見出し画像

【翻訳】ICMはポストフロップの戦略にどれほど影響を与えるか【ICM】GTOWブログ.42

ほとんどのプレイヤーは、ポーカーにおけるICM(詳しくはこちら)がプリフロップ、特にトーナメント終盤のスタックが浅い時の戦略にどのような影響を与えるかを理解している。しかし、ポストフロップのICMについてはどうだろうか?GTOソルバーは、ファイナルテーブルやポーカートーナメントのマネーバブル付近で、フロップ、ターン、リバーをプレイする際に何を教えてくれるのだろうか?

ポストフロップICMはポーカー研究の中では比較的未開拓の分野である。プリフロップのICMソルバーは以前からあり、ポストフロップのGTOソルバーは最近普及してきたが、ポストフロップのICMを研究したプレイヤーはほとんどいない。ポストフロップのICMソルバーが「ICMを意識」するようになったのはごく最近のことで、ICMがポストフロップの戦略にどのような影響を与えるのかが分かってきたのも最近のことである。

(この記事の)著者はEndgame Poker Strategy: The ICM Bookの共同著者であり、この本はポーカープロのDara O'Kearneyと一緒に書いたものである。この本はポーカーのICMについて深く掘り下げた初めての本である。また、最近Daraと一緒にGTO Poker Simplifiedをリリースしたばかりで、こちらの本はその名の通り、ソルバーから得られたのポストフロップの最大の教訓のいくつかを再現可能なヒューリスティックに変えたものである。

ポストフロップのGTOの本とICMの本を書いているにもかかわらず、ポストフロップのICMをどちらかで簡単にしか取り上げなかったのには理由がある。このトピックは膨大なのだ。ポストフロップICMは、まさに一冊の本を出すに値するテーマであるため、私たちは次のプロジェクトに取り組むことにしたのである。
Daraと私は、GTOウィザードがポストフロップICMソリューションを間もなく発表することを知り、とても興奮した!
私たちはポストフロップにおけるICMについて、様々なフロップ、レンジ、スタックの深さ、ペイアウト構造で幅広く適用できるいくつかの貴重な発見をした。これらは疑うべきもなく多くの教訓があるだろう。 これらのヒューリスティクスは普遍的なものではこともあるが、あなたのポストフロップICM研究の指針として使うことを強く勧める。

《ポストフロップでICM下で調整される事》

  1. カバーしているプレーヤーはよりアグレッシブになれる。

  2. 「ダウンワード・ドリフト」効果が起こる:ビッグベットがスモールベットになり、スモールベットがチェック/コールになり、チェック/コールがフォールドになる。

  3. ソルバーはICM化で分散の低いプレイラインを取る。



バブルファクター

トーナメントポーカーにはバブルファクターと呼ばれる概念があり、ICMを研究する際にはこれを理解することが不可欠である。

バブルファクターとは、チップを失うことが、同量のチップを獲得することより、いかに多くのエクイティを失うかを示す指標である。

バブルファクターはICMプレッシャーを測定する。バブルファクターは、スタックされることで失うトーナメントエクイティ($EV)を、他のプレイヤーをスタックすることで得られる$EVで割った比率と定義される。

ビッグスタックは、排除されることなく大きなリスクを取ることができるため、バブルファクターが低い。ショートスタックもバブルファクターが低い。なぜなら、彼らはバストしたくないが、それでもアグレッシブでなければならないからである。ミドルスタックのバブルファクターは非常に高い。彼らはより簡単にトーナメントで駆け上がりITMしたり、より高順位のペイアウトを受けるために、チップリーダーとの絡みを避けたがるし、脱落のリスクを負うことを避ける必要がある。

バブルファクターが高いほど、投資したチップに対するリスクリワードの比率が悪いことを示す。バブルファクターが高ければ高いほど、負けた時の悲惨さは増す。そのため、バブルファクターが高ければ高いほど、タイトにプレーする必要がある。その名が示すように、ほとんどの場合、トーナメントのバブルでチップを失うのは大惨事である。バブルやファイナルテーブルでトーナメントライフを賭けたオールインになった場合、実際の金銭的な面で失うものが、得るものを圧倒的に上回る。

バブルファクターは相対的な尺度である。もしあなたが2番目のチップリーダーなら、あなたのバブルファクターは他のプレイヤー全員に対して低いが、全体のチップリーダーを相手にすれば、バブルファクターは非常に高くなる。全てのミドルスタックをいじめることができ、大きなペイアウトを得ることができるのに、チップリーダーにバストすることは災難である。ミドルスタック対ミドルスタックは、ショートスタック対ショートスタックと同様、バブルファクターが非常に高いスポットである。しかし、ビッグスタック対ショートスタックはチップEVに近い傾向がある。ビッグスタックは失うものが少ないので、ルーズにプレーできる。ショートスタックはすぐに行動を起こさなければならないので、最も広くコールしてくるプレイヤーに対して行動を起こす方が良い(特に、他のスタックはビッグスタックとの3ウェイポットを避けるだろう)。

バブルファクターについてざっと見てきたが、これはポストフロップのICMスポットでどのように適用されるのだろうか?

その答えは、カバーしているプレイヤーがポストフロップでよりアグレッシブになる、ということだ。バブル時や、ファイナルテーブルのチップリーダー対ビッグ/ミドルスタックのポットを、チップEVのスポットと同じようにプレイすると、お金を浪費することになる。ビッグスタックは、たとえポジションが無くても、より頻繁にベットすることができる。相手がレンジやナットのアドバンテージを持っていても、よりアグレッシブになれる。ショートスタックのプレイヤーはより慎重にプレイしなければならないので、明らかに相手プレイヤーに有利なフロップで大きなスタックのプレイヤーがリードでドンクベットするのを見るのは珍しいことではない。

テーブルで一番のチップリーダーである必要はなく、ポストフロップの対戦相手がカバーしているプレイヤーであればよい。ビッグスタックがミディアムスタックに対してアグレッシブになるように、2番目のショートスタックはテーブルで最もショートのスタックに対してよりアグレッシブになる。

しかし、相手プレイヤーをどの程度カバーしているかによって、どの程度アグレッシブになれるかが決まることに注意することも重要である。もしあなたが相手の3倍のチップを持っていれば、かなりルースなラインを取ることが出来るが、もしあなたが40bb、相手が36bbであれば、どちらもオールインポットを失いたくないので、慎重にプレイしなければならない。


ビッグスタックvs二番目のビッグスタック

例を挙げて説明しよう。この例では、40ビッグブラインドのプレイヤーがBTNでオープンし、70ビッグブラインドのBBからコールをした。フロップは A♣8♦3♠ である。我々はファイナルテーブルにおり、スタックとペイアウトの内訳は以下の通りである:

注 - チップ%は各プレイヤーが持っているチップの割合を示す。ICM%は、各プレイヤーが平均して獲得すると予想される賞金プールの割合を示す。

見ての通り、BBはBTNを余裕でカバーしている。また、COにはマイクロスタックが、HJには超ビッグスタックがおり、どちらもこのハンドには参加していないにもかかわらず、この場のICMプレッシャーに大きな影響を与えている。以下がこのハンドのバブルファクターである:

ICMソリューションを検討することは混乱を招く可能性がある。有効なアプローチは、同じ状況をChipEVとICMの両方のシナリオで比較することである。これはICMを内面化するのに役立つ。ChipEVのスポットを基準点とし、それをICMのスポットと比較することで、ICMで行われる調整をよりよく理解することができる。

プリフロップレンジの比較

ポストフロップのラインを見る前に、プリフロップのレンジを見てみよう。これはBTNのオープンである:

以下がBBのコールでディフェンスするレンジである

以下の例では、ICMの戦略的調整を確認しやすくするために、ICMとChipEVの両方の例で同じプリフロップのレンジを使っている。しかし、そもそもプリフロップのレンジが異なることに注意することが重要である。ICMのレンジは平均して狭く、3ベットは少なくなる。ICMのプリフロップのレンジはAxとKxのハイカードスーツの比重が高く、スモールペアやスモールスーテッドコネクターの比重は低い。Axsタイプのハンドはプリフロップでより多くのポットを奪うブロッカーを持つハンドとして機能し、またリバーでは非常に強いハンドになる事もある。スモールペアは極度のICMプレッシャーがかかるとエクイティを実現しにくくなる為、フォールドされることが多くなる。

また、プリフロップのICMスポットでは3ベットが少なくなる。TTや99のような、チップEVスポットではBBの3ベットでバリューを得やすい手は、ICMスポットではフラットコールしてプレイされることが多い。しかし、以下の例では同一条件の比較をしている為、 同じレンジで続けよう。

ポストフロップのプレイラインの比較

では、両シナリオにおけるフロップのプレイを見てみよう。フロップは A♣8♦3♠ である。このフロップではBBの33%のエクイティに対し、BTNは63%のエクイティと大きなレンジアドバンテージを持っている。BTNのレンジに占めるAxの割合は大きく、AAを含む最強クラスのAxを持っている。ビッグブラインドは多少のAxを持っているが、ほとんどの場合、非常に広いレンジでフロップを完全にミスする。そのため、ChipEVとICMのどちらの例でも、ビッグブラインドは100%チェックする。

以下はChipEVモデルにおけるBTNのCベット戦略である:

BTNは強いレンジアドバンテージを持っているため、100%のハンドでベットするが、そのほとんどはスモールサイズである。しかし、ミディアムベットやビッグベットもある。AAはビッグブラインドのコールレンジをブロックするため、常に小さいベットサイズを好むが、AK-ATのようなハンドは弱いAxからバリューを得るために大きくベットすることがある。Q♠J♠やK♠4♠のようなハンドでビッグサイズのベットのブラフを見かけるが、これらのハンドは直接的なドローは無いが、ランナーランナーのストレートやフラッシュを作ることができる。

以下の画像は全ての条件が全く同じで、ICMのプレッシャーがアクションに影響するファイナルテーブルにいるケースのBTNの戦略に対する反応である:

一見、何も変わっていないように見える、これは再びBTNに有利なレンジアドバンテージを最大限に利用したレンジベットである。しかしよく観察してみると、重大なことが起こっている。彼らはほとんど最小のベットサイズしか選ばない。これが冒頭で述べた「ダウンワード・ドリフト」効果である。
この効果を視覚化するために、頻度のある戦略を並べて比較してみよう:

ダウンワード・ドリフト(Downward Drift)とは、ICMが要因で、ソルバーのアクションがよりパッシブなラインに向かって下降していくように見えることを指す。ビッグベットはスモールベットに、スモールベットはコールに、コールはフォールドになる。

多くのプレイヤーはこのような場面でベットサイズが下がることを観察し、それは相手にできるだけ安くフォールドさせようとしているからだと考える。正解はその逆で、ソルバーはICMが要因である場合でも、常に自分がリードしているときにポットを作ろうとしている。大きくベットすることは、相手がフォールドしすぎることを意味する。また、チェックレイズに対する防衛策として小さくベットすることもある。ソルバーは大きくベットして、大きくチェックレイズされ、トーナメントライフを賭けた恐ろしい決断に直面することを好まない。

ソルバーは、ICMのプレッシャーがかかっているときでも、有利なボードで常にポットを作ろうとするが、分散の低いラインを取ることでポットを管理する。

A♣8♦3♠ フロップベットに対する反応の比較

もう一歩進めて、両方のケースで最も一般的なベットサイズである25%ポットCベットに対してビッグブラインドがどう反応するかを見てみよう。まず、ChipEVの例を見ていく:

BBが42%の頻度で、ほとんどどんなものでもフロップである程度のエクイティを持つレンジでコールし、完全にミスした場合の48%のレンジでフォールドをする。チェックレイズは、強いトップペアやセットなどのバリューを持つハンドで約10%以上の頻度で起こる。xrブラフは、ガットショット+バックドアフラッシュドローを持つ52♠などのハンドである。 これをICMの例と比較してみよう。

一見すると両者はよく似ているが、よく見るとフォールドが少なく、コールが多い。これは、ICMレンジではフォールドが多いと思っている多くの人を混乱させるかもしれないが、BBはBTNをカバーしているので、より多くコールする余裕があり、後のストリートでより多くのICMプレッシャーをかけることができる。
もう一つの顕著な違いは、この例ではチェックレイズが多いことである。ChipEVの例ではチェックレイズが10%であるのに対し、ICMでは12%以上である。これはレンジ全体のプレイの仕方から見れば小さな違いだが、チェックレイズできるハンドの量が20%増えている。チェックレイズのレンジでもブラフが若干多くなっている。トップペアのレイズが減り、その代わりにランナーランナーストレートの可能性がある44のようなハンドがブラフとして選ばれている。

ICMが大きい場合、カバーしているプレイヤーはポストフロップでよりアグレッシブになれる。相手をカバーすればするほど、よりアグレッシブになれる。
これもポストフロップのICMを研究していると何度も目にする傾向である。カバーするプレイヤーはよりアグレッシブになれるのである。この例では、BBはポジション的にもレンジ的にもかなり不利だが、それでもChipEVの例より20%も多くチェックレイズしている。これは、BTNがICMのプレッシャーにより頻繁にフォールドしなければならないからである。このシミュレーションをより極端なICMプレッシャー(例えば、ペイアウトをよりフラットにしたり、BBのチップリードを大きくしたり)で実行した場合、BBはさらにアグレッシブにプレイすることになるだろう。

A♣8♦3♠ 2♥ ブランクがターンで落ちたときに何が起きるか

BBがスモールベットをコールし、ターンが2♥だったとしよう。これは2xと4♠5♠と45oの両方を持っているBBにとっては有利なカードだが、それでもブランクなターンカードと言える。BBのレンジに占める2xの割合は小さく、BTNも45♠とA2♠を持っている。
これがChipEVの例におけるBBのターン戦略である:

示唆されていたように、このターンはほとんどの場合あまり状況が変わらない。BBはフロップでジャンクをすべてフォールドしたため、57%のレンジアドバンテージを持っているが、BTNはまだ強い手札をたくさん持っており、ポジションも持っているため、BBは100%チェックする。
全く同じ状況で、ICMが要因の場合にどうなるか見てみよう:

この例の差は驚異的である。それ以外のパラメータはすべて同じだが、ICMの影響により、ChipEVの例ではBBがリードすることはなかったのに対し、ターンでは25%以上の確率でBBがリードすることになる。ポストフロップのICMスポットを研究すると、BBが弱いレンジを持っているにもかかわらず、すべてのストリートで「ドンクリード」しているのをよく見かける。ICMが要因となる場合、カバーしているプレイヤーはあらゆる面でよりアグレッシブになる。
最後に、ICMが要因のとき、すべてのターンカードでBTNの戦略がどのように変わるか、ターンレポートを調べてみよう。次のグラフは、BTNのターンのチップEVとICM戦略の集合分析である:

ここでもダウンワードドリフト効果は明らかである。BTNのオーバーベットの多くは、ソルバーがより低分散のラインを選ぶため、ハーフポットベットになっている。

結論

これはほんの一例に過ぎないが、ポストフロップのICMポットとChipEVポットの重要な違いを浮き彫りにしていると思う。最も重要なのは、誰が誰をカバーしているかを常に意識しておくことだ。トーナメントではほとんどの人が本能的にそうしているが、このような場面でカバーされる側/カバーする側としてソルバーが行うポストフロップの戦略調整を知っている人は少ないだろう。

キーポイント

  • ICMのシナリオでは、プリフロップでもポストフロップでも、一般的に3ベットは少ない。

  • プレイヤーをカバーする度合いによって、どれだけアグレッシブになれるかが決まる

  • ソルバーは、相手が中サイズのベットをフォールドしそうな時に、バリューを引き出すために小さなベットサイズを選ぶ。

  • ソルバーはまた、分散を小さくするために小さなベットサイズを選ぶ。

  • カバーしているプレイヤーはポジションやレンジのアドバンテージに関係なく、よりアグレッシブになれる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

記事は以上になります。最後まで読んでいただきありがとうございました。
この記事を読んで良いと感じて頂けましたら、noteのスキ、やSNSでの拡散、Twitterのフォロー、サポート等をして頂けますと、本当に執筆の励みになります!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?