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戴帽式

いつからだろうか。
母が学校行事に来なくなったのは…。
小学校中学年くらいからだろうか。

だから私も学校のお便りを渡さなくなっていた。

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私は高校を卒業し、
看護師の専門学校に通っていた。
入学して数ヶ月が経ち、
「戴帽式」のお便りが配られた。
なかなかのイベントらしく、
ナイチンゲール誓詞を唱えながら、
自分への誓い、想いを胸に刻むような
行事であることを聞いた。

いつもなら捨てるお便りを
その時は母に渡してしまった。

戴帽式当日の会場は、
戴帽式が嬉しいのか、
落ち着かないクラスメートと
ビデオやカメラを待った保護者の方で、
狭い会場は熱気を帯びていた。

「我はここに集いたる人々の前に
         厳かに神に誓わん」

ナイチンゲール像の蝋燭の灯りを受けとり
その明かりの中で、
ナースキャップを被せてもらう。
感動して泣いてる子も数人いた。

式が終わり、友達は家族と写真を撮ったり、
友達同士で花束を持ち、記念撮影をしていた。

母は来なかった。

私はすぐさま帰ることにした。

私はなぜ母に、お便りを見せてしまったのか。
どうせ読むわけもなく、捨てられるだけなのに。

『我はここに集いたる…

母はナースになりたかったはずなのに…。

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