日本のヒーロー ~なぜ藤岡弘、は顔を隠すのか~

 

「仮面」ライダー

 藤岡弘、さんと聞いて、みなさんはどんな印象を持たれるでしょうか。
 おそらく多くの人が『仮面ライダー』を思い浮かべたと思います。
 劇中で藤岡さん演じる主人公は、悪の結社にバッタの能力を持つ改造人間にされてしまいました。そのため戦闘時には仮面ライダーに変身して、その能力を発揮します。
 この「変身スーツ」で顔から体まで隠すことで強大な能力を使用できるという設定は、現在ではヒーローものの定番となっています。
 また、『ウルトラマン』は宇宙人であるウルトラマンが、人間の主人公と一心同体となることで、人間からウルトラマンへの変身を可能にしています。
 このように、日本の男性ヒーローは、通常以上の力を使う際には顔や体を隠して戦うことがお決まりとなっています。
 
 

「神」アイドル


 そんなの当たり前でしょ、と思う人もいるかもしれませんが、アメリカで有名な『スーパーマン』や『アベンジャーズ』を思い出してください。
 スーパーマンは顔を隠していませんし、アベンジャーズのメンバーは顔を出すか、出さないかはキャラによって違います。
 それに比べて、日本のヒーローものはほぼ全てが顔を隠しています。
 『エイトレンジャー』や『スーパー戦闘 純烈ジャー』のように、アイドルがヒーローを演じる時も、わざわざ顔を隠してしまうのです。
 さらには、『セーラームーン』など、女の子の向けのアニメに登場するお助けキャラの男性も、ほとんどが仮面を被っています。
 
 私は、この顔を隠す行為=神になることだと解釈しました。
 

知らないけれど、知っている


 私が顔を隠す=神になることだと思う理由は、ヒーローものの元祖『月光仮面』に見ることができます。
 
 1958年に放送開始した『月光仮面』その見た目は、頭に白いターバン、サングラスに白いマフラーで鼻の上まで覆われています。そう、ほとんど顔が見えません。
 この『月光仮面』の主題歌「月光仮面~月光仮面は誰でしょう~」の歌詞に、こんな一節が出てきます。
 
 どこの誰かは知らないけれど
 誰もがみんな知っている
 
 これを神様のことを歌ったものだと思って読んでみてください。
 みんな神様という存在は知っていますよね。でも、どういう顔形をしているのかは誰も知らない。
 いや、日本の神様は巻物や銅像で見られるような顔形をしているんだ、と思う人もいるかもしれません。おそらく仏様の顔を思い浮かべていると思いますが、これは「本地垂迹説(ほんぢすいじゃくせつ)」からきたものです。

 日本に仏教が入ってきた頃、神仏習合の思想として、釈迦や菩薩などは神道における神々の仮の姿であるという考え方が生まれました。
 つまり、人間が見ているものは神様本来の姿ではないし、本来の姿は誰にも見えないということです。
 神様の印象として「どこの誰かは知らないけれど 誰もがみんな知っている」というのがしっくりくる日本人は多いと思います。
 正月もクリスマスも神様に関係あることだとは知っているけれど、どんな神様かは知らない。
 

権力者は顔を隠す


  次は、顔を隠すことによって、超人的な力を使える点を見ていきます。
 
 私は先ほど、顔を隠す=神になることだと言いました。
 日本には神様がたくさんいますが、その神々の守護を受けた存在が天皇だとされてきました。
 近代までは天皇は神の子孫でしたし、近代以降も「現人神(あらひとがみ)」と称されていました。
 そのため、天皇はやたらめったに人前に顔をさらしませんでした。光源氏などの古典文学を習った際に、「御簾(みす)」と言葉が出てきたはずです。
 天皇は通常この御簾の内にいて、特定の人しかその顔を拝むことができなかったのです。
 中世から力を持ち始めた将軍もそうです。外出時は必ず籠に入っていたし、医者が脈をはかる時も、顔を見ないように将軍の手首に結んだ糸を持って隣の部屋からはかったそうです。
  このように日本の歴史上、権力者たちは顔を隠してきました。
 

継承されるヒーロー

 
 神様や権力者たちが顔を隠してきた歴史が、ヒーローものの顔を隠すという設定につながったのではないでしょうか。
 仮面ライダー1号がバッタをモデルにしている理由の1つも、「自然の象徴」だと言われています。

 最近では、いろんな種類の仮面ライダーが登場し、女性のライダーも出てきました。しかし、依然として顔を隠す行為は継承されています。
 日本人はよく無宗教と言われますが、こういう何気ないところに日本の宗教観がのぞいている気がします。

 ありがとうございました。

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