アジャイルコーチとはなんなのか?
みなさまはじめまして。LSA CONSULTiNGという屋号でフリーランスのアジャイルコーチをやっております。
フリーランスのアジャイルコーチをはじめてみてわかったのは、実は「アジャイルコーチ」という仕事があまり世間に知られていないのではないか?ということです。「なにそれつおい?」みたいな反応をいただくこともままあります。たしかにアジャイル宣言にもスクラムガイドにもないので、イメージが湧かないのかも知れませんね。というわけで簡単に解説してみます。
アジャイルコーチは、簡単に言えばアジャイルチームを育成するお仕事です。スポーツのコーチを想像していただくとわかりやすいと思います。アジャイル開発は誤解も多く、本を読んだとかトレーニングを受けたとかだけでは実践は難しいのが実情で、実際にまちがった実践をしてあまり効果が得られないままになっているチームもよく見かけます。せっかくアジャイルに取り組もうとしたやる気のあるチームが、そんな状態に陥ってしまうのはとても残念なことです。アジャイルコーチは、そういったチームを指導することで「自律的に活動し、自ら改善していける生産的なアジャイルチームを育てる」ことを目的としています。多くの場合、みなさんが受けたアジャイル研修のトレーナー達は、現場のアジャイルコーチもやっているはずです。
アジャイルコーチが入った場合でも、1日や2日で効果を出すことは困難です。多くの場合は、ある程度効果が表れるまで最低でも3ヶ月ほどはかかります。コーチの頻度は週に1回~2回程度。ただし、まっさらからの立ち上げ期のチームの場合は週3回程度、ちょっと手厚めに入ることもあります。チームが育ってくれば徐々に手を引いていくことも可能になります。
パターンとして、たとえば週に1回、スクラムイベント(デイリースクラム以外)がある日に訪問(あるいはリモート)してアドバイスを行い、1週間それを実践してもらってまた次回訪問で様子を見る、といった具合になります。
少し勉強した人なら、「チームの育成はスクラムマスターがやればいいのでは?」と気づいてしまう方もいらっしゃると思いますが、まずそのためにはスクラムマスターに十分な知識を身につけていただく必要があります。アジャイルコーチはそこをサポートするわけですね。また、スクラムマスターの場合は四六時中チームに張りついて、チームメンバー間やチーム間、あるいは組織におけるさまざまなコンフリクトをファシリテートしますが、アジャイルコーチはそのための知識やスキルをスクラムマスターが身につけるのをサポートします。
そういうわけなので、スクラムマスターはクライアントの組織から出していただくことが多いです。アジャイルコーチがスクラムマスターを務めることも、テクニカルにはもちろん可能なのですが、それだとコーチが居なくなった途端に元の木阿弥ということもあり得ますし、なによりやはり自分がスクラムマスターなのだという自覚を持って取り組んでいただくことが強い学習意欲となり、成長や成果にも結びつきやすいからです。
逆にアジャイルコーチが向かない仕事は、例えば組織内部の調整などです。これはその組織特有のコンテキストや政治を知っている、中堅~古参の社員の方の方が向いています。また、アジャイルコーチはプロジェクトマネージャーではないので、従来のPMなどのように100%の稼働率でひとつの案件に張りつくことは稀で、そのため単価もお高めになっている事が多いです。ごめんなさい。でも、むしろ20%~40%のほうがコスト対効果の面では高くなると自信を持って言えます。
また、アジャイルコーチにプロダクトオーナーを依頼するのも良くないパターンです。アジャイルコーチはプロダクトオーナーがプロダクトバックログアイテムを書いたり、優先順位を付けたりする際の方法やハンズオンでのサポートは得意としていますが、色んな現場を渡り歩くという仕事の特性上、特定の事業に関するドメイン知識は希薄な場合が多く、そのプロダクトの進む方向性やバックログの優先順位を決めるような責任を負うのは無理があります。
一方で最近は、従来型の機能別組織ではプロダクトのバリューストリームを阻害してしまい、アジャイルの定着化やアジャイルチームの運営は上手く行かないことが分かっています。このようなする組織から脱却するお手伝いも、アジャイルコーチの重要な仕事になってきています。こういった場合は、組織の管理職や人事の方々、そして現場のスクラムマスターたちとも密接に連携しつつ組織の変革を進めていく形になります。
ぼくも含めて多くのアジャイルコーチはそうですが、彼らは自分たちが少しでも早く組織やチームから不要とされることをいつも願って仕事をしています。なので、チームがもう自分たちでできると思ったらそれが契約終了のタイミングです。無理に長期契約を迫ることもありません。でも気に入っていただけて、また別のチームを立ち上げたい等のニーズがある場合は契約を延長していただければ良いのです。なので、もし最初から高稼働や長期契約を持ちかけるコーチがいたら、ちょっと怪しんだ方がいいかもしれませんね。
そんなわけで、これからアジャイル開発を試してみたいと思っているチームや組織のみなさん、まずは3ヶ月間、アジャイルコーチを試してみてはいかがでしょうか。
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