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The 1975に失恋した話

前提

  • 筆者はThe 1975の比較的熱狂的な部類のファンである。歌詞の意味を自分なりに深堀してブログ記事を書いてみたりもしている。
    (記事例:「世界一分かるThe 1975「Love It If We Made It」歌詞和訳&解釈」)

  • ライブはサマソニ19,22と2019年バンコク公演の計3回見たことがある。

  • 23年4月の来日公演は横浜公演に行く予定だった。

The 1975が好き

私が彼らの音楽を初めて知ったのは、2013年にデビューアルバムがリリースされたときだった。ネットでおすすめ記事を読んでいたところ見つけた"The City"のイントロ(特にドラムの感じ)が凄くかっこ良く聴こえて、家の近所のTSUTAYAにCD買いに行ったのを覚えている。

彼らをより好きになったのが3rdアルバム"A Brief Inquiry into Online Relationships"だ。
忘れもしないリリース日の0時。たまたまライブ帰りに夜行バスに乗っていて寝れなかったため、配信されたての音源を聴いて、その瞬間から自分の世界が変わったかのように感じた瞬間だった。

これまで見たことのあるライブは3回とも人生のハイライトだと言い切れるほど素敵な記憶。
19年のサマソニでの鬼気迫るライブ。
人生で初めて海外で見たライブでもあるバンコク公演では、いろんなものを乗り越えた先での盤石のパフォーマンス。
そしてコロナ禍の果てに、愛情や歓喜が渦巻いた最高の瞬間だった去年のサマソニ。

こんな風に、The 1975にまつわる思い出だけでもいくつも思い浮かぶくらい、The 1975というバンドが大好きなのだ。

アーティストと楽曲は切り離して考えるべきか?

本件に限らずだが、「アーティストと音源は切り離して考えるべきか?」という話がしばしば議論の題材に挙がる。
ざっくり言えば例え作曲した者が犯罪者であっても、その音源自体が良いのには変わらないのではないのか、ということだ。

私自身の考えとしては、音源そのものの良さや価値は作り手がどんな人物なのかによって変わらない。
だがそれをどのように愛するか、という観点では、私はどんな人物がどんな気持ちを持ってその楽曲を作ったのか、という部分を大事にしたいと思っている。

Thom Yorkeを中心に作るRadioheadの音楽が好きだし、Phoebe Bridgres, Julien Baker, Lucy Dacusの3人でしか成り立ちえない関係性をもって組まれたスーパーグループだからこそboygeniusの音楽に一層魅了される。

同じように、The 1975の音楽それ自体が好きだが、それ以上にThe 1975が生み出す音楽だからこそ好きだったのだ。彼らが信念を込めてアーテイストとして活動を重ね、人々や社会への考えあるいは個人的な思いを込めて音楽として届けてくれる。その一挙手一投足に魅了されながら、The 1975が生み出す音楽が私は好きなのだ。

ポッドキャスト番組出演時の発言で何がショックだったか

来日公演もいよいよ、というタイミングで、今年2月にあったポッドキャスト番組の出演。その内容はあっという間にネット上でも広がった。
この騒動については誤解が広がっている部分もあるが、内容については国内外のいろんなネット記事等も見つつ以下の記事の通りの発言があったと認識している。

各々感じ方に違いはあるだろうが、自分にとって特にショックだったのは日本についての発言ではなかった。
正確にはMatty自身は日本に対して侮辱的な発言はおこなっていない。むしろ日本が好きである旨のコメントをこの場でも残している。(もちろん一緒になって笑ってんなよ、とも思うが、これまでの日本での歩みや"Guys"の歌詞、再始動の1発目に去年のサマソニを選んでくれたこと。The 1975やMatty自身の日本への愛は信じたいと思っている。)
一番ショックだったのは、女性蔑視的な発言と、Ice Spiceに関連しての欧米圏外の話者に関する話題での発言だった。
いやいやあんたは男女比50:50のフェスにしか出演しない、と信念を掲げて活動したり、多くの女性アーティスト、あるいはNo Romeやbeabadoobeeのようなアジアにルーツがあるアーティストもエンパワーしたり、これまでやってきたわけじゃん。あれは何だったの?
"Being Funny in a Foreign Language"に込めたメッセージはどこ行った?

(今はポッドキャストの番組音源自体公開されていないようだが)そもそも音源を聴いてみると、番組出演者とMattyの話し方、いろんなものを蔑みながら気味悪く笑い喚くトークショーがとにかく気分悪かった。あっ一番嫌いなタイプの集まりじゃん…って本能で感じちゃうやつ。

(※もちろんこの番組のコンセプトまで理解してないので、わざと露悪的なトークを繰り広げるものだったのかもしれない。
そして、番組自体の内容について直近のオーストラリア公演のMCで初めて本人の口から弁明があった。内容については以下の記事参照。

そうして、この騒動からシンプルにめちゃくちゃショックを受けた。
怒りというよりは落胆に近いと思う。もやもやした感情がずっと心に漂い続けたまま…

時は過ぎ…

「っていうことであってさ、せっかく来日公演に行くのにあまり気分が乗らないんだよね…。」
来日公演を1週間後に控え、たまたま別のライブで一緒になった友人に私はそうぼやいていた。
「そんなにショックだったの?」
「だってさ、これまでいろいろ信念をもってやってきたアーティストだと思ってて、そういうところもひっくるめて好きだったからさ…」
「アーティストとしての振る舞いがどこまで本心なのかなんてわかるものなの?売れるためのポーズみたいな側面もあるじゃんそういうのって」

いやいや何て夢のないことを言うんや!ってコンマ2秒で突っ込んだが、その言葉を口にしながら、自分の中でも一つ考えが浮かんだ。

『結局、自分はずっと、自分の中で作り上げた理想のアーティスト像を重ねて見ていたんじゃないだろうか』

Matty Healyという人間は、自身のドラック中毒などの経験を乗り越えて、真摯に世界や社会のことを常に考えていて、アーティストとしての自身の考えを表舞台で発信する。そして音楽やライブを通じて世界中のファンを魅了する圧倒的で完全無欠なロックスター。そんな理想像。


でも実際には、素晴らしいアクションやステートメントの表明によって世の中に影響を及ぼすこともあれば、どうしようもないことをやってしまったり、そもそもそんなに何も考えずにいることだってあるはずだ。

つまり、あの騒動以降私が抱えていたもやもやの正体は、自分が思っている以上に、自分の中で完全無欠なものとして作り上げられていた理想のアーティスト像とMatty自身のありのままの姿とのギャップ。そこから目を背けていたからこそ、ずっと尾を引いていたのではないか。

ああなるほど、そういうことか。
そうやって私は、自分が抱く"理想のThe 1975"に失恋したことを、初めて気づいたのだ。


4/26の来日公演を見に行くにあたって

これまで見ていた夢から覚めて、確かに残っていることは少なくともThe 1975の"音楽"は大好きだということだ。

この来日公演は、自分にとっての「自分は"The 1975の生み出す音楽"がどんな風に好きなのか」を再定義する機会になると思っている。

自分が作り上げてきた「理想のThe 1975」という色眼鏡を外して、もう一度彼らの生み出す音楽と向き合ってみる。
勘違いされたくはないのだが、これは決して、件の話と絡めて「結局はアーティストが何をやろうが関係ないし、楽曲自体は好きなのだから楽しめる」という考えに至ったわけではない。先述の通り、どんな人物がどんな気持ちを持ってその楽曲を作ったのか、という部分を大事にしたいという私の考え方はきっと死ぬまで変わらない。

そうではなくて、素晴らしい行動を自ら行うこともあれば時には間違いも犯してしまう、そうしていろんな思いを込めて素敵な楽曲を届けてくれる、そんなありのままの姿に今一度しっかり目を向けたうえで、The 1975の音楽それ自体が好きである以上にThe 1975が生み出す音楽だからこそ好きだと、再び言えるのかということ。

これまでの接し方と同じ形でThe 1975の音楽に触れることは最早叶わない。だからこそ、実際にライブで自分が「どんなふうに彼らの演奏を楽しむのか」想像がついていないのが正直なところだ。
それでもきっとライブに足を伸ばせば、何かが発見できるような予感がしている。The 1975のライブが凄いということは、3度の体験で身に染みている。

あるいは、ライブに行った結果、The 1975の音楽への接し方が見えてこなかったとしても、それはそれで良い気もしている。
「自分はThe 1975の生み出す音楽がどのように好きなのか」を再定義しようとした結果、「これまで自身が想像していた理想のアーティスト像とは異なる、ありのままの彼らが生み出す音楽としては、それほど愛せない」という結論に至るのであれば、そのときはもう彼らを以前のように好きでいることはもう無いのだろう。
どんな結論に至ったとしても、でももう一度彼らの音楽と向き合ってみようと思えただけで、自分にとってはすごく大きな一歩だった。The 1975がそれだけ自分の人生においても大きな存在なのだから。

The 1975に失恋した話。
そしてこれまでとは異なる形でThe 1975を好きになれるのか、もう一度彼らの音楽と出会いに行く話。
2023年4月26日が今は待ち遠しい。


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