蟻
外出先から戻ったら、部屋に蟻の行列ができていた。
1mmにも満たない小さな蟻たちが無数に、1列になって歩いている。
大の虫嫌いだけど蟻は別に大丈夫なのでそれほど取り乱すことは無かったものの、部屋に行列が出来てるのはさすがにぎゃーっと思った。
行列は、先日部屋を掃除した時に出たごみをまとめたビニール袋(スーパーで3円で手に入るくらいの小さめのもの。食品類が入ってる認識はない)から始まり、廊下に続き、壁を登り、壁と扉の枠の隙間まで続いていた。
蟻そのものの存在より、壁に穴が開いていて蟻の通り道になっている方がショックだった。
すぐスーパーに走り、アリの巣コロリを入手。
蟻たちの通り道にセット。
蟻たちはしばらくアリの巣コロリに気付かず、元の食糧庫も消え、先行していたはずの仲間たちも消え(掃除機に吸い込まれた)、混乱していた。
ほとんどの隊員たちは一旦巣に戻ったようだ。
十数分ほど経っただろうか、1匹の隊員がアリの巣コロリに気付いたらしく、自分の身丈ほどあるサイズのコロリ粒を抱え、壁をよじ登り始めた。
新しい餌場を発見した瞬間だった。
僕は彼にコロンブスと名付けた。
彼は彼の巣の仲間たちに大いなる希望を与え、喝采を受けるだろう。
しかし、身丈ほどもある大きなかけらを抱えたまま壁を登るのは容易なことではなかった。
何度も何度も立ち止まり、数センチずつ登っていく様子には感動さえ覚えた。
さらに、その様子に気付いたのか、仲間たちが駆け寄り、まるで背中を押すように下から支えたり、励ますかのように周囲を走り回ったりした。
美しき友情である。
映画化したら全米が泣くだろう。
全米ちゃんはすぐ泣くんだから。
そしてついに、コロンブスは壁を登り切った。
彼が巣に戻った途端、5匹の蟻たちが勢いよく巣から飛び出してきた。
そして我先にとアリの巣コロリに向かって壁を駆け下りていった。
彼らは競うようにアリの巣コロリに突入し、かけらを拾い、コロンブスと同じように一歩一歩壁を登って行った。
中には力の強いものもおり、そういう者は途中で休むことなくゴリゴリと壁を登った。
彼らの巣のサイズからするとアリの巣コロリのかけらは大きいらしく、入り口でよくつっかえていた。
彼らは何匹かで力を合わせてそれを巣に押し込んだ。
しばらくして巣からの出入りが減ってきたのは、コロリが効いてきたというより巣の出入り口が詰まってるのではなかろうか。
今頃は巣の中で宴が催されていることだろう。
それがアリの巣コロリとも知らず…
かくして数日以内にコロンブスの村は崩壊するだろう。
人間が開発した薬物兵器によって。
新大陸を発見した英雄と持て囃されたコロンブスは、実は巣の壊滅を招いた大罪人(大罪蟻)だったのだ。
彼らは彼らなりにただ一生懸命に生きていただけなのだから、実際のところ申し訳なさというか、良心の呵責のようなものを感じてしまう。
彼らには何の非も無かったのだ。
ただ僕も一生懸命生きていて、君たちがいては困ることが多々あるのだ。
すまぬ。
今回の騒動で、コロンブスの行動からは学ぶことが多かった。
新しい餌場を発見する視野の広さ、そこに飛び込んで餌を持ち帰る勇気、自身の身丈ほどの大きな餌を抱えて壁をよじ登る力、何度立ち止まっても諦めない精神力、そして仲間たちとの絆。
勇気が必ずしも良い結果を生み出すとは限らないこと、良かれと思っての行動が思いもよらぬ甚大な被害をもたらすことがあるということ。
これが僕の部屋の出来事で無く、彼らが持ち帰ったのがアリの巣コロリでなかったらどれほど美しい物語だっただろう…
ありがとう、コロンブス。
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