【コンメンタールこども六法】刑法編①刑罰(第9条~第19条)

刑罰にはどんな種類があるの?

 さあ始まりました。「コンメンタールこども六法」!
 「こども六法」には、全部で7つの法律が掲載されているのですが、最初に掲載されているのは「刑法」です。

 「刑法」という法律それ自体は、みなさんにも馴染みの深い法律ではないでしょうか。「刑法」と言われれば、なんとなく「ああ、犯罪について定めてる法律ですよね」とイメージしていただけると思います。
 その通り、刑法は、「犯罪と刑罰について定めた法律」です。
 「こういうこと(犯罪)をすると、こういうペナルティ(刑罰)を与えますよ」ということが書かれているわけです。

 で、刑法では、その序盤で、まず「刑罰」について定めています。

(刑の種類)
第9条 刑の種類は、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料の6種類とします。これ以外に、没収を付け足すことがあります。
(『こども六法』11頁)

 刑の種類は、①死刑②懲役③禁錮④罰金⑤拘留⑥科料 の6種類です。
 これら6種類の刑罰を「主刑」といいます。
 そして、「これ以外に、没収を付け足すことがあります。」というのは、懲役や罰金といった主刑を科す際に、没収を付け足して科すことがあります、という意味です。そのため、没収は「付加刑」に分類されます。

それぞれどんな刑罰なの?

 刑罰には6つの種類があると書きました。
 でもこれだけ読んでも、具体的に何をする刑罰なのか、よく分かりませんよね。
 大丈夫です。ちゃんとそれも、刑法に定められています。

(死刑)
第11条 死刑は、そのための施設で首を絞める方法で行います。
(懲役)
第12条 刑務所に入れ、決められた作業を行わせる刑罰を懲役といいます。期間の決まっていない無期と、期間の決まっている有期とがあり、有期懲役は1か月以上20年以下の間とします。
(禁錮)
第13条 刑務所に入れる刑罰を禁錮といいます。期間の決まっていない無期と、期間の決まっている有期とがあり、有期禁錮は1か月以上20年以下の間とします。
(罰金)
第15条 罰金は、1万円以上のお金を国に納めさせる刑罰です。
(拘留)
第16条 1日以上30日未満の間で刑務所に入れる刑罰を拘留といいます。
(科料)
第17条 科料は、千円以上1万円未満のお金を国に納めさせる刑罰です。
(『こども六法』12頁・13頁)

 こう見ると、なんか似てる刑罰と似てない刑罰で種類分けできそうですよね。
 例えば、懲役・禁錮・拘留は、いずれも「刑務所に入れる」刑罰ですね。つまり、「自由をうばう」刑罰なのです。
 他方、罰金と科料は、「お金を国に納めさせる」刑罰ですね。これは「財産をうばう」刑罰ですね。 

どの刑が重くて、どの刑が軽いの?

 いろんな刑罰があるのですが、それぞれ重さが違います。
 これも、刑法に定められています。

(刑の軽重)
第10条 刑の重さは、重い方から第9条で書いた順とします。
(『こども六法』11頁)

 第9条で書いた順、つまり、重い方から
①死刑
②懲役
③禁錮
④罰金
⑤拘留
⑥科料
 の順なのです。

 死刑が一番重いのは、分かりますよね。首を絞めて殺しちゃうわけですから!
 どちらも「刑務所に入れる」刑罰である②懲役と③禁錮。
 これは、懲役のほうが重いとされています。
 なぜだか分かりますか?

 それは、懲役は、刑務所に入れるだけでなく、そこで「働かせる」刑罰だからです。
 禁錮は、単に閉じ込めておくだけですが、懲役はそれに「働かせる」ことがプラスされるのです。
 だから、懲役のほうが禁錮より重いのです。

 …でもみなさん、どう思います?
 例えば、2年間刑務所に入らないといけなくなったとして、「懲役」と「禁錮」、どっちがいいです?
 私なんかは、2年間ずーっと部屋に閉じ込められているだけよりも、その間働いて体を動かしたほうがまだ気晴らしになっていいんじゃないかという気がします(笑)
 実際、「禁錮」の刑に処せられて刑務所に入った人も、希望すれば、「懲役」の人と同じように刑務所のなかで働くことができることになっています。

 ③禁錮と④罰金では、禁錮の方が重いのも、なんとなく分かりますね。
 やっぱり、閉じ込められるのは嫌ですよね。罰金は、言ってみればお金さえ払えばそれ以外は特に何もないわけですから、もし禁錮と罰金を選べと言われたら、罰金を選びたくなりそうですね。

 ただ次が難問です。
 ④罰金と⑤拘留だと、罰金のほうが重いんですね!
 みなさんどう思います?
 拘留は1か月未満ですから、例えば1週間刑務所に入るか、お金払うかどちらか選べと言われたら…
 金額にもよるでしょうか…??

どうして刑罰の種類を法律で決めるの?

 でも、どうして刑罰の種類を法律でわざわざ決めているのでしょうか?

 刑罰の種類を振り返ってみましょう。
・命をうばう刑罰 …死刑
・自由をうばう刑罰 …懲役・禁錮・拘留
・財産をうばう刑罰 …罰金・科料

 刑罰って、私たち国民から、国が、「命」「自由」「財産」をうばうものなのです。

 え、これって、人権侵害じゃないの!?

 そうです。人権侵害です。
 刑罰って、国が国民から命や自由や財産を強制的にうばうわけですから、人権侵害なのです!

 ではなぜそんな人権侵害が許されるのでしょうか?
 それは、刑罰が、「犯罪」に対するペナルティとして科されるものだからです。「犯罪」は、人を殺したり、物を盗んだりする行為で、それ自体人権侵害ですよね。人権侵害をした人に対して、人権侵害でペナルティを与えるわけです。

 ただ、人権侵害だからこそ、国がどんな刑罰でも科せるようにしておくことはできません。
 国が勝手に新しい刑罰を考え出して実施するようなことは許されません。人権侵害だからです。
 法律で定められた刑罰しか、科してはいけないのです。

 歴史を振り返ると、「むち打ち」とか「棒でたたく」という刑罰もありました。
 これは体を傷つける刑罰ですが、今の日本の刑法では認められていません。
 また、「島流し」も聞いたことありますよね。遠くの島に追放する刑罰です。これも昔はありましたが、今の日本では認められていません。

 あるいは死刑にしても、昔はもっとむごい方法で殺す死刑の方法がありました。
 例えばイエスキリストの十字架刑なんかは有名ですね。
 昔は、国が国民に「みせしめ」にするために、ものすごくむごい死刑を考え出して実際に行っていたのです。
 でも今の日本の法律では、死刑も「首を絞める」方法(いわゆる「首つり」)ですると定められています。それ以外の方法は認められていません。
 実は憲法でも、

(拷問及び残虐刑の禁止)
第36条 公務員による拷問や残虐な刑罰は、絶対に禁止します。
(『こども六法』173頁)

 と定められていて、「むごい刑罰は絶対に禁止」されているのです。

 「むちうち」や「棒たたき」といった体を傷つける刑罰や、十字架刑などむごい死刑の方法が認められていないのは、憲法のこの規定で禁止されているからでもあります。

 ただ、「首を絞めて殺す」という死刑は、本当に「むごい刑罰」に当たらないのでしょうか?(注)
 そもそも、いくら犯罪に対するペナルティとはいっても、国が国民の命までうばうことは許されるのでしょうか?
 これが、「死刑制度の廃止」をめぐる議論です。
 とても難しい問題ですが、皆さんのご意見はいかがですか?
 この点は、また機会があれば別の記事で考えてみたいと思います。

(注)過去に、「首を絞める方法での死刑は『むごい刑罰』には当たらない」とした最高裁判所の判決があります。皆さんはどう思いますか?

終わりに

 今回は、

①刑罰には、6つの種類(と付加刑である没収)があること。
②刑罰の重さには順序があること。その理由。
③刑罰は人権侵害であり、だから法律で定めておく必要があること。
④法律で定めていない刑罰や、むごい刑罰を科すことは許されないこと。

 をご説明しました。いかがでしたか?
 今日わかっていただきたポイントは、「刑罰は人権侵害だ」ということです。
 これはとても大事なポイントです。刑罰は人権侵害だからこそ、ルールが必要なのです。
 このことは、今後の記事でも触れると思います。知っておいてくださいね。

おまけ:刑務所ってどんなところ?

 懲役も禁錮も「刑務所に入れる」刑罰です。
 刑務所ってどんなところか、皆さんご存じですか??

 刑務所には、いわゆる「牢屋」(閉じ込めておく部屋)だけでなく、「作業場」(働かせる場所)もあります。
 日本には全部で75の刑務所があり、場所によって収容される人やそこで実施される「作業」の内容も異なるのですが、木や金属、衣料などを材料とした「ものづくり」をしている場合が多いです。
 刑務所によっては、「矯正展」という名前のイベントを開催しており、刑務所で作られた物を売っていたり、刑務所見学ができたりすることがありますから、興味があれば調べてみてくださいね。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?