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低空飛行note

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ひきこもり・メンタル系の当事者会〈低空飛行net〉から生まれた書きものサークルです。表現したい、発信したい、そんな何かを載せられるnote。物好きなメンバーが気の向くままに更新中。
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#今こんな気分

人といてやわらいだ世界

「このハイライト、あの人のブルベの肌に似合うよな。」 「これ、あの人の好きな青、だろうか。ちょっと緑っぽいかな?」 私の頭がつぶやくとき、いつの間にか他の誰かがそこ加わっていることに最近気づいた。 ひとりでいるのに、私の世界にはひっそりとした温かさが存在している。 それは変化と呼ぶには些細なことで、あまりに曖昧かもしれないが。 ずっと他人を思考回路に入れることが怖かった。 思い描く他人は、いつだって強くて、攻撃的で、異物を見るように遠くから顔をしかめている。 人との関わりの

スミレのマカロンが食べたい

「スミレは香りが良く、ほんのりと口から鼻に広がっていくのがとても良く出来ていて……」 透き通るような金髪を丁寧にセットした、わたあめみたいな日本語を話す店員さんがそう紹介してくれた。 私の記憶では色とりどりの可愛らしいパレットみたいな並びの中で、スミレは少しくすんだ、薄紫色の控えめな姿だった。 なんでだろう。あの時買わなかった、ピエール・エルメのあのマカロンが今頃になって無性に食べたくなってしまった。 薄紫のマカロンを思い描いて、その色と同じような、なんだか切ない、霞がか

「俺、猫飼ったんすよ」

結局救ってくれるのも人なんだな、とバカみたいに簡単に和らいだ胸の内を他人ごとみたいに感じながら、そう思った。 人と関わりたくない、会いたくない、触れたくない、とひきこもって安全に私を守る城壁を強くしようとしていた。壁の一部を取り除いてそーっと他人を入れてみると、内側も外側も陽のあたる湖面みたいに穏やかだった。 嬉しくて気が抜けてしまった。 先日、体調を崩して長く休んでいた事業所に戻った。 行く、話す、と決めたのに、直前まで本当にこれがやりたいことなのかと悩み、胃が波打つよう

本と、ぬいぐるみと、ひとりではないこと

心臓は落ち着いて鼓動する。足取りは軽い。じっくりと時間をかけて暗転していく空に焦ることもない。 私のかばんには上質な紙で仕立て上げられたハードカバーの本が2冊入っているからだ。彼らと一緒にする散歩は独りの不安感を押し下げてくれる。 歩き出すと、じんわり汗ばむ肌の上を涼しい風が吹いていく。蒸した空気が世界に充満している。夕暮れの草と土の混じったにおいを通り抜ける。遠く、敷きつめられた雲から差し込む太陽の薄い光が、いびつな形をしていて、何かの後光が照らしているようだ。 小さな余

グレーの日、グレーの世界

魂の殺人、というらしい。妙な言い当て方を考えついたものだと思う。 魂なんていうのを担う組織はないし、どこにも見つけられない。でも、ある、と信じて人は大事に抱えていようとする。ほとんど無意識であっても。 だからそれが壊されそうになったとき、精神的ショックとか、深く傷ついた、とかいう言葉で言い表すのは激しく違うと感じるのだ。大事に覆いをかぶせて、そこにあると思っていた何かが、ボロボロになっているのを「魂」という言葉で表現されるのを、なるほど、と思った。 朝から豚肉の厚切りステ

日記:帽子で凹み、自己像を語る

コツコツコツ。ぱちりぱちり。 開けた掃き出し窓からちいさくちいさく響いてくる音。 庭に置いた皿から小鳥が皮つきの餌をついばみ、せっせとむいて食べているのだ。おそらくスズメだが、そう思って見に行くと全然違う鳥だったりもする。でもこんな時間だし多分スズメ。 皮つきのキビやアワを食べている間、彼らは妙に静かだ。しっかりと、黙々と。カニ食べてるときと一緒だ。手間かかって忙しいから余計なことは言ってられないのだ。 重くなった空とさっきから勢いを増し続けている風。気をつけないと消えて

日記:あたま爆発とおしり

たまに「うわーーーなんかあたま爆発しそう!」というときがある。 5月6日夜、今がその時。 この症状に名前はついているのだろうか? 「なんか…あたま爆発しそうでしんどいです。」 と医師に伝えても 「それはつまりどういう状態ですか?」 と聞き返され、 (だから!あたまが爆発しそうな感じの状態です!) と心の中で叫ぶ。 無理やり言葉を変えるならば、「頭が忙しすぎる」ということも出来る。 ただこれも、「それはつまり…(略)」の問答へと向かってしまう。 今診てもらっている医師は、

マスク外したくない

顔、見られたくないなぁ……。 取ってみたら結局ブスなんだよ。 隠されてることに期待を込めて見てこないで。がっかりすることはわかってるでしょ。君が思う理想よりブスなんだって。 休憩を取ったのに視線がばっちり合っているので水が飲めなかった。 人に見られるのがつらい。イヤイヤ期をこじらせたようで。 マスクで覆われていると安心して話しているのに、外した途端に汚いもの見せちゃってる気分だ、落ち着かない。 あぁ。コロナには本当に助けられてたな。「見られたくない!」っていうおかしなレベル