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アンケート結果から見つめるポートレート撮影のリアル

あたらしいグラビアのかたちを模索するプロジェクト「I’m a Lover, not a Fighter.」。現在公開中の3rd seasonでは、1st seasonから続く「グラビア」という写真表現への挑戦しつつも、撮影現場で生まれる恋愛感情や撮影者・被写体間の非対等な関係を描写しようと試みています。

今回、「I’m a Lover, not a Fighter.」は、人物を被写体としたポートレート撮影の実情を把握し、理解を深めるためのアンケートを実施しました。その理由は、私たちが表現しようとする「グラビア」もポートレート撮影の一種だから。そして、人と人が芸術を生む尊き時間であるはずの「撮影」が、ときには誰かにとっての傷になる可能性を知っていたからです。

では、どうしたらその傷を負わないようにしながら、撮影という芸術自体に向き合うことができるのでしょうか? ポートレート撮影は、本当に危険なものなのでしょうか? この問いへの答えに正解不正解はきっとなく、実際に表現活動を行っている私たち「I’m a Lover, not a Fighter.」でも、容易に回答できることではないように思えます。でも、きっと、まずは考えを巡らせてみること、そのために現在地を知ることが大切なのです。

アンケート概要

・実施期間:2021年8月19日〜8月29日
・アンケート対象者:ポートレート撮影になんらかの形で関わったことがある方
・総回答人数:82名
・設問内容

1. 年齢
2. 性別
3. あなたはポートレートに関する写真表現にかかわっていますか?
4. 関わってどれくらいですか?現在進行形ではなく、過去関わっていた方は開始時期から終了時期までの概算期間を教えてください。
5. どのような形で関わっていますか/いましたか?(撮影者、被写体、その他)
6. その他スタッフの場合は詳しく教えてください。
7. 撮影現場において、違和感を覚えたことはありますか?(例:現場の空気感、進行、立場や役割の差、性差に関するものなど)
8. 7で「はい」と回答した方は、どのような違和感でしたか?具体的に教えてください。
9. 7で「はい」と回答した方は、その違和感を解消するために対策を講じたことはありますか?
10. 9で「はい」と回答した方(対策を行なった方)は、具体的な内容を教えてください。
11. 対策を行う、行わないにかかわらず、なぜそうしたのか理由を教えてください(今後の撮影をスムーズに行うために対策した、自分自身を守るために何もしなかった等)
12. 撮影現場で心理的/身体的安全性は保たれていると思いますか?
13. 12で「はい」と答えた方は、安全性を保つためにどのような工夫をしていますか?
14. 12で「いいえ」と答えた方は、どうすれば安全な撮影を行えると思いますか?(複数人で撮影する、クローズドではない環境で撮影する等)


回答者のプロフィール(設問1〜6)

まずは回答してくださった方のプロフィールから。
年齢は20代が約半数を占めながら、10代から50代、60代までさまざまな方に回答いただくことができました。性別は女性が約60%、男性が約35%、その他が約5%という結果でした。

年齢

性別

「ポートレート撮影に関っている(関わった)期間」についての質問では、1年以上3年未満の方が最多で約37%。つづいて3年以上5年未満が約20%。10年以上ポートレート撮影に取り組んでいるという回答も、約10%ありました。

撮影での役割としては、被写体が半数の約50%、撮影者も約44%。「その他」という回答の中には、被写体・撮影者両方を兼ねているという方や、ヘアメイクやスタイリスト等で現場入りしている方もいらっしゃしました。

歴

関わり方

参考:設問5を踏まえた上で、設問2の性別について、撮影者と被写体、それぞれの役割ごとに算出。すると、撮影者は約63%が男性、被写体は約95%とほぼ全員が女性という結果となりました。

性別_撮影者被写体

ポートレート撮影における「違和感」について(設問7、8)

つづいて、ポートレート撮影を経験する中で抱いたことのある違和感について伺いました。
回答結果は以下の通り。「はい」と、「いいえ」「その他」あわせた回答が半数ずつという結果となりました。また、撮影者と被写体の役割ごとの回答では、撮影者は「はい」「いいえ」が同数ずつだったのに比べ、被写体は約66%が「はい」と回答するなど、全体での「はい」の回答割合をを大きく上回りました。

違和感

違和感_撮影者被写体

具体的にどのような違和感があったのか(設問8)

設問7で「はい」と回答してくださった方には、内容を詳しくお伺いしました。ここでは、回答内容を一部抜粋し、「進行上の違和感」「撮影内容や撮影中の振る舞いに関する違和感」「その他」と3つのカテゴリに分類してご紹介します。

進行上の違和感

・こだわって撮りたいのに、与えられた時間が明らかに短かった。それにも関わらず、求められるクオリティが高かった。(20代/女性/撮影者)
・拘束時間を指定していたのにも関わらず、当日予定していた時間を超えても撮影が続いた。(20代/女性/被写体)
・雑誌に掲載される写真の撮影で、雑誌が発売されるまでどの写真が載るか(セレクトされるか)教えてくれなかった。また、撮影した他の写真も見せてくれなかった。(20代/女性/被写体)
・「好きなときに撮ってください」と言われたので、自分の思うタイミングで撮ろうとしたら、「もっと撮らなくていいんですか?」「撮らないともったいない」と急かされて窮屈な気持ちになった。(10代/女性/撮影者)
・撮影依頼に関して、依頼者様の情報や場所・時間・用途などの記述がない。(20代/女性/被写体)


撮影内容や撮影中の振る舞いに関する違和感

・カメラマンが威圧的だった。(20代/女性/被写体)
・同じモデルなのに、可愛い子は撮ってもらえて、私はフィルムが余ったら撮影するという扱いを何回も受けた。(40代/女性/被写体)
・「理想的なモデル」って言ってもらえて嬉しく思っていたが、2回目の撮影中にキスを迫られ、性的対象としての褒め言葉だったと気づいた。(20代/女性/被写体)
・男性カメラマンが、細か過ぎる指示出しやローアングルでの撮影を勝手にする。(40代/男性/撮影者)
・被写体時の男性カメラマンによるボディタッチ、馴れ馴れしい言葉遣いや距離感。(20代/女性/被写体)
・撮影の企画段階で「露出のあるコスプレをしておけばフォロワーが増えるのでそれをやろう」と言われ、勝手に話を進められた。(20代/女性/被写体)
・事前に聞いていた内容と違うことを要求されたり、身体的特徴について言及されたりした。実際に触られて「興奮した」とわざわざ報告された。(20代/女性/被写体)
・水着グラビア作品でモデルとして協力したが、1回目の撮影後、身体の関係を求められた。応じてしまったため、それ以降は写真を撮ることと肉体関係を結ぶことがセットになってしまい、2回ほど撮影して縁を切った。(20代/女性/被写体)
・身体を不必要なほど触られ、顔を近づけられた。事前に知らされていた内容よりも布面積が小さい衣装を着せられた。(20代/女性/被写体)
・自分が撮られているというよりも、作品を生産するために消費されている感覚があった。(20代/女性/被写体)


その他の違和感

・撮影会に所属していた際に、撮影目的ではなく、会話目的のカメラマンがいた。それを当たり前だと運営に言われ、被写体としての立場がよくわからなくなった。(10代/女性/被写体)
・シェア撮影スタジオ内で、撮影しない人が特定エリアを専有していた。(30代/男性/撮影者)
・モデルのマネージャーが撮影に同席していた。二人きりにしてほしかった。(30代/男性/撮影者)
・プロフィール写真と実物のモデルの顔がかなり違った。(50代/男性/撮影者)
・被写体との相性なのか、しっくり来なくて時間とお金を無駄にしたと感じたことがある。(50代/男性/撮影者)

違和感のカテゴリ別割合は以下の通り(カテゴリ重複した内容あり)。「撮影内容や撮影中の振る舞いに関する違和感」が約48%を占め最も多く、カテゴリ重複分をあわせると約62%という結果となりました。

違和感]カテゴリ

参考:それぞれの役割ごとの割合はどうでしょうか。
撮影者と被写体それぞれのカテゴリ別割合を見てみると、被写体の方が圧倒的に「撮影内容や撮影中の振る舞い」に関して違和感を抱えているようです。上記で並べた具体的な違和感の中身、そして被写体のほとんどが女性であることを鑑みると、撮影現場における性的被害が発生していることは否めないようです。

違和感撮影被写体

違和感への対策について(設問9〜11)

では、そうした違和感に対して、対策をしているのでしょうか。まずは回答者全体から見てみると、「はい」が約半数、「いいえ」「わからない/その他」が約1/4ずつという結果になりました。また、「はい」「いいえ」と回答してくださった方には、どんな対策を行ったのか、また、なぜ対策を行わなかったのか、内容を詳しくお伺いしました。

違和感_対策

「はい」と回答した方は具体的にどのような対策を行ったか? ※違和感を生じさせない、予防策も含む

・進行が優先となってしまう場合はモデルとのコミュニケーションを厚めにし、アフターケアを必ず行う。モデルになにかを伝える時は、柔らかい表現にするなど不快に思わない空気作りを行う。(40代/男性/撮影者)
・モデルが不安に思うような、狭くて密着してしまうような場所や密室は避けて、屋外・誰でも出入りできる場所で撮影を行う。(30代/男性/撮影者)
・否定する言い方ではなく「もっと力抜いて大丈夫だよ」など、リラックスできる雰囲気を作るようにする。(20代/女性/撮影者)
・自分の身を守るために、初めてお会いする方とは出来る限り2人きりにならないようにする。どうしても2人になってしまう場合は、昼の野外撮影かつお店が近くにある場所を選ぶようにした。(20代/女性/被写体)
・すべての男性がそうではないが、職業上下心があって近寄ってくる男性が多いことは否めないため、仕事以外(作品撮り)の撮影は女性にお願いする。(20代/女性/被写体)
・耐えきれず、途中で帰った。(40代/女性/被写体)
・撮影をお願いするのは知り合いのみで、知らない人からのメッセージは返さない。(20代/女性/被写体)


「いいえ」と回答した方は、なぜ対策を取らなかったのか?

・揉めるのが面倒だった。(50代/男性/撮影者)
・何か言ったり、撮影を止めようとしたら逆にもっと酷いことをされるかもしれないと思って怖かった。(20代/女性/被写体)
・何もできなかった。(10代/女性/被写体)

被写体の女性は、設問7〜8で明らかになった性的被害から逃れるために、そもそも異性との撮影、二人きりの撮影を避けるなどの対策を行っているようです。また、対策を行わなかった方に関しては、「面倒だった」「さらに酷いことをされるかもしれない」など、本当は何かしたいのにできなかった、という実情が垣間見えました。

撮影現場での心理的/身体的安全性(設問12〜14)

最後に、これまでの結果を踏まえて、撮影現場での心理的/身体的安全性について伺いました。

※「心理的安全性」とは、「組織やチーム内で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態」を指すビジネス用語です。今回では、撮影という場面において安心して振る舞えるかどうかというニュアンスで伺っています。
※「身体的安全性」とは、「身体に余計な負荷がかからず、危険に晒されることもない、安定した状態」と考えています。

全体の回答結果は、「はい」が約40%と最も多く、次いで「いいえ」が約33%となりました。「わからない/その他」の回答もこれまでで最も多いのも特徴的でした。
「はい」と回答された方には撮影現場で行っている工夫を、「いいえ」と回答された方に今後、安全性を保つためにどのような対処を行えばいいのかも伺いました。

心理的安全性

「はい」と回答した方は安全性を保つためにどのような工夫をしているか?

・撮影したいと思った理由、なぜそのモデル・フォトグラファーなのか、写真の用途や自分がどうするべきか、相手にどうしてほしいかなど、目標や目的をできる限りクリアにする。(20代/女性/被写体)
・お互いに会話の内容や指示を強要しない。撮影現場ではないがSNSへの掲載、TwitterのいいねやRTもお互いに強要しないこと。(20代/女性/被写体)
・嫌なことははっきり嫌だと伝える。物理的にも精神的にも相手と近づきすぎない。(10代/女性/被写体)
・人として信頼関係を築いてから撮影に挑むようにしている。(20代/女性/撮影者)
・コミュニケーションをしっかり取り、相手をリスペクトした上で撮影に臨むようにしている。(40代/男性/撮影者)
・撮影場所をあらかじめ家族や友人に伝える。(40代/女性/撮影者兼被写体)


「いいえ」と回答した方はどうすれば安全な撮影を行えると思う?

・自分と同じ女性、かつ、友達としても仲のいい人に撮ってもらうようにする。(20代/女性/被写体)
・危険なことをする人はたくさんいる。過去、女性がたくさんいる中でピンポイントで自分にだけセクハラされたこともあるので、運としか言えない。(20代/女性/被写体)
・どんなに対策をしても安全を壊そうとしてくる人は一定数いると思う。そういう人々がなぜそういった行動を取るのかを考えて、それぞれに合わせた対策を試行錯誤していきたい。(20代/女性/被写体)
・正直、わからない。(20代/女性/被写体)
・個人を撮影する際には、モデルが1人にならないようにする。また、モデル1人に対して複数の撮影者にならないようにする。とかく被写体側が複数名であるか、もしくは信頼関係のもと、オープンな場所での撮影とする。(40代/男性/撮影者)
・SNSで知り合って撮影日に初めて会うということもかなりあるようだが、マッチングアプリと同じかそれ以上のリスクがあると思うので、漠然とまずは危険性を知ってもらいたい。また、気軽に撮影補助の人を派遣できるサービスが今後普及されたらよりよいと思う。(30代/男性/撮影者)


最後に

まずは、アンケートにご回答くださった82名の方に心より感謝申し上げます。

SNS上で声を上げられる時代となり、ポートレート撮影においても、そのリスクを注意喚起する投稿、実際に被害に遭われた方の投稿などを目にするようになりました。このアンケートの結果からも、実際にそういった危険性があることがわかりました。

加害行為は決して許されるものではありません。立場や性差による危険が確かに存在する世界を、私たちは変えていきたいと考えています。しかし、一側面から見て物事を判断することこそ、自分自身の価値観を固定し、想像力を狭めてしまう可能性があるとも考えたからこそ、このアンケートを実施するに至りました。

ただアンケート結果を読むだけでは、何もわからないのと同然かもしれません。それでも、さまざまな方向からポートレート撮影、ひいては人とともにある写真表現を見つめ、考えるきっかけを持つことはできるかもしれない。世界をよりよいものにするために、できることがあるかもしれない。
そして考えを巡らせ、これまでと異なる目線を注ぐこと自体が、ものごとを愛するひとつの方法だと思うのです。

この記事を最後まで読んでくださったあなたにとっても、そのきっかけになればと、私たちは願っています。

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