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[短編小説]野うさぎ母さんの 北風トマトのチーズグラタン (約2400文字)


[短編小説]
野うさぎ母さんの
北風トマトのチーズグラタン


「北風トマトのチーズグラタン、
この季節にしか食べられない冬トマトの甘味をご堪能ください
🍅

 森のカフェ・ラピーヌに、
季節のメニューが加わった。


さて、お店をのぞいてみましょうか…




 ここは森のカフェ。うさぎの母さんが開いた「カフェ・ラピーヌ」は、
大きな木の下にある森の隠れ家のようなお店。

 近くには夏にキャベツやニンジンを育てるラピーヌの畑があるそうよ。
雪に埋もれる畑は冬は、「天然の冷蔵庫」になるんですって。
 雪の下から新鮮な野菜を掘り起こし料理してくれるカフェは、
「食べ物の少ない冬にありがたいわ」
と、森の動物たちに評判の店だ。

 お母さんうさぎのラピーヌの得意メニューはキャベツやニンジンの素材を活かした料理。
ニンジンとキャベツのパリパリサラダは、もちろん。
焼きキャベツのステーキ、
マッシュポテトを包んで煮たロールキャベツetc

 子うさぎたちの大好物のニンジンは、そのままでも甘いけど、
特製ドレッシングにつけると取り合いになる程の美味しさらしいわ。

 中でもやっぱり、甘く煮込んだニンジンのスイーツは絶品。
ニンジンタルトは、すぐ完売するから、ニンジンタルトを食べられる動物は少ないの。早く並ばなきゃ。

 あら、今日は野ネズミ親子がもう来ているみたい…



「早くから並んだのに、ニンジン・タルトは今日も売り切れなの?」

 「ニンジンタルト売り切れました」の貼り紙を見た野ネズミの親子は、
肩を落とし帰ろうとしていた。
 すると厨房からキャベツ柄のエプロンをつけたシェフのラピーヌが、
店の方に顔を出した。

「野ネズミさん、待って…
今日は、いいトマトが手に入ったの」
「まあ、トマト?でも、トマトは夏の野菜じゃないの?」
 野ネズミ母さんは、不思議そうに首を傾げた。

「私も、そう思っていたわ。でも、
最近、雪国に棲む農家の『アナグマさんの北風トマト』が評判だって噂を聞いてね。その北風トマトを、やっと仕入れられたの」
「北風トマト?」
「ええ、今日のランチメニューの『北風トマトのチーズグラタン』が、今、焼き上がるところなの。食べて行かない?」
「北風トマトのチーズグラタン?
本当は…トマトは、ちょっと苦手なの。でもラピーヌさんのオススメなら食べてみようかしら」
「まず、これを食べてみて」
と言って、前菜のトマトのジュレを出した。
ストーブで暖かくなった部屋で食べる、ひんやりしたジュレは食欲をそそる。

 野ネズミ親子がそれを食べ終わる頃、
「焼き上がったわ!」と言って、
ラピーヌは、熱々のグラタンを運んできた。
チーズは、まだグツグツと音を立てている。
茶色いグラタン皿には、
こんがり焼けたチーズの下に、
たっぷりのキノコに混じって、
トマトとアボカドの鮮やかな赤と緑がのぞいて見えた。

「熱いから、火傷しないようにね。
ラッティ君には取り皿を持ってくるわ」
野ネズミの親子は、その美味しさに驚いた。

「うわっ、あま〜い!このトマトおいしいね、母ちゃん」
ラッティがまず、声をあげた。
「ホントに美味しい!なんて甘いの?
実はね、子どもの頃からトマトが少し苦手だったの。こんなに美味しいと思ったのは初めてよ!」
野ネズミ親子は美味しそうに、グラタンを平らげた。

「喜んでくれて嬉しいわ。ラッティの口にも合って良かった。それじゃあ、デザートにしましょうね」

 ラピーヌはケーキを運んできた。
トマトのフワッフワッとしたシフォンケーキの上にはスライスしたトマトが並べられている。
ケーキの横には真っ白なクリームが雪だるまのように盛られて、にんじんで顔になっている。
仕上げに甘く煮込んだニンジンジャムで飾り付けられていた。

「お母さんにはドングリコーヒー、
ラッティ君にはカモミールティーね。
ラッティ、もうハチミツは大丈夫かしら?」

大喜びした、野ネズミ親子。
「冬の間に何回も食べたいわ。
また来るわね!」
「ありがとう、ラッティ君に、お土産ね。はい、ドングリクッキーよ」
「うわー!ありがとう、ラピーヌおばさん」
野ネズミ親子は、嬉しそうに雪の積もった森の中へと帰っていった。

お母さん野ネズミと小ネズミがスキップすると、ポチッポチッと、真っ白な雪の上に小さな足跡がついていく。
でも、また降り出した雪は、
その足跡をすぐに隠してしまう。。。


いつか、森に行ったらのぞいてみて。
深い森の奥の大きな木の下にあるという、森の隠れ家カフェ。
近くにはキャベツやニンジンの小さな畑。

畑に雪が積もる季節に、
雪の冷蔵庫から野菜を出してお店を開くカフェ・ラピーヌ。
うさぎの母さんラピーヌが美味しい
「北風トマトのチーズグラタン」
を焼いて待っているから。


        🐰


        🐰


     🥕おしまい🍅




北風トマトという架空の「冬のトマト」の童話を想像して書いたのですが、
「越冬トマト」を育てる農家のネット記事がありました。
本当に、とっても甘いそうです。

曽我農園 越冬トマト🍅

この赤い果実がおいしさの密度上げるのは、白い雪が舞う冬から春。寒さから実を守るため、ごく小ぶりなカラダの中に、甘みと旨みをぎゅっと蓄えて育ちます。こうして厳しい環境を生き抜いて、フルーツのような味をもつトマトになるのです。

でもいちばん大変なのは春の兆しを感じる2〜3月。吹雪の翌日に強い日射しが照りつけるなど、環境変化が激しいからです。ハウス内の温度差は、昼夜で25℃以上にもおよぶ目まぐるしさ。そんな過酷な日々を経て、トマトのおしりにスターマークと呼ばれる無数の筋が入ったら「いい旨みがつまってますよ」という合図。甘みだけでなくトマトらしい酸みを併せもつ、濃く深い味のトマトが完成します。

曽我農園オリジナル「越冬トマト」、
その圧倒的な旨味と甘味のわけ



https://atsumichan-tomato.com/archives/2179



小牧幸助さん、いつもありがとうございます😊
#シロクマ文芸部
#北風と
参加させて頂きます♪


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