【2023年法改正情報】景品表示法:誤認表示に罰則が!?

2023年5月10日成立、同月17日公布の「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律」により、不当景品類及び不当表示防止法(略して「景表法」という。)が改正された。

改正内容は次のとおりだが、本稿では、優良誤認表示及び有利誤認表示に対する罰則規定の新設について紹介することとする。

<改正内容>(詳細はこちら

  1. 確約手続の導入(是正措置計画申請・認定)

  2. 課徴金減額に関する返金措置につき第三者型前払式支払手段(電子マネー等)による返金を可能に

  3. 課徴金制度の見直し(売上金推定規定新設・課徴金加算規定新設)

  4. 罰則規定新設

  5. 適格消費者団体による開示要請規定・開示努力義務規定新設

  6. その他(送達規定の見直し・外国執行当局への情報提供制度新設)

https://www.caa.go.jp/law/bills/assets/representation_cms212_230417_01.pdf

優良誤認表示及び有利誤認表示に対する罰則規定の新設

従前の状況


これまでにも「優良誤認表示」(景表法第5条第1号)と「有利誤認表示」(同条第2号)は禁止されており、それらは、差止命令等の措置命令(同法第7条)や課徴金納付命令(同法第8条)等の制度が抑止力となっていた。

景表法 
第5条(不当な表示の禁止)
事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

罰則の必要性


しかし、「表示内容について何ら根拠を有していないことを認識したまま表示を行うなど、表示と実際に乖離があることを認識しつつ、これを認容して違反行為を行うような悪質な事業者」は、「ある程度の根拠はあるが過度に誇張してしまったというような結果的に景品表示法違反行為を行ってしまった事業者とは違って、表示と実際が異なり、一般消費者を誤認させることを認識しながら不当な表示をしているものであり、行政処分にとどまらず、刑事罰による抑止の対象とする必要がある」(「景品表示法検討会報告書」21頁)とされ、措置命令や課徴金納付命令等の行政処分による抑止力に加え、刑事罰による抑止力が必要とされるに至っている。

要は、こういうことである。

ビジネス上、一定の根拠はありつつも、ある程度の誇張やその延長線上にある「悪気のない」やり過ぎ(いわゆる「盛りすぎ」)は想定される。これも一般消費者保護の観点から禁止すべきであるが、その程度であれば、措置命令や課徴金納付命令等による行政処分で対応することで十分である。
他方で、当初から一般消費者を騙すつもりで何ら根拠のない不当表示を行っている事業者は公衆向けに詐欺を行っていることと同義であり、もはやビジネスではなく、刑事罰による抑止力も必要である。

なお、報告書では、他の誇大広告等につき行政処分に加えて刑事罰の対象となっている例として、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(通称「薬機法」)、「宅地建物取引業法」(通称「宅建業法」)、「特定商取引に関する法律」(通称「特商法」)や旅行業法が参考とされている。

罰則規定


景表法第48条が新設され、優良誤認表示及び有利誤認表示に対して、次のとおり罰則が設けられた。

景表法
第48条 
次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、100万円以下の罰金に処する。
 自己の供給する商品又は役務の取引における当該商品又は役務の品質、規格その他の内容について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると一般消費者を誤認させるような表示をしたとき。
 自己の供給する商品又は役務の取引における当該商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者を誤認させるような表示をしたとき。

行政処分の対象となる優良誤認表示と有利誤認表示の構成要素は「著しく優良であると示す表示」/「著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」というように、不当表示の要件が断定的な表現(「有利である」/「誤認される」)となっているのに対し、罰則の対象となる優良誤認表示と有利誤認表示の構成要素は「一般消費者を誤認させるような表示」であり、曖昧で幅のあるような表現となっている。

この点、特に、罰則の対象となる方が当てはめやすいことから刑罰の謙抑性に反するとして、景表法第48条の「誤認させるような」を同法第5条第2号同様「誤認させる」と(限定?)解釈すべきであるとする見解もある。

たしかに、法制上の不備や不具合がある感は否めないが、しかし、景表法第5条(特に第2号)の表現と同法第48条の表現にかかる趣旨は、上記見解のように限定解釈するまでもなく異なるものとは思われない。
(むしろ景表法第5条の方に法制上の不備があるように思える)

いずれにせよ、一般消費者を誤認させるような表示、つまり、一般消費者を誤認させるに足りる表示かどうかが問題であり、実際に一般消費者を誤認させたことは問題ではない。

この点、消費者庁は次のように考えている。

本法の不当な表示に関する規制は、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による適正な商品又は役務の選択を確保することを目的として行われるものである。

このため、特定の表示が「著しく優良であると示す」表示(又は「著しく有利である」と「誤認される」表示)に該当するか否かは、業界の慣行や表示をする事業者の認識により判断するのではなく、表示の受け手である一般消費者に、「著しく優良」(又は「著しく有利」)と誤認されるか否かという観点から判断される

また、「著しく」とは、当該表示の誇張の程度が、社会一般に許容される程度を超えて、一般消費者による商品又は役務の選択に影響を与える場合をいう。

すなわち、優良誤認表示(又は有利誤認表示)とは、一般消費者に対して、社会一般に許容される誇張の程度を超えて、特定の「商品又は役務」の内容(又は取引条件)について、実際のもの等よりも著しく優良 であると示す表示(又は著しく有利であると誤認される表示)である。

このような表示が行われれば、一般消費者は、商品又は役務の内容(又は取引条件)について誤認することとなる

不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」第2(2)

ちなみに、景表法第5条第1号が「一般消費者に誤認される表示」と規定されていないのは、優良誤認表示の場合、表示自体が直接的に実際のものとかけ離れた表示が行われる(国産ブランド牛ではないのに、国産ブランド牛であると表示する)ことから、当該表示そのものが一般消費者に誤認される表示となるため、あえて「一般消費者に誤認させる表示」と規定する必要がないためである。
他方で、景表法第5条第2号が「一般消費者に誤認される表示」と規定されているのは、取引条件等に関する表示そのものは直接的には一般消費者に誤認される表示ではなく(「最安値」等の表示であれば直接的に一般消費者に誤認される表示となり得る)、一般消費者に「これはお得だ」と誤認される表示(定価20万円→特価10万円半額セールなどの二重価格表示)となることが通常であり、「一般消費者に誤認される表示」と規定する必要があるためである。

指定告示表示への罰則


景表法には「指定告示表示」の禁止も定められており(同法第5条第3号)、それは措置命令や課徴金納付命令等の行政処分の対象にはなるものの、今回の改正による罰則の対象にはならない。

ちなみに、この「指定告示表示」として、いわゆる「ステルスマーケティング」が指定され、2023(令和5)年10月1日から施行される予定となっている(別稿にて取り上げる予定)。

両罰規定


優良誤認表示と有利誤認表示については、次のとおり両罰規定も設けられた。

景表法
第49条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。
 (中略)
 前二条 各本条の罰金刑

以上

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