悲しみが通り過ぎていく/戸田真琴
写真の中で、君が、泣いている。
肌をつやと光らせる水分が、どこまでが涙で、どこからが滲み出る汗なのか、その境目すらもグラデーションになって切り分けられないということもまざまざと記録しながら、フィルムはだれかに焼かれてしまわぬあいだは永遠に、そこに存在する。
そこには脈打つ心臓があった。振り乱す髪が肩に張り付く自由があり、君には、向けられたレンズを見るか、それとも見ないか、忘れるか、意識をするか、ほんとうに自分で選ぶという行為が課せられていた。それらのすべてを選ばせる、ものをつくるぼくらの大いなる神様としての、感情があった。ああ、それはいつも悲しみだった。どうしてかいつも悲しみだった。あの悲しみは、シャッターがおりた瞬間、たしかに、生きていた。
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