールをする事でプリフロップのアクションを閉じることが出来る、ビッグブラインドのプレイヤーに当てはまる。アンティがあると、アンティがないゲームに比べて弱いハンドでポットを争うことになる。

アンティは誰が出しているかが重要ではなく、大きさだけが重要である。一人のプレイヤー(通常はBB)がビッグブラインドと同額をアンティしても、8人のプレイヤーがそれぞれ⅛ビッグブラインドと同額をアンティしても、ポットに入るチップの量は同じである。なので、これらの形式に戦略的な違いは無い。プリフロップベット額にカウントされるBBとは異なり、アンティはデッドマネーである。ポットに入ってしまえば、誰が払ったか、どこから来たかは関係ない。
以下は、6ハンドのキャッシュゲームで、100BBのスタック、アンティなしで2.5BBのオープンをするBTNのレンジである:

同じシチュエーションでアンティありのものと比較してみよう

BTNはキャッシュゲームでは42%のハンドをオープンするのに対し、MTTでは53%である。MTTの方がポット内の資金が多いため、全てのハンドのEVもMTTの方が高いことに注目しよう。AAをオープンする場合、アンティがあるときは13.29BBの価値があるが、アンティがないときは9.62BBの価値しかない。

この効果はビッグブラインドにとってはさらに絶大である。ビッグブラインドはプリフロップのアクションをクローズし、割安でポットを争うオプションを持っている。他のプレイヤーがポットへの参加を考える場合、ポットに対して自分が賭ける額だけでなく、後ろにいる他のプレイヤーがコールやリレイズをするリスクも評価しなければならない。このため、ポットのオッズだけでは判断できない程度のタイトなプレイを強いられる。シングルレイズドポットでは、BBのコールでアクションが終了するため、どのハンドが利益を出すかはポットオッズがより直接的に決定する。

キャッシュゲームでは、BBは4BBのポットに1.5BBコールしなければならない。MTTで同じレイズに直面した場合、4.8BBのポットに1.5BBコールしなければならない。8人または9人のMTTでは、アンティはさらに大きくなり、BBはさらに弱いハンドをプレイすることになる。
キャッシュゲームでのBTNのレイズに対するBBの反応はこうだ。彼らはハンドの~26%をコールし、~14%をレイズしており、合計VPIP(Voluntarily Put Money in Pot)は~40%である:

アンティありのMTTでは、BBは再びハンドの~14%をレイズするが(このレイズ幅の構成は多少異なるが)、ハンドの~61%をコールする、 VPIPは〜75%にもなり、これはアンティなしのキャッシュゲームのほぼ2倍である。

《注意事項》

これらのトーナメント表はChipEVモデルに基づいている。後述するように、MTTの他の特徴として、チップの勝ち負けだけでなく生き残りを重視する傾向があり、それがより保守的なプレイを促す。それでも、共通点は同じだ。アンティは、アンティなしの同じシナリオの場合よりも、より広いレンジでポットを争うよう、すべてのプレイヤーにインセンティブを与えるのである。

スタックサイズによる力学

ブラインドが高くなり、チップを補充できないため、キャッシュゲームよりもMTTの方が、あなたのテーブルで幅広いスタックサイズを目にする可能性が高くなる。また、ショートスタックに遭遇する可能性が高く、自分のスタックサイズが戦略的に大きく変動するのを見る可能性も高い。従って、有効スタックの大小やテーブル内の様々なスタック分布の戦略的意味を理解することは、キャッシュゲームよりもMTTの方がはるかに重要なスキルである。

理解すべき最も重要なことは、オールインの威力である。オールインすることで、プレイヤーは相手のエクイティ否定しつつ、自分のハンドのエクイティの実現を完全に保証することができる。最強のハンド以外では、オールインする機会を自分で見つけ、相手がオールインすることで簡単にこちらのエクイティを否定出来るような状況を避けるようにする。これらの戦術については、こちらの記事で詳しく説明している。

有用なヒューリスティクス(経験則)としては、通常、テーブル上のショートスタックは彼らのオールインのリスクが低いため、アドバンテージを持っていると言える。また、あなたの後ろのポジションにショートスタックがいる場合、彼らがオールインするリスクのため、通常よりもややタイトにプレイする必要がある。テーブルで最もショートスタックである場合、周りのプレイヤーが同じスタックサイズを持っている場合よりもやや広くオールイン出来る。なぜなら、あなたのオールインにコールするプレイヤーがまだオールインではないためである。

全プレイヤーが9BBを持っているとき、COは31.6%のハンドをAIする:

後方のプレイヤーのスタックが深い場合(それぞれ29、21、32BB)、COは35.3%のハンドをAIできる。COはどちらのシナリオでも同じ9BBのリスクを負うが、後ろのプレイヤーはより多くのチップを持っている場合、より大きなリスクを負わなければならない。SBがAIをコールした場合、彼らは自分のスタックの半分近くを投入することになり、BBが強いハンドを持っている場合、事実上21BBをポットにコミットすることになる。

COは、後ろのプレイヤーがより深いスタックを持っている際に、より広くプッシュすることに気づいただろうか?

BTNにはコールする余地があり、コールした上でBBのAIにフォールドするようなハンドもあるが、それにも代償が伴う。BTNがフォールドしたハンドは勝つ可能性があり、BBによってフォールドさせられるとエクイティを失うことになる。そのエクイティを否定されるリスクは、BTNが9BBしか持っていなければコールできたかもしれないハンドからのコールを抑制する。

これはショートスタックがビッグスタックより価値があるという意味ではない。それどころか、より多くのチップを持つプレイヤーはより大きな賞金を獲得する可能性が高いので、そのスタックの金銭的な価値はより大きくなる。しかし、ポットを争うとき、ショートスタックはチップを獲得しやすいという利点がある。

フォールドは+EVである

キャッシュゲームでは、フォールドすれば何も得る物はない。つまり、どんなに小さな期待値でも、プラスになるプレーの方が、フォールドするよりも良いということだ。トーナメントでは、生き残ることに価値がある。つまり、フォールドはキャッシュゲームのように$0ではなく、プラスの期待値を持つ。

他のプレイヤーが脱落するたびに、たとえあなたがそのプレイヤーのチップを奪ったプレイヤーでなかったとしても、あなたのスタックの価値は上がる。あなたは次の賞金獲得に大きく近づいたのだ。ペイジャンプに近ければ近いほど、フォールドして他のプレイヤーにリスクを負わせる価値は高くなる。

コールやレイズでポットを争うのは、そうすることのEVがフォールドすることのEVより大きいと思われる場合に限られる。テーブルでこれらの値を正確に計算することは出来ないが、ICM(Independent Chip Model)を使って計算されたチャートを研究することで、直感を養うことが出来る。

以下が20BBスタック、残り人数50%のフィールドで、30.7%のハンドをレイズするCOのRFI戦略である:

これを、20BBスタックでフィールドの25%が残っているときのCOのRFI戦略と比較する:

COは28.6%のハンドまでレンジが狭まり、残り50%のフィールドでオープンレンジのギリギリだったハンド(44, K4♠, Q6♠)はフォールドを明らかに好むようになった。残り50%で純粋なオープンであった少し強いハンド(55, K6♠, Q7♠)は、ここではではレイズとフォールドのどちらとも言えないギリギリの状態になっている(インディファレント)。

これは、これらのハンドをオープンする価値が下がったというよりも、手札をフォールドする価値が上がったことを反映している。

ICMのEVは、フォールドした場合と比べたテーブルエクイティの割合の変化として測定される。テーブルエクイティの割合とは、トーナメントにおけるテーブル全体の$EVに占めるあなたの割合のことである。例えば、フォールド後のあなたのスタックの価値が$100で、あなたのテーブルの全員のスタックの$EVの価値の合計が$1000であれば、あなたのテーブルエクイティの割合は10%である。上の写真では、AAのEVは2.95なので、レイズ後のあなたのテーブルエクイティは2.95%増えることになる。

これはささやかな違いのように見えるかもしれない-COは2番目のシナリオで約5%タイトにオープンするだけであるが、フィールドの25%が残り、最初のペイジャンプであるバブルは特に近くは無いのに、すでにCOが少し保守的にプレイを調整しているのをことに留意してほしい。バブル下ではKKやAAをフォールドするのが正しいという極端な例もある。
ある状況下でフォールドすることの価値はおおよそしかわからないが、その方法を知っておくことは貴重である。以下はフォールドの価値を決める主な要素である。

フォールドの価値を決める要因

  • ペイジャンプへの近さ - より大きな賞金を獲得するに可能性が高まるほど、リスクを回避するインセンティブが高まる。ペイジャンプが大きければ大きいほど、そのインセンティブは大きくなる。

  • ショートスタックの存在 - フォールドの価値は、他のプレイヤーが自分より先に脱落する可能性にある。フィールドに(あなたのテーブルだけでなく)ショートスタックが多ければ多いほど、フォールドして彼らにあなたより先にバストする機会を与えることに価値がある。

  • あなたのスタックサイズ - あなたが持っているチップの量が多ければ多いほど、特定のハンドで全てを失う可能性が低くなり、フォールドするインセンティブが減る。あなたのテーブルであなたをカバーする人がいない場合は特にそうである。

  • 残りのプレイヤー数 - リスクを負うインセンティブは、チップを貯めて、上位数名に与えられる高額賞金の一つを獲得するチャンスを増やすことである。これらの賞金に近ければ近いほど、リスクを取るインセンティブは高まる。何十人、何百人というプレイヤーが残っている場合、チップを貯めても大きな賞金を獲得する確率はあまり上がらないので、リスクを冒すインセンティブは少なくなる。

  • 対戦相手のスキル - 残っている他のプレーヤーがトーナメント戦略を理解していれば、あなたと同じようにリスクを避ける傾向にあるので、あなたがフォールドした後、彼らが互いにリスクを取りにくくなる可能性が高まりまる。他のプレイヤーが間違ったリスクを取る事が期待出来れば、あなたにとってフォールドする事の価値が高まる。

最後のチップは最も価値あるものである

「トーナメントに勝つために必要なのは、チップと椅子だけだ」という古い格言がある。トーナメントに残っている限り、どんなにスタックが少なくても、賞金を獲得できるチャンスがある。優勝する可能性だってある。- Greg Mersonは2012年のWSOPメインイベントで、5日目にわずか数bbになった後に優勝した。これを別の概念で表すと、あなたの最後のチップが最も価値があり、それ以降にスタックに追加されるチップの価値はいくらか下がるということである。

キャッシュゲームでは、100枚の5ドルチップを持っていれば、あなたのスタックはちょうど500ドルの価値がある。チップの半分を失えば、あなたのスタックの価値は$250になる。ダブルアップすれば、あなたのスタックの価値は$1000になる。これらのチップの価値は直線的だ。
トーナメントではそうではない。もしあなたが$500でトーナメントに参加し、$500のチップを受け取ったとしたら、あなたのスタックは$500の価値がある(レーキは無視する)。しかし、ダブルアップして1000チップになった場合、あなたのスタックの価値は1000ドル以下になる。新しく追加したチップは、すでに持っていたチップよりも価値が低いのだ。逆に、スタックの半分を失ったとしても、残りの250チップは$250以上の価値がある。

このことから、ショートスタックでは特に慎重になるべきであることがわかる。ショートスタックでグラインドするのは苛立たしく退屈なものだが、特にバッドビートの結果ショートスタックになった場合は、最後の数チップがまだ多くのエクイティを表していることを認識し、慎重に投資することが重要である。「ゼロに丸める」あるいは最初に見た中途半端なハンドで最後のチップをオールインすることは、高くつく間違いである。
ショートスタックは対戦相手より有利であることを見てきた。つまり、忍耐強くやれば、最後のチップを投資する有益な機会が見つかるということだ。自暴自棄になって劣勢になる必要はない。悪いカードが配られ続け、まともなカードが配られるたびに誰かがあなたの前でレイズするなら、あなたはフォールドし続けるべきだ。

最終的には、2つのうちの1つが起こる:

チャンスに恵まれるか(次の手はいつもAAかもしれない!)。

あるいは

より多くのハンドが有益な投資になるところまでブラインドの上昇を待つ。

ブラインドが残り少なくなると、アンティがあるおかげで、どのポジションからでもほとんどどんなハンドでも有益にプレイ出来るようになる。もちろん、その前にもっと良いチャンスが来ることを望むだろうが、そうでない場合、あなたができる最善のことは、フォールドして待つことである。

結論

トーナメントはキャッシュゲームよりもペースが速く、アクションが多いように見えるかもしれないが、これはしばしばショートスタックとアンティがあるためで、プレイヤーはより多くのポットを争うことになる。もし同程度のスタックサイズとアンティでキャッシュゲームを比較するならば、リスク回避と生き残りのインセンティブがないため、キャッシュゲームの方がより多くのアクションが見られるだろう。
いつリスクを取り、いつ他のプレイヤーにリスクを取らせるかを知ることが、熟練したトーナメントプレイヤーと、ポーカー理論の一般原則を理解しているだけのプレイヤーを分けるのである。

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