【朗報なるか!?】クレカ積立の上限が月30万円に!?

本稿のねらい


前回の同趣旨の記事同様、既に時機後れの感が否めないが、金融庁・金融審議会に設置された「資産運用に関するタスクフォース」(資産運用TF)の第1回会議(資産運用TF第1回会議)の資料にて、「その他の論点」として「累積投資契約のクレジットカード決済上限額の引上げ」が議題に挙げられている(資産運用TF第1回会議資料3・24頁本資料〕)。

資産運用TF第1回会議資料3・24頁

本資料には、「つみたて投資枠の毎月10万円までとするか、あるいは、成長投資枠も含め毎月30万円までとすることも考えられるか。」との記載があり、結論として毎月の上限を30万円までとすることに賛成したいが、その構成として、本資料の内容と筆者の考えに差異があることから、改めて、少し検討してみた。前回記事にて筆者の理解に一部(金商業府令第149条第1項第1号の解釈の部分)誤りがあったため、謹んでお詫び申し上げる。


金商法第44条の2第1項の読み方


本資料には、「クレジットカード決済による投資を金商業者等が受託する行為は、現行規制上、原則禁止されているが、一定の要件(注)を満たす場合には投資可能とされている。」と記載されており、「日本証券業協会資料に基づき金融庁作成」と引用表記されているものの、金融庁としての見解を示すものと考えられる。

この点、「クレジットカード決済による投資を金商業者等が受託する行為」とあるが、ここには「受託する行為」とあることから、金商法第44条の2第1項第1号の問題と考えているものと思われる。

(その他業務に係る禁止行為)
第44条の2 金融商品取引業者又はその役員若しくは使用人は、金融商品取引業及びこれに付随する業務以外の業務(第2号及び第3号において「金融商品取引業者その他業務」という。)を行う場合には、次に掲げる行為をしてはならない。
 第156条の24第1項に規定する信用取引以外の方法による金銭の貸付けその他信用の供与をすることを条件として有価証券の売買の受託等(委託等を受けることをいう。以下同じ。)をする行為(投資者の保護に欠けるおそれが少ないと認められるものとして内閣府令で定めるものを除く。)
 (略)
 前2号に掲げるもののほか、金融商品取引業者その他業務に関連して行う第2条第8項各号に掲げる行為で投資者の保護に欠け、若しくは取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させるものとして内閣府令で定める行為

金商法

しかし、金商法第44条の2第1項第1号でいう「受託等」、つまり「委託等を受けること」の「委託等」は、次のとおり「媒介、取次ぎ又は代理の申込みをいう」とされているが(同法第44条第1項第1号)、公募型投資信託を証券会社等が販売する場面において、このような「委託等」が生じることはないと筆者は考えている。

(二以上の種別の業務を行う場合の禁止行為)
第44条 金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、2以上の業務の種別(中略)に係る業務を行う場合には、次に掲げる行為をしてはならない。
一 投資助言業務に係る助言を受けた顧客が行う有価証券の売買その他の取引等に関する情報又は投資運用業に係る運用として行う有価証券の売買その他の取引等に関する情報を利用して、有価証券の売買その他の取引等の委託等(媒介、取次ぎ又は代理の申込みをいう。以下同じ。)を勧誘する行為

金商法

つまり、前回の記事でも紹介したように、証券会社等の販売会社は、あくまで投資信託の受益権の取得勧誘を行うのみで、「取次ぎ」や「代理」などを行っているわけではなく、単に、運用会社と投資家の間を繋いでいるだけである。

再掲・2023年9月30日筆者作成

そのため、筆者は、証券会社等の販売会社が投信受益権の販売、つまり取得勧誘行為を行う場面では、金商法第44条の2第1項第3号の禁止行為の問題となると考えている。

あるいは、本資料における「クレジットカード決済による投資を金商業者等が受託する行為」との記載は、金商業者等が運用会社(投資信託の当初委託者兼受益者)から投資家への販売について受託していると読むのが正解だろうか。いや、「投資を…受託する行為」であるから、投資を行う投資家から何らかの行為を受託していると読むのが正しいように思われる。

そうすると、やはり金融庁は、クレカ決済投資について、金商法第44条の2第1項第1号の「有価証券の売買の受託等」であると考えているのだろうか。どういう整理だろう…

金商業府令第149条第1項の読み方


仮に、金商法第44条の2第1項の読み方として、金融庁の理解が誤りであり、筆者の理解が正解だとすると、次に検討すべきは金商業府令第149条第1項である。なお、仮に金融庁の理解が正解ならば、次に検討すべきは金商業府令第148条第1項である。

(金融商品取引業者その他業務に係る禁止行為)
第149条 法第44条の2第1項第3号に規定する内閣府令で定める行為は、次に掲げる行為とする。
 資金の貸付け若しくは手形の割引を内容とする契約の締結の代理若しくは媒介又は信用の供与(法第156条の24第1項に規定する信用取引に付随して行う金銭又は有価証券の貸付けを除く。以下この号において同じ。)を行うことを条件として、金融商品取引契約の締結又はその勧誘を行う行為(第117条第1項第3号に掲げる行為によってするもの、前条各号に掲げる要件の全てを満たすもの及び次に掲げる要件の全てを満たすものを除く。)
 証票等を提示し、又は通知した個人を相手方として金融商品取引契約の締結又はその勧誘を行う行為であって、当該個人が当該金融商品取引契約に基づく債務に相当する額を2月未満の期間内に一括して支払い、当該額が金融商品取引業者(有価証券等管理業務又は特定有価証券等管理行為を行う者に限る。)に交付されること。
 同一人に対する信用の供与が10万円を超えることとならないこと。
 当該金融商品取引契約の締結又はその勧誘が次に掲げるいずれかの有価証券又は権利を対象とする電子申込型電子募集取扱業務に係るものであること。(略)

金商業府令

金商業府令第149条第1項によれば、原則として、信用の供与を行うことを条件として金融商品取引契約の締結又は勧誘を行う行為が禁止される(第149条禁止行為)。

ただし、次の3つは第149条禁止行為からは除外される。

  1. 金商業府令第117条第1項第3号に掲げる行為によってするもの

  2. 金商業府令第148条各号の要件をすべて満たすもの

  3. 金商業府令第149条第1項第1号の要件をすべて満たすもの

ここで、1つ目の金商業府令第117条第1項第3号はいわゆる特別の利益の供与の提供の禁止にかかるルールであり(金商法第38条第9号)、第149条禁止行為から除外されるからといって、特別の利益の供与の提供が許容されるというわけではなく、それは別のルールとして規制されているため、規制が重複しないように除外しているものと考えられる。

また、3つ目の金商業府令第149条第1項第1号の要件をすべて満たすものについては、クレカ決済対象となる投信受益権の販売の場面では、特にハの要件を満たさないと考えられる。

ここで問題となるのが、2つ目の金商業府令第148条各号の要件を満たすもの(「前条各号に掲げる要件の全てを満たすもの」)の意義である。

前回の記事では、これは同条の要件を満たすものの重複を避けるためであり大した意味はないとしていた。

重複が生じるということは、つまり、金商業府令第148条と同第149条第1項第1号が同時に適用になる場合があり得ること、つまり金商法第44条の2第1項第1号と第3号が同時に適用になる場合があり得ることを意味することになるが、これは誤りであった。

つまり、金商法第44条の2第1項第3号は、「前2号に掲げるもののほか」と定めており、そもそも同項第1号と重複することは想定していない。

したがって、金商業府令第148条と同第149条第1項第1号が同時に適用になる場合は存在し得ず、重複を避ける必要性がない。

そうすると、この2つ目については、信用の供与を行うことを条件として金融商品取引契約の締結又は勧誘を行う行為のうち、金商業府令第148条各号の要件をすべて満たすものは、例外的に禁止されないという読み方をするのが正しい。⇢前回の記事の該当部分は誤りであった(申し訳ない)

そのため、結局、金商法第44条の2第1項第1号を検討しても(金融庁整理)、同項第3号を検討しても(筆者整理)、いずれにせよ、金商業府令第148条の要件、つまり、①信用供与を条件とするかどうか、②①信用供与を条件とするとして、(a)マンスリークリアかどうか、(b)同一人への信用供与が10万円以内かどうか、(c)累積投資契約かどうかが論点となる。

前回記事

なお、金融庁は、本資料の注記で「(注)クレジットカード決済が認められるには、①翌月一括払いであること、②信用の供与が10万円を超えないこと、③累積投資契約であること、の3つを全て満たす必要。」と記載しており、信用供与を条件としているかどうかに触れていないことから、クレカ決済は自ずと(?)信用供与を条件としていると解釈しているようである。

改正の方向性


金商法第44条の2第1項第1号・第3号や金商業府令第148条・第149条第1項第1号は、「クレジットカード決済により顧客の資力を上回る有価証券の購入を可能ならしめ、過当取引により投資家保護上問題が生ずるおそれがある一方で、支払いの選択肢を増やすことにより投資家の利便性向上に資する面もあることから、一定の要件の下で認められたもの。」(本資料)であり、過当取引を防止する必要性は一応否定しない(過当取引かどうかは各投資家次第であるから放っておいてほしいが)。

マンスリークリアのクレジットカード決済は、現在の社会においてはほぼ現金やデビットカード決済同様の機能を果たしていると思われる。つまり、通常は、翌月ないし翌々月のカード料金支払日に支払うだけの余力や予定があるからこそ、一回払いでのクレジットカード決済を行うのである。

支払期日が延びる、つまり期限の利益をクレジットカード発行会社から与えられることで信用供与がある点は否定できないが、限りなく、現金等の決済に近いものになっていると考えられる。

その前提でクレジットカード決済の限度額(極度額)が定められているのではないだろうか。特に、極度額が30万円以下のクレジットカードを交付する場合は、一定の場合を除き、包括支払可能見込額を調査する必要がないとされている(割賦販売法第30条の2第1項但書、同法施行規則第43条第1項第1号)。

そうすると、マンスリークリアであって、30万円以下の決済額であれば、基本的にはカードホルダーの生活に支障がない(カードホルダーにとって過剰与信ではない)といえるのではないだろうか。

なお、信用供与の枠を30万円以下と設定し、かつ、未決済分がある場合にその枠の復活を認めないとすると、結局、現状の信用供与の枠が10万円以下の場合と同様、1回分のバッファを用意するリスクヘッジが必要となり、その半分のクレカ決済しか事実上認められないことになる。

そのため、仮に信用供与の枠を30万円以下と設定する場合、例えば、未決済分は1回に限り不問にするような制度にすることが望まれる。

つまり、2回連続で信用供与の枠をオーバーしなければ問題ないように設計することで期待したい。

以上


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