明暗の分かれた主人公【沖で待つ/勤労感謝の日】絲山秋子著
「『勤労感謝の日』は働いてる人の話?」
「『沖で待つ』はどんな話か見当もつかない」
タイトルを見た時の第一印象です。
メロディアスライブラリー2022.11.20放送です。
・勤労感謝の日
タイトルとは裏腹に現在求職中の恭子。
ご近所の長谷川さんがおせっかいを焼いたため、勤労感謝の日にある男性とお見合いすることになりました。
しかし、このお見合い相手が
想像以上に失礼な人間でした。
初対面でいきなりスリーサイズを聞いてきました。
恭子は心の中で「あそこのサイズどのくらいだよ」と突っ込んでいますが、さすがに口に出すのは憚られました。
一連のやりとりに、腹が立った恭子は
そのまま出て行きました。
最初に一緒に飲んだのは
会社時代の後輩の水谷ゆかり。
ゆかりがこんなことを話してました。
「カイコって美しい絹の繭を作るのに、
そこから出てきた時は蛾になってる。
絹の布におしっこをする。
私たちの人生は、そうなってるような気がした」
カイコの生態を自分たちの人生に投影。
ゆかりと別れた後、近所の飲み屋へ行きました。
飲み屋の主人に話を聞いてもらってました。
「お母さん怒ってるだろうなぁ」と
家に帰ることに対して気が重く感じてます。
飲み屋の主人にこんなことを言われました。
帰宅した後の描写はありませんでしたが、
「まぁ、仕方ない」と思いながら帰っただろうと想像できました。
・沖で待つ
登場人物に槇原太が出てきます。
主人公は彼に会いに五反田に寄りました。
でもいるはずがありません。
なぜなら彼は、3ヶ月前に死んだからです。
主人公は住宅設備機機メーカーで勤務。
槇原太は彼女の同期です。
最初の赴任地が共に福岡でした。
赴任地がバラバラになっても
2人の絆は変わりません。
槇原太は当時福岡で事務職をしていた井口珠恵さんと結婚します。
その後東京で再会します。
2人はこんな約束をします。
「どちらかが先に死んだらハードディスクを壊す」
それぞれの合鍵も持ってました。
太は7階から人が降ってきて
ぶつかって死にました。
投身自殺の巻き添えです。
主人公は約束を守り、
太のハードディスクを壊します。
他の人に見つからないように。
やっとこさハードディスクを壊したのに
あるノートが見つかりました。
太の妻である珠恵さんが持ってました。
「僕は起きで待つ
小さな船でお前がやって来るのを
俺はおおむねだ
何も怖くないぞ」
「ノートで残してるんかい!」と
突っ込みたくなります。
「沖で待つ」という言葉に、
彼の家族だけでなく、
自分に対しても何かメッセージが
投げかけられているように感じました。
・感想
実は放送を聞くまで、主人公の女性2人が
総合職で就職したのに気づきませんでした。
この本が出版されたのは2006年。
女性の総合職が増えてきた頃の話です。
当時私は高校生。私より10歳前後年上の人たちが該当するでしょう。
『沖で待つ』の主人公は今でも勤務してるが、
『勤労感謝の日』の主人公恭子は無職。
最初はこの対比に気づかずに読みました。
さらに『沖で待つ』の主人公は
会社の人と関係が良好。
周りの人に恵まれたように感じました。
一方、『勤労感謝の日』の主人公恭子は
自分の父親の葬式に来た上司が、
母親にセクハラ。
腹が立った恭子は、上司をビール瓶で殴った末に退職しました。
近所の人が紹介した男性もデリカシーのない人間でした。
居酒屋の店主を除いたら、
周りの人に恵まれないなぁと感じました。
全く違う話なのに、
立場の違いの対比に面白さを感じました。
以上、ちえでした。
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