情状と量刑(その1)~量刑って何?~

 こんにちは。めしだです。
 先日、「情状と量刑」をテーマに、立命館宇治高校というところで授業をさせていただきました。

 というわけで、今回から3回シリーズで、「情状と量刑」について書いてみたいと思います。

題材となる事例

 「情状と量刑」について議論するために、題材となる事例を提供したいと思います。
※完全に架空の事件です。なお、立命館宇治高校の授業でも事例をもとに議論しましたが、下記事件とは異なるものです。

令和元年検第334号

 この事件は、被告人蛇庫常子(じゃこ つねこ)さんが、被害者である若葉司(わかば つかさ)さんの自宅に侵入し、100万円を盗み取った、という事件です。

 事件の第1回公判期日で、被告人蛇庫さんは、次のように述べました。

裁判長
 「先ほど検察官が述べた公訴事実について、何か意見はありますか。」
被告人
 「ありません。間違いありません。」

 被告人が公訴事実を全面的に認めたことから、公判の主たる争点は、「被告人をどのような刑に処すべきか」という点に絞られることになります。

量刑って何?

 量刑とは、「被告人に科す刑の重さ」のことです。
 本件の場合、被告人である蛇庫さんには、住居侵入罪と窃盗罪という罪が成立することとなります。
 この場合、窃盗罪の刑が科されることになるのですが(住居侵入罪はどこいった?と思われるでしょうが、難しいのでここでは省きます。興味のある人は刑法54条1項という条文を調べてみてください。)、刑法では、窃盗罪については次のように定められています。

第235条(窃盗)
 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 つまり、蛇庫さんに課せられる刑は、「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」なのです。
 裁判では、この「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」という範囲で、蛇庫さんに対する刑を決めることになります。
 ただ、ここでは、話を単純化してわかりやすくするために、罰金刑については考慮しないことにし、懲役刑を選択することにしましょう。
 そうすると、「蛇庫さんを懲役何年にすべきか」を考えることになります。

執行猶予って聞いたことあるけど?

 ところで、上で「刑の重さを決める」のが量刑と述べましたが、そこでは「今すぐ刑を科すかどうか」も考慮する余地があります。
  皆さん、「執行猶予」という言葉を聞かれたことありますよね。

第25条(刑の全部の執行猶予)
① 次の掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
 一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
 二 (略)
② (略)

 「執行猶予」とは、わかりやすく言えば、「君は有罪やけど、もうワンチャンあげよう」です。
 有罪ですから、刑を受けなければならないのが原則です。
 しかし、一定の条件を満たす場合には、「時間をあげるから、悔い改めなさい。その期間犯罪をせずまっとうに過ごせば、刑を受けなくてよいことにしてあげましょう。」となることがります。
 これが「執行猶予」なのです。

 つまり、蛇庫さんが、もし、「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」であり、かつ、彼女に対する刑を「3年以下の懲役」とする場合には、執行猶予をつけることができるのです。

 例えば、もし蛇庫さんに対する刑を懲役2年とし、かつ、その刑の執行を4年間猶予するのであれば、

   主  文
被告人を、懲役2年に処する。この判決が確定した日から4年間、その刑の執行を猶予する。

という判決になります。
 これは、蛇庫さんを懲役2年に処するのですが、いますぐ刑務所に入れるのではなく、とりあえず釈放して、4年間犯罪をせずまっとうに過ごせば、刑務所にいかなくて良いこととする、という判決なのです。

 もし、蛇庫さんが、その4年間の間に、犯罪を犯してしまったら(例えば人を殴って怪我をさせたら)どうなるのでしょうか?

 そうなると、蛇庫さんに対する執行猶予が取り消されます(例外もありますがここでは省きます。)。
 「執行猶予が取り消される」ということは、「懲役2年に処する」ことになります。
 つまり、蛇庫さんは、その時点で2年間懲役にいくことが確定します。

 さらに、新たに犯した犯罪(人を殴って怪我をさせた=傷害罪)についても有罪判決を受けることになり、刑を科されます。
 例えばこの傷害罪について懲役3年が科されることになると、前の窃盗罪の2年に加えて、この懲役3年が科されます。
 つまり、合計5年、懲役にいかなければならなくなるのです。

 執行猶予は、本当に「ワンチャン」であり、もしこのワンチャン期間中に犯罪をしてしまうと、大きなペナルティを受けることになるわけです。

本件ではどうすべきか?

 さて、本件の事例にもどりましょう。
 裁判官になったつもりで、被告人蛇庫さんをどう処分すべきか、考えてみましょう。

 え?そんなのは裁判官が考えることで自分には関係ない?

 そんなこと仰らずに!
 あなただって、裁判員に選ばれる可能性があるのです。
 裁判員になれば、被告人の有罪or無罪を判断するだけでなく、有罪なのであればどのような刑を科すか、ということも判断することになります。
 決して、あなたに無関係な問題ではないのですよ!

 今、裁判官であるあなたに与えられている選択肢は、次のようなものです。

① 被告人を、懲役何年にするか。
 ※ 窃盗罪の場合、最長で10年、最短で1ヶ月です。
② もし3年以下にする場合、執行猶予をつけるか否か。
 ※ 3年以下でも、執行猶予をつけないこともできます。

 とりあえず上にアップした起訴状の内容だけで、考えてみてください。

 あなたなら何年にしますか?執行猶予つけますか?

【次回「情状と量刑 その2~情状って何?~ につづく】

 

 

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