「戒厳令」監督:吉田喜重/
〜こんなお話 〜
大正十年の夏も終りに近いある日、小さな風呂敷包みを持った女が、北一輝のもとを訪れた。朝日平吾の姉と名乗る女は、風呂敷包みに入っている血染めの衣を一輝に渡した。それは、安田財閥の当主・善次郎を刺殺し、その場で自殺した平吾の着ていたものであった。平吾の遺書を読む西田税、その遺書には明きらかに、北一輝の「日本改造法案」の影響が読みとれた。一輝はその衣を、銀行へ持って行き、現われた頭取に、平吾がこの衣を自分のもとに届けた心情を語った。
<レビュー>
主演に三國連太郎を迎えて、二・二六事件で処刑された北一輝を描いた作品です。
私はあまりその手の歴史に詳しくないのですが、ドラマティックな革命の話ではなく、人間臭い北一輝を通して、天皇制など深いテーマをえぐり出しています。
吉田喜重は自身の著書の中で、『エロス+虐殺』について、
と語っていますが、この『戒厳令』についても、脚本家こそ違いますが、閉じられた時間(吉田喜重で言うところの、無時間性でしょうか)から現代の空白を埋めようとするような、そんな印象が感じられました。
自分の子を恐れる北。兵士たちに「やれとは言っていない」と口では言いながら、そうしむけていく北。
作中で『天皇に許しを得たわけではない。天皇は「私がここにいる」ということを、ただ知っているだけ』という主旨の言葉がでてきますが、北とこうした天皇像があらゆるシーンでだぶり、天皇の位置づけ、ひいては戦争責任にまで言及しているかのようです。
ちなみに、撮影は吉田喜重と数々コンビを組んでいる長谷川元吉。
壁や影などで画面を大胆に切り取る構図は覗かれているような、覗いているような、そんな緊迫ただよう視線が感じられました。
吉田喜重は、いつも刺激的です!
戒厳令/1973
<スタッフ>
監督:吉田喜重
製作:岡田茉莉子、上野昂志、葛井欣士郎
脚本:別役実
企画:吉田喜重、葛井欣士郎
撮影:長谷川元吉
音楽:一柳慧
特別演奏:観世栄夫、高橋悠治、小杉武久
<キャスト>
三國連太郎
松村康世
三宅康夫
倉野章子
菅野忠彦
飯沼慧
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?