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画像解析AIで実現する未来の安全性研究

こんにちは、エルピクセル サイエンスビジネス本部で事業開発を担当している濵地です。前々回の記事では、ゼネラルマネージャーの加藤が「エルピクセルの製薬企業との協業・共創」についてお話しました。

私たちは画像解析AIを活用し、創薬のバリューチェーンにおける研究・製造・臨床といった様々な領域における課題解決を目指しています。今回はその中でも「安全性研究」にフォーカスし、画像解析AIの活用可能性をご紹介します。


新薬開発における安全性研究

安全性研究の重要性と課題

新薬開発において、薬が狙った効果を発揮すること(有効性)は重要ですが、意図しない有害な事象が発生しないこと(安全性)の担保も不可欠です。このため、新薬の候補化合物がみつかると、薬効薬理試験・安全性試験・物性試験・薬物動態試験といった様々な非臨床試験を実施し、有効性・安全性を検証します。
安全性試験では、候補化合物を実験動物に投与し臓器障害を確認したり、培養細胞に添加し毒性を検証するなど、複数の試験を行います。それぞれの試験で膨大な量の標本を観察・評価しなくてはなりません。
そのため、安全性研究においては以下のような課題があります。

  • 解析に要する工数負担(莫大な人的・金銭的コスト、長い試験期間)

  • 試験実施者の経験に依存する判定結果のバラつき(低い再現性)

私たちは画像解析AIを活用し、上記の課題解決が可能なソリューションを提供しています。

エルピクセルが提供するソリューション

安全性試験自動化サービス「IMACEL TOX」

創薬プロセスにおける様々な課題解決を目指し、私たちは「創薬を加速するAI:IMACEL」を展開しています。その一つとして、安全性試験の支援に特化した「IMACEL TOX」を2021年12月にリリースしました。

第一弾として小核試験向けサービスをリリースし、すでに複数企業に活用いただいています。小核試験以外の安全性試験にも対応できるよう、サービスラインナップを拡充予定です。私たちの画像解析AIで対応可能な安全性試験の一部をご紹介します。

例1:小核試験の自動化(2021年よりサービス提供中)

小核試験は染色体異常による毒性(遺伝毒性)を評価する試験の一つです。主にがんや遺伝病等のリスクを調べるために実施される試験で、被験物質を投与した細胞群における小核(*1)の発生率を評価します。

*1:小核とは染色体異常が生じた結果、細胞分裂時に取り込まれなかった染色体の断片のこと

従来の小核試験では、実験者が顕微鏡で目視観察し、細胞一つひとつの評価を行っていました。作業負荷が大きいことや、実験者が異なると同じ標本でも試験結果にばらつきが生じうることが課題となっていました。
「IMACEL TOX」小核試験向けサービスでは、熟練実験者の評価基準を学習したAIが標本画像を解析し、評価結果のレポートを提供します。AIは2段階の技術を使い、試験結果を判定します。

  1. 全細胞を一つひとつ自動認識する

  2. 検出した細胞の小核発生有無を判定し、定量化する

AI解析結果と熟練実験者の目視観察結果の相関を確認しています。

IMACEL TOX 小核試験 研究成果

「IMACEL TOX」小核試験向けサービスの利用初回は、各社の染色条件に合わせてAIモデルのチューニングを実施します。2回目以降はシステム上に試験画像をアップロードするだけで、解析結果のダウンロードが可能です。試験標本としては、メイギムザ染色とアクリジンオレンジ染色に対応しています。

小核試験は医薬品以外にも食品・食品添加物・化粧品・化学原料といった様々な商品の安全性評価で実施される試験のため、製薬企業以外にも「IMACEL TOX」小核試験向けサービスを利用いただいています。また「IMACEL TOX」は上記商品のメーカーだけでなく、各社から安全性試験を受託するCROでも活用いただける技術です。

例2:病理標本画像の解析

医薬品の安全性試験では候補化合物を実験動物に投与し、各臓器での異常発生有無を評価するプロセスが必須です。対象となる臓器は肝臓、腎臓、脾臓など多岐にわたり、大量の標本を顕微鏡観察する必要があります。
観察対象のほとんどは正常標本ですが、正常標本であっても、異常が発生していないことを顕微鏡で目視確認しなければなりません。また異常が発生した場合、異常所見の名称やグレードを詳細に判定するため、病理学の高度な専門性が要求されます。各企業では複数の病理専門家によるレビューを実施し、最終的な正常・異常の判定、異常所見やグレードの決定を行っています。
例えば画像解析AIにより正常・異常を初期判定できたり、異常所見が疑われる部位を検出することで、実験者の負担が大きく軽減できると期待できます。私たちは病理標本画像の解析も「IMACEL TOX」が大きく貢献できる分野と捉え、技術開発を進めています。

例3:薬剤投与動物の行動解析

実験動物に候補化合物を投与し、異常行動の判定や有効性の確認を行うプロセスも重要です。私たちは細胞や病理画像といった静止画像の解析だけでなく、動画の解析技術も強みとしています。

画像解析AIにより、薬剤投与後のマウス観察動画から特徴部位(鼻、耳、尾など)を自動認識し、行動追跡が可能です。運動量・姿勢・移動速度の変化など複数の特徴量を抽出し、定量化やパターン解析する技術を保有しています。この技術により、例えば目視で発見できなかった異常行動を捉えたり、定量結果を取得することで、従来よりも精緻な安全性評価が可能になります。
また動物行動観察は安全性試験だけでなく、薬効薬理試験でも実施されるため、幅広い活用可能性があります。

動物行動解析イメージ

私たちが安全性研究で目指す未来

一部ではありますが、安全性試験における画像解析AIの活用事例をご紹介しました。
今回ご紹介した「IMACEL TOX」の研究成果は第49回日本毒性学会学術年会(2022年)の当社主催ランチョンセミナーでも発表しました。「IMACEL TOX」小核試験向けサービスのリリース後に初めて開催するセミナーということで、どのような反応があるか不安も大きかったのですが、製薬企業の安全性研究者をはじめ、化学系企業・研究機関など多くの方に聴講いただきました。安全性研究における画像解析AI活用への期待・関心の高まりを実感しています。

私たちは今回ご紹介した事例以外にも、染色体異常試験・催奇形性試験などの安全性試験で活用できる画像解析AIの開発を進めています。「IMACEL TOX」で安全性が担保された薬や商品が世の中に誕生し、多くの方々の健康に貢献することが私たちの目指す未来です!
「IMACEL TOX」の開発にあたっては、高度な専門性と質の高いデータが必要となります。このため一部の試験については、外部パートナーと連携しながらサービス開発を進めています。私たちの目指す未来に共感し、安全性研究をさらに発展させていきたいと思っていただけたら、ぜひお声がけいただけると嬉しいです!

文:濵地 美里


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