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コケティッシュな歌声に潜む哀愁

 今回ご紹介するのは比較的最近のアーティスト、歌手・ピアニストとして活躍したBlossom Dearie(ブロッサム・ディアリー、1924~2009)です。

 1924年、シカゴ郊外で生まれた彼女は幼い頃よりクラシックピアノを習っていましたが、後にジャズピアノに転向。成人してからはクラブやバーで演奏するようになります。と同時にウディ・ハーマン楽団など様々な楽団でコーラスに参加、ボーカルとしての活動も本格化していったようです。

 1952年にはヨーロッパに渡りコーラス・グループを結成。その傍らクラブでの演奏活動も継続しており、そこでジャズレコード会社”ヴァーヴ・レコード”の主宰者に声をかけられます。ひとまずアメリカに帰国した彼女は、単独としては初のアルバム『Blossom Dearie:ブロッサム・ディアリー』を録音。その後もアメリカとヨーロッパを行き来しながら多くのアルバムをリリースし、2006年(御年82歳!)までライブ活動も行っていました。

 私が初めて彼女の歌を聴いたのは20年以上前、会社勤めをしていた頃です。その当時は毎月一回シリーズで商品が届く、いわゆる頒布会が社内で流行っており、私もジャズのオムニバスCDを集めていました。その内の1枚に女性ボーカルを集めたものがあり、そこで♪Tea For Two♪♪Like Someone in Love♪を歌う彼女の歌声に初めて触れました。
 その後しばらく音楽から遠ざかっていたのですが、ある日地元の図書館で偶然彼女のCDを発見。それがヴァーヴで録った2枚目のアルバム『Give Him the Ooh-La-La』で、改めて聴いた彼女の不思議な歌声に惹かれファンになり、現在に至るという訳です。

 さて、私の思い出話はこのぐらいにして、ここからは個人的に好きな彼女の歌をいくつかご紹介していきます。

♪Like Someone In Love♪(作詞Jonny Burke、作曲Jimmy Van Hausen、1944)
”最近の私は星を見つめたりギターの音色に聴き入ったり、何だか恋をしている人のよう”
 そんな恋の始まりを感じさせるジャズの名曲。可愛らしくもひっそりとした歌声が、まさに生まれたばかりの恋心を表している気がします。
 ただ、私の中では彼女の歌声にはどこか寂しげというか独りが似合うイメージもあって、この歌の”私”は片想いのままで満足してしまうのでは?と心配してしまうんですよね(^^;)何と言うか想像力を掻き立てる歌声だなぁ、と聴く度に感じます。

♪Inside A Silent Tear♪(作詞Mahriah Blackwolf、作曲Blossom Dearie、1957)
”私の内には静かな涙が”
 彼女自身が作曲した作品。初めて聴いた瞬間に好きになりました。歌詞も分かりづらいけれど詩的というか、感覚で理解するしかないような所が面白いです。

♪Try Your Wings♪(作詞Dion McGregor、作曲Michael Preston Barr、1957)
 ”本当の恋をしたいと願っているなら、まずは羽を動かしてみなさい”
 まだ恋に恋している、そんな少女たちの背中を優しく押すような曲です。
長年観客との距離が近いクラブで歌っていた彼女らしい、一人だけに語り掛けているような歌声が心地好いですね。恋に限らず、まず自分が動くことが大切、そんな気持ちをじんわりと呼び起こしてくれる気がします。

♪Sunny♪(作詞作曲Bobby Hebb、1966)
 愛する人への想いや感謝をつづる歌。
”陽射しが降り注ぐ、昨日私の人生はどしゃぶりだった、眩い陽射し、あなたが笑いかけてくれたら痛みが和らいだわ”
 あなたが居るから辛い人生も明るいものになる、という深い愛の歌。
作詞作曲したBobby Hebbは、兄が刺殺されるというショッキングな事件の悲しみを元にこの曲を作ったそうです。愛による救いを歌の中だけでも得られたら、という思いだったのかもしれませんね。もちろん現実でも彼の気持ちが救われていたことを願いたいです。

 以上、Blossom Dearieの紹介でした。今回触れたのはほんの数曲ですが、彼女の歌声の独特さは一曲聴くだけでも伝わるかと思います。
 少女のような可愛らしさの中に、ほんの少し甘い毒が潜んでいるような不思議な歌声。ヨーロッパでの生活が長かったこともあり、ジャズシンガーと一括りに出来ないアンニュイさ。個性の強さが聴く人を選ぶ気もしますが、ハマった時には抜け出せなくなる、そんな魅力的なアーティストです。

それでは最後まで読んで頂きありがとうございました。
よろしければまた遊びに来てください(^^)

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