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みけこの散歩17 (待ち合わせのない旅のこと)

予約した特急に乗るために、朝早く私を叩き起こし、急ぎ足で駅に向かった。

それにちゃんと乗れば、決められた入場時間に間に合う

時間を守るために急ぐ理由はそれだけ

いつも約束はチケットだけ。



窓側の席に座り、イヤフォンをつけ会話がないことを忘れる

本だって持っている
ゆっくり読めばいい

でもせっかくだからと車窓に目を向ける

流れる緑の鮮やかさ
菜の花の黄色さ
山に残る桜


誰かと分かち合えれば…
なんて思ってはだめ

綺麗だな、だけでいい

綺麗な景色を見つけて良かったじゃないか!

トンネルに入る度に1人の私が私を見つめる

崩壊しそうな気持ちをなん度も立て直す

積み上げていく積み木に手を添え崩れないように

そっと慌てて私を立て直す

ずっと行ってみたかった所に向かってるのだから、予習をしようとスマホを探る

私をあやすように、イヤフォンの音楽に気を向けさせる

せっかく遠くに行くのだから

せっかくのものを取りこぼさないように

もう次はきっとそこに行かないのだから

何が見たい?

何が食べたい?

何が欲しかった?

さあ楽しもう!楽しまないともったいない!

追い立てるけれど、晴れているのに黄砂で覆われた空のような、薄ぼんやりとした心は張りがない

晴れようとする太陽を覆いつくすその砂を吹き飛ばす風が欲しい

でもそれを風に頼むのでなくて、自分で吹き飛ばすしかないと言い聞かせる



川を渡る長い鉄橋を走るその音が、遠くの街に来たことを知らせた。

見慣れぬ車窓の景色に気持ちを紛らわせ自分を引っ張り出す

速度を落としてガタンと揺れる電車に肩を揺さぶられる

ほら、しっかり!と

迷子にならないように、次の乗り継ぎを間違えないように

目的地に待つ人は居ないけれど、
辿り着こう

そして、いつものように
1人でも楽しそうに、1人でも美味しそうに

自由を楽しんでるように見えるように
まるで1人の方が好きみたいに
できるだけ軽い足どりで
ひとり歩こう

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