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「私は有限なので」グラビアモデル・sと考える、グラビアって一体何?

「グラビアとはなんだろう」。これは「I’m a Lover, not a Fighter.」を運営する私たちに与えられた命題のようなもの。女性たちが水着を身にまとい青空のもとで微笑む姿を指すのか。はたまた、アンニュイでセクシーな表情で見る者の性的興奮を誘う表現が「グラビア」なのか…。その答えを探す中、実際に当事者としてグラビアの世界に身を置くs(えす)さんにお話を伺う機会を得ました。
19歳でグラビアモデルとしての活動を始めたsさん。きっかけは、人生に絶望していた当時、ひとりのスカウトマンに街中で声をかけられたことだと言います。彼女に生きる力を与えたのは自らをカメラのレンズにうつしとり、写真としてその存在を世に残すことでした。『ミスiD 2021』では「魂のグラビア賞」を見事獲得したsさんとともに、グラビアの本質について考えました。

s(えす)
兵庫県出身の23歳。フリーのグラビアモデル。
Twitter / Instagram

ーまずは、グラビアの世界に足を踏み入れたきっかけを教えてください。

s:グラビアは、大学2年生で始めました。上京して関東の大学に通っていたのですが、けっこう、しんどい出来事が続いていて…。大学にも通えない、でも、「せっかく大学に入ったのに辞めるなんて」という負けん気もあったから退学もできず、実家に帰ったり関東に戻ったりを繰り返す生活をしてたんです。それで、「ああ、もうだめだ」って絶望した気もちで渋谷を歩いていたときに、芸能プロダクションからスカウトを受けて。今思えばかなり怪しいんですけど、ちゃんと私を見てくれたんだと思えたし、子どもの頃からアイドルや芸能のきらきらした世界に憧れていたので飛び込むことにしました。

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ーそういった活動が、当時のsさんにとって自分自身を支えてくれるものだったと思うのですが、具体的にグラビアのどういった部分で支えられたと思いますか?

s:撮影会で会う人にもらった言葉で、自分自身を肯定できていたと思います。有名ではないので、撮影会を開いても参加者は少ないんですよ。でも、あるとき参加してくれたお客さんが「誕生日いつ?」って聞いてくれて、答えたら「じゃあそのとき、ケーキ持ってくるからお祝いさせてね」って声をかけてくれたんです。それまでなんの関係もなかった他人なのに、誕生日を覚えて祝おうとしてくれる人がいるなんて…って、すごくうれしかったんです。

私はいつかTVで見たアイドルのような「誰かを救いたい」という気もちはなくて、自分自身のためだけにやっていたんですけど、グラビアというかたちで自分を表現すること自体、救いになりました。自分の素肌をさらすことで、自分も人間だったんだなって思えたというか…。

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ー逆に、それまでは人間だったと思えていなかったのでしょうか。

s:私はそれまで、傷つくことのない人生を送ってきてたんです。だから、グラビアを始める前も、どうやって傷つけばいいかわからなくてどんどん追い込まれてしまって。「傷つく」って自分と向き合う行動でもあると思うから、それができるようになったのはグラビアを始めてからです。

普通に日常を過ごしていても、自分自身を「人間だな」と感じることってそんなにないような気がしていて。でも、なんでもない毎日を過ごしているつもりでもどんどん心臓がすり減ってしまう。グラビアはそれを感じさせてくれて、私は私なんだ、無駄ではないんだと思うことができるんです。

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ーsさんにとってグラビアは自分を救ってくれたものなんですね。「理想のグラビア像」ってありますか?

s:大好きなグラビア写真集が2冊あるんです。ひとつは、モデルのなつかさんの『ナツカイズム』で、もうひとつは堀未央奈さんの『いつのまにか』なんですけど。ふたりとも、いい意味で媚びてなくて、個性にあふれていて、男ウケとか無視してる感じが最高なんです。

じつは、2年くらい前に一度グラビア活動をやめようと思っていたんです。もうすぐ社会人になるタイミングだったし、もういいのかなと…。そんなときに『ナツカイズム』を見て心臓を鷲掴みされて、胸が熱くなってパワーが湧いてきたんです。私もこんなふうに、見ている人にパワーを届けられるような表現ができたらいいなって思うようになりました。

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ーグラビアって、その言葉自体を聞いたときに彷彿とさせられるイメージは「水着の女の子」とか、セクシーな要素が入ったものだと思うんです。でも、今挙げてもらったなつかさんも堀さんも、必ずしもそうではないけれどれっきとしたグラビア作品ですよね。sさんにとっての「グラビア」ってどんなものなのでしょうか。

s:「グラビアってなんだろう?」って思って調べたことがあるんですけど、もともとは写真表現に向いている印刷手法のひとつだって書いてあって。それを知ってから、私の中でもグラビアの考え方が変わったんです。前までは露出が多い、激しい写真を撮ってもらうことが多くて…アメリカンな雰囲気の、銀色の水着を着たりだとか。でも、本当の意味のグラビアはそうじゃなく、人の心を動かせる写真表現のことなんだと思うようになってからは、違うかたちにも挑戦するようになりました。5年くらいやって、少しずつ自信も気もちもついてきたと思います。

ー今後はどういったふうにグラビアに関わっていきたいですか?

s:ナルシストみたいだけど自分の写真を見るの、好きなんですよ。グラビアっていう行為の中に、私は私自身の大切な「核」のようなものを持っているから、まわりに何を言われたとしても、嫌な思いをしたとしても、続けていきたいと思えるんです。もちろん、私じゃなくてもいいと思って撮られるのとか、顔が写ってない写真はあんまり撮られたくないんですけどね。私は有限なので。

これからは私が憧れる人たちのように、癒しでも、もっと熱いものでも、人の生きる糧になるなにかを届けたいです。でも、いつかグラビアができなくなる日が絶対にくる、とも思っています。たとえば、私はもうミニスカートが履けないんですけど…それは年齢的な意味だけじゃなく、気もち的に履けなくなってしまって。それと同じことで、いつか肌をさらすことができなくなる日が来るはずなんです。じゃあ、それまでに精一杯やらなくちゃいけないなと思います。

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インタビュー・テキスト・編集:石澤萌/撮影:飯田エリカ/スタイリング:戸田真琴

ここから先は、飯田エリカさん撮り下ろし写真を20枚以上にわたり掲載します。
夏らしい古民家で撮影した、sさんの魅力あふれる表情をぜひご覧ください。

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