見出し画像

『秋さびて、想ひ綴る』 シナリオ分析



総評:『継承』を軸としたウマ娘ならではの物語

 今回の『秋さびて、想ひ綴る』は昨年度の『おもいより、おもいかけ』、一昨年の『晩秋、囃子響きたる』に引き続き「駿大祭」に演者として参加するウマ娘たちの成長を描いた作品だった。

 『晩秋』は行事をきっかけに区切りを描き、『おもいより』はレースの歴史の中に自分たちを位置づける物語だった。どちらも過去のウマ娘の想いを現代の自分たちと重ねるという点で共通していたが、今回の『秋さびて』は直接的に想いの継承を描いている点が新しかった。

 話の筋としてはシンプルだったが、その分余った尺は格式ばった台詞や努力の描写に当てられており、伝統行事としての側面の強調やオチの感動的させる台詞への説得力の増加に繋がっていた。

 意外性こそないがキャラの心情を丁寧に描いた良シナリオだった。

全体の流れ

大体こんな感じ
尺:1時間程度(オート再生)

良かった点

・想いを継承する側、される側の双方を描いたこと

 「ウマ娘」は歴史に名を遺す名馬たちが時代を超えて集うという点が大きな特徴だが、今作はその時空の超越性を利用して想いの継承を実際の交流を通して行ったという点がウマ娘ならではの表現方法だったと思う。
 キングとカワカミ、ルドルフとテイオー、ツヨシはそれぞれ親子関係にあり、子が親の想いを継承するという競馬の血統要素を伝統行事の継承という形で視覚化している。

・人選

 上記のテーマに沿った人選がなされていた。特にキングは育成シナリオ中で親へのコンプレックスが大きく描かれていたため、今回の役どころは彼女にとってはまり役だったと言えるだろう。
 またウララのみ継承の連鎖の中から外れた存在だったが、アドバイス役という他とは異なる役回りであったこと、更には劇の内容でもその異質さをあえて取り上げることなどの工夫によってうまく話に組み込まれていた。

ウララと作中作での役

 またウララが『白拍子』で演じた旅芸人は伝統を一切受け継がなかった存在として描かれる。またウララは演劇内容を一部変更させそれが見事成功している。この二つはウララが今回唯一継承の連鎖にいなかったことや、史実のハルウララが勝ち星を挙げずに人気になった異質な存在だったことを反映している。ウララという存在をシナリオ面の工夫により本筋に上手く溶け込ませた点は作者の技量がうかがえる。

掛け合い描写

 全体を通してキング、カワカミの2人が話の中心であることが分かる組み立てになっており、そのため一番の盛り上がりもその2人の絆描写に当てられていた。その掛け合いの出来が良かったため満足度が高い。構成的にも序盤中盤では2人は憧れる者と憧れられる者としてやや距離をおいた関係にあり、終盤に畳みかけるように想いの継承、絆の深まりが描かれるという加速感が演出されていて良かった。

 またキングとウララ、カワカミとウララの掛け合いの形が似ていたのもキングとカワカミが似た者同士だというウララの言説を補強する形になっていて良かった。

奉納劇の祝詞

 祝詞がしっかりそれっぽかったので雰囲気が出ていた。内容も継承やウララのことに触れていて良かった。

気になった点

・意外性がない

 話の筋に特に捻った部分がなかったため物語自体は素直に進んでいった。アクシデントで劇の開催が危ぶまれ皆の努力で成功に終わる流れ、途中で略式に代わり最後に本式に戻るという流れは王道の流れだった。また序盤に一瞬出てきた会長や略式と本式の2種類があることの説明など要素の対応関係が見やすかったため尚更話の筋がすっきりしすぎている印象を持った。
 今回は話の筋で楽しませる物語ではなく要素の重ね方や感情描写に力点を置いた作品だったのだろう。

同じ文章が複数回出る

 全体を通して稽古シーンが多く『白拍子』の台詞が何度も登場するため文字数の割には目新しさが更新されない印象があった。場所も畳の部屋でのシーンが多く、それらが上の意外性のなさと合わさって(特に序~中盤は)のっぺりとした印象を受けた。ただこれも合宿や稽古(あるいは伝統行事)の閉鎖的な雰囲気を表現できているため一概に悪いとは言い切れない。

まとめ

 今回はキャラそれぞれが持つ要素を上手く物語に昇華したシナリオだった。『ウマ娘』という作品が元々史実要素をシナリオに落とし込むのが上手く、それと似た手法で面白さを生み出しているという印象をもった。たまに爆弾みたいな回もあるがやはりウマ娘のイベストは全体的にクオリティが高いと思わされた作品だった。

 また記事本文では触れてないが今回は特にキングの台詞に感情がこもっていて良かった。

ここの台詞はとても感動した
万感の思いが込められてた
あとこの比喩も好き


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?