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「ドライブ・マイ・カー」監督:濱口竜介/2021

〜 こんなお話 〜
家福悠介と音、夫婦の間には、長くつづく二人だけの習慣があった。ひとつは家福が舞台の台詞を覚えるときの方法で、家福は、相手役の台詞部分だけを音がカセットテープに録音し、それに自分の台詞で答えながら台本を覚えてゆくという手法を好んでいた。家福は愛車「サーブ900ターボ」を運転するときにこのテープを流し、自分の台詞をそらで繰り返しながら台本を身に染みこませた。そんなある日、音が急死する。それは、音から「帰宅したら話したいことがある」と言われた日の夜だった。家福が家に帰ると音は床に倒れていて、意識を回復しないまま死んでしまった。最後の別れを交わすこともできなかった。 

<レビュー>

カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞。その後、世界各地の映画祭で多くの賞を受賞し、さらには近々開催される米アカデミー賞でも作品賞をはじめ4部門にノミネートされる快挙!すごい勢いですね。

日本アカデミー賞も、「こんなに世界で賞を取ってんだから、国内で評価しないわけにはいかんな・・・」ってな具合で、8冠あげていたのには、逆に日本の“小物感”が出ちゃったような気がしないでもないですがw

そして、この映画、ものすごく良かった。さすが、世界で評されるだけはある。納得の素晴らしさでした。

今までの邦画とは一線を画す芸術性の高さ。キアロスタミ作品とかを彷彿とさせます。さらに後半の、三浦透子演じるドライバーの故郷へ行くシーンなんかは、船のシンメトリーのアングルや機械音が、まるで宇宙船のポッドのよう。轟々と蠢く日本海も、タルコフスキー「惑星ソラリス」の海のように、意思をもって、2人を感覚的世界へ誘導しているかのような、そんな現実と虚構が曖昧になる演出や映像には息をのみました。

村上春樹原作の映画は、これまでいくつかありますが、村上春樹ならではの世界観をここまで見事に映像化したのは、「ドライブ・マイ・カー」をおいてないと、個人的には思います。

物語は、大切な人を失った喪失感と切望、そしてそれを受け止め、生きることに希望を見い出すまでが、同様の主題であるロシアの戯曲「ワーニャ伯父さん」のセリフと重なりながら描かれています。

爆心地・広島が舞台っていう設定も、日本以外の国にとってわかりやすいのかもですね。

ラストの「正しく傷つくべきだった」というセリフが、個人的にはぐっときました。逃げたい、目をそらしたい、無かったことにしたい・・・なかなか「正しく傷つく」ことって難しいものです。

奇しくも、ロシアといえば、今まさに戦争の最中。大切な人を失った喪失感が、ロシア戯曲を通して語られるのは、もはやシニカルにさえ感じます。(この作品は2021年公開で戦争なんて始まってませんでしたから、なんとも悲しい偶然ですね)

あと、個人的にはキャストが秀逸!演劇祭の稽古をつけるシーンで、いわば棒読みみたいな、感情を乗せずに話すっていうセリフ合わせをするんですが(これは濱口監督の手法のようで・・・すみません、私、濱口監督はこれ一本しか観たことなく・・・)、西島秀俊といい、同監督作「寝ても覚めても」主演の東出昌大といい、感情薄めのキャストが、濱口監督は好みなのかなと。

たとえば、吉田鋼太郎とか、ただ喋るだけで感情がもりもりっていう感じですけど、西島秀俊も東出昌大も、ともすれば、下手っぽく見えがちなセリフまわしのときもあったり、そういうのが、この濱口監督の作品にマッチしている感じします。

そして、岡田将生!

「僕、場違いだと思う」って劇中で言ってましたが、そうなんですwこの作品の中に、岡田将生が出てるってちょっと場違い感あったんですwだから、劇中の舞台稽古で「僕、場違いじゃ・・・」って自分で言ってて、「ほんまそれ!」ってなりました。でも、それも含めて、すごいよかった。岡田将生の生々しさが、虚構のようなこの作品にリアリティを与える役割を担っていたように思います。

三浦透子もよかったなぁ。西島秀俊だけじゃなく、三浦透子にも、もっと賞あげて!!

とにもかくにも、米アカデミー賞でどんな結果になるのか。楽しみです!!!

シネ・ヌーヴォ(大阪)で、濱口竜介監督の特集上映やってます!さらに、アッバス・キアロスタミ特集もやってる!!贅沢なラインナップー。

http://www.cinenouveau.com/sakuhin/hamaguchiryuusuke2022/hamaguchiryuusuke2022.html


ドライブ・マイ・カー/2021
<キャスト>
西島秀俊
三浦透子
霧島れいか
岡田将生
パク・ユリム
ジン・デヨン
ソニア・ユアン

<スタッフ>
監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介、大江崇允
撮影:四宮秀俊
音楽:石橋英子
編集:山崎梓
助監督:久保田博紀・川井隼人
監督補:渡辺直樹・大江崇允
ヘアメイク:市川温子
装飾:加々本麻未
プロデューサー:山本晃久

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