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カーネーション

京都の横断歩道で雨に降られていた
人並みに押されて歩き出したとき
一本の赤いカーネーションが落ちているのを見かけた
「かわいそう」とうつむく私に
お姉ちゃんは怒ったように
「仕方がないの。行くわよ」と言った

きっとお姉ちゃんもそう思ってたのに
立ち止まろうとする私を
かばったのだ

私はカーネーションを拾わなかった
すぐにしゃがんで拾えば
お姉ちゃんは怒らずに済んだのに

カーネーションは雨にぬれて
とてもキレイだった
そこにあって
とてもキレイだった

うらはらに見とれて
しゃがむのを忘れた

後悔のぐちゃぐちゃは
お姉ちゃんの手に引かれて
横断歩道を渡り切り
京都の街と混ざっていった



東京のあたたかいミルクに
カーネーションが浮かぶ

その赤さを
ずっと 覚えている気がした

お姉ちゃんのキリッとした声も
ずっと 覚えている気がした

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