【マイナンバー関連】行政機関等経由登録の特例制度の施行日が決定(口座管理法と口座登録法の誤解が広まっている!?)


本稿のねらい


以前、口座登録法と口座管理法の金融機関関係の施行規則案のパブコメについて記事を書いたきり放置してしまったが、2024年4月1日に口座登録法と口座管理法の双方が本格施行(※)された。
※ 口座登録法については、以前の記事のとおり、その一部であるマイナポータル方式(同法第3条第2項、同法施行規則第4条)と国税庁方式(同法第5条、同法施行規則第10条)については既に施行済みであった。口座管理法については預金保険機構関連の準備規定が公布日から施行されていたのみであった。

政令第十八号
公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律の一部の施行期日を定める政令
内閣は、公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律(令和 三年法律第三十八号)附則第一条第三号の規定に基づき、この政令を制定する。
公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律附則第一条第三号に掲げる規定の施行期日は、令和六年四月一日とする。

令和6年1月31日付け官報号外第23号

政令第十九号
預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律の施行期日を定める政令
内閣は、預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律(令和三年法律第三十九号)附則第一条の規定に基づき、この政令を制定する。
預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律の施行期日は、令和六年四月一日とする。

令和6年1月31日付け官報号外第23号

そして、2024年4月10日、デジタル庁から「マイナンバー法関係法等の施行日を定める政令が閣議決定されました」というプレスが出された。

これによると、2024年4月9日の閣議において「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」が決定されたようである。(令和6年4月12日付け官報号外第93号に掲載されている政令第169号がそれである)

政令第百六十九号
行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令
内閣は、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正 する法律(令和五年法律第四十八号)附則第一条本文の規定に基づき、この政令を制定する。
行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律 の施行期日は、令和六年五月二十七日とする。

令和6年4月12日付け官報号外第93号

以前の記事で別途記事を書くと言いながら放置してしまった法律が、今回施行日が2024年5月27日と定められた「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「23年マイナンバー法改正法」という。)である。

(再掲)
デジタル庁「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」(本WG)第7回資料12頁 ※色付き文字・囲いは筆者挿入・追記
デジタル庁「概要」※赤枠は筆者挿入

本稿では、主にデジタル庁「概要」資料の右下(赤枠)に位置する「行政機関等経由登録の特例制度」について簡単に説明を行うことを目的とする。

なお、この23年マイナンバー法改正法は、口座登録法には関係するものの、口座管理法には一切関係がない23年マイナンバー法改正法の新旧対照表を見れば自ずと明らかである)。

しかし、2024年4月1日本格施行の口座管理法と、同年5月27日施行となる口座登録法を改正する23年マイナンバー法改正法のうち行政機関等経由登録の特例制度が(無邪気に?)混同された結果、次のようなデマが拡散されているとのことである(真偽の程は未確認)。

行政機関等経由登録の特例制度


(1) 口座登録法の制度概要

必ずしもわかりやすくはないが、こちらを参照あれ。

(2) 口座登録法の公金受取口座の登録方法

口座登録法制定時に想定されていた公金受取口座の登録方法は次のとおりである。つまり、元々国税庁のみではあったが行政機関経由での登録に関する特例は用意されていた。

  1. マイナポータル方式(基本形)

  2. 国税庁(確定申告)方式(特例形)  

  3. 金融機関方式(委託形※未施行)   

(登録の特例等)
第5条 行政機関の長等(この項の規定による同意の取得及び情報の提供を適切に行い得るものと認められる者としてデジタル庁令で定めるものに限る。)は、その行う公的給付の支給等に係る金銭の授受に利用する一の預貯金口座に関する情報であって第3条第3項各号に掲げる事項に係るものについて、預貯金者から取得したとき又は保有しているときは、デジタル庁令で定めるところにより、当該預貯金者に対し、次に掲げる事項を説明した上で、当該預貯金者の同意を得て、内閣総理大臣に提供することができる。

口座登録法

(法第5条第1項のデジタル庁令で定める者)
第9条 法第5条第1項のデジタル庁令で定める者は、国税庁長官とする。
(法第5条第1項の規定による同意に関する手続)
第10条 法第5条第1項の規定による預貯金者の同意は、書面又は電子情報処理組織を使用する方法によって得るものとする。

口座登録法施行規則

23年マイナンバー法改正法により、上記が次のように変更されることになる。つまり、これまでの行政機関経由での登録に関する特例制度に日本年金機構方式が追加されることになる。

  1. マイナポータル方式(基本形)  

  2. 国税庁(確定申告)方式(特例形)     

  3. 日本年金機構方式(特例形)

  4. 金融機関方式(委託形※未施行)        

(行政機関の長等からの利用口座情報の提供による登録)
第5条 行政機関の長等(国税庁長官、厚生労働大臣その他この項の規定による事務を適切に行い得るものと認められる者としてデジタル庁令で定めるものに限る。)は、その行う公的給付の支給等に係る金銭の授受に利用する一の預貯金口座に関する情報であって第3条第3項各号に掲げる事項に係るもの(以下「利用口座情報」という。)について、預貯金者から取得したとき又は保有しているときは、デジタル庁令で定めるところにより、当該預貯金者に対し、次に掲げる事項を説明した上で、当該預貯金者の同意を得て、内閣総理大臣に提供することができる。
(日本年金機構への事務の委託)
第5条の3 厚生労働大臣は、第5条第1項及び前条第1項の規定による事務(日本年金機構が行うこととされている公的給付の支給等に係る事務に限る。)を日本年金機構に行わせるものとする。

口座登録法
※2024年5月27日まで未施行

(3) 日本年金機構方式〜オプトアウト方式を許容〜

これまでの国税庁(確定申告)方式は、いわゆるオプトイン方式であり、申告者が所得税の還付申告を行う際の還付金受取口座として確定申告書に記載/e-taxに入力する金融機関情報を、申告者の同意を得た場合に限り、公金受取口座として登録することが可能である。

申告書第一表
※赤枠は筆者挿入

これは元々の発想として、公金受取口座の登録は任意であり、マイナンバーと金融機関情報の双方を持つ国税庁といえども、個人の明確な同意がなければ公金受取口座として登録することを控えるべきであると考えられたためだと思われる(口座登録法第1条前段が重視された)。

(目的)
第1条
 各行政機関の長等が行う公的給付の支給等に係る金銭の授受に利用することができる預貯金口座を、内閣総理大臣にあらかじめ登録し、当該行政機関の長等が当該金銭の授受をするために当該預貯金口座に関する情報の提供を求めることができることとするとともに、特定公的給付の支給を実施するための基礎とする情報について個人番号を利用して管理できることとする等により、公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施を図ることを目的とする。

口座登録法

これに対して日本年金機構方式は、緩やかではあるが、基本的にはいわゆるオプトアウト方式を許容するものである。

つまり、

まず、年金受給者に対して書留郵便により同意/不同意の回答を求める。

① 年金受給者が同意する回答をした場合
もちろん年金受給口座を公金受取口座として登録する(※)
※ただし、既に当該年金受給者が公金受取口座を登録していた場合、その旨と当該公金受取口座は変更されない旨を通知するらしいが(口座登録法第5条の2第3項)、あらかじめ既登録者は除外すべきではないか。

② 年金受給者が不同意の回答をした場合
もちろん年金受給口座を公金受取口座として登録しない

③ 年金受給者が書留郵便到達から30日以上の期間で施行規則に定められる期間内に同意/不同意の回答をしない場合(口座登録法第5条の2第1項柱書括弧書き、同項第2号)
特例措置により同意したものとして扱い年金受給口座を公金受取口座として登録する

なお、公金受取口座は、都度変更が可能であるが、現時点及び23年マイナンバー法改正法が施行される2024年5月27日時点でもマイナポータル方式でしか変更ができないため(口座登録法第4条※金融機関方式は未施行)、一定の混乱は予想される。

デジタル庁「概要

この日本年金機構方式は、次の趣旨であると説明されているが、高齢者にとって身近である(と信じられている)金融機関の窓口での公金受取口座の登録(金融機関方式)が未施行、かつ2024年末頃のスタートを予定していることから、それを遅いと感じ待てなくなったための特例措置であると思われる。

今般の特例制度は、情報機器の煩雑な操作によらない、簡単な、簡易な登録方法を用意することによって、幅広い世代でより簡単に給付金等をお受け取りになることができる基盤を整備するために創設をするものでございまして、特に、御高齢の方の登録の率が若干、ほかの若い世代と比べて低いというようなこともございまして、今回、年金給付受取口座を対象として実施することを想定をしております。  
本制度の実施を通じて、より多くの方に公金受取口座を登録していただくことによりまして、迅速かつ確実な給付を実現してまいりたいというふうに考えております。

第211回国会衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会第6号(2023年4月18日)楠政府参考人発言(No.34)

今般の特例制度について、現時点において、年金受給口座以外のほかの公的給付の受取口座を対象とすることは想定をしておりません。あくまで、特に80代以上の高齢の方々がなかなか御自分でスマートフォンで手続をするということは難しいということで、そういった世代の方々というのはおおむね年金でもってカバーができるというふうに考えておりまして、対象の拡大につきましては、この特例制度を踏まえた登録状況等を勘案して検討してまいることになるかというふうに考えております。

第211回国会衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会第6号(2023年4月18日)楠政府参考人発言(No.62)

ここに至っては、個人の明確な同意よりも公金受取口座の登録が優先されたということだろう。下記にもあるとおり、年金受取口座が公金受取口座に登録されたからといって、何ら不利益は生じない(※)以上、明確な同意を求める理由はないだろう。

※ 元々マイナンバーと口座情報は政府に知られている以上、状態に何ら変化は生じない。つまり、口座情報を知られている以上、必要性に応じて口座の履歴について金融機関に照会を行うことは可能であり、税金等の滞納があれば当該年金受取口座に強制執行を行うことも可能である。また、年金受取口座は普段利用されている口座であろうから公金の入金に気付かないということも起こりにくい。

(目的)
第1条
 各行政機関の長等が行う公的給付の支給等に係る金銭の授受に利用することができる預貯金口座を、内閣総理大臣にあらかじめ登録し、当該行政機関の長等が当該金銭の授受をするために当該預貯金口座に関する情報の提供を求めることができることとするとともに、特定公的給付の支給を実施するための基礎とする情報について個人番号を利用して管理できることとする等により、公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施を図ることを目的とする。

口座登録法

公金受取口座は、公的給付、公金を受け取るためだけのものでございますので、この口座を登録することで個人に不利益が発生するということはおよそ考えられません
現状でこの公金受取口座の登録を見ていますと、やはり御高齢のところで口座登録の割合、数がかなりほかの世代と比べて低いというのが現実にございます。デジタル以外の簡単な方法での登録ということを進めることで幅広い世代にこの公金受取口座の登録をしていただいて、今後の公的給付を速やかに受け取れるようにしたいというふうに思っております。そういうこともありまして、今回、年金口座をこの対象としたわけでございます。 (中略)
また、みなし同意をした後も、口座の登録を削除したいというお申出があった場合には、これはもう自由に削除ができるということにしておりますので、御高齢の方にとっても簡便に、メリットがあるだけの登録でございますので、むしろみなし同意で簡単に登録できる方がメリットが大きい、そう判断をしているところでございます。

第211回国会参議院地方創生及びデジタル社会の形成等に関する特別委員会第11号(2023年5月19日)河野大臣発言(No.39)

(4) オプトアウト方式を許容することについての賛否

そもそも論

どうも、今回のこの法律ですが、マイナンバーと健康保険証の一体化についてもそうですが、余りにも強権的で、中央集権的な考え方で、強制的に、不同意という返事を出さなければ同意とみなすなんて、これは民主主義国家のやることじゃないと思いますよ。いかがですか。

第211回国会衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会第7号(2023年4月19日)福田(昭)委員発言(No.24)

メリットがあるというのは、行政ではそう思うかもしれないんですが、一方で、大臣、別な省庁で、管轄している消費者庁の方でいえば、このみなし同意のようなやり方というのはなかなか、もっと慎重にやるべきだというふうに言っていると思うので。

第211回国会参議院地方創生及びデジタル社会の形成等に関する特別委員会第11号(2023年5月19日)岸委員発言(No.40)

広報を通じて、前広にきちっと本制度についての周知徹底を図ることを予定をしておりまして、こちらは、登録を行いたくない方に関して、不同意の回答を行う機会を確実に確保するということとしております。  さらに、公金受取口座は、公的給付の支給のためだけに利用されるものであって、登録によって国民の皆様が不利益を被るものではございませんので、きちっと進めてまいるということの正当性はあるのではないかというふうに考えております。

第211回国会衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会第7号(2023年4月19日)楠政府参考人発言(No.25)

みなし同意成立の期間

この一定期間、みなし同意の一定期間は30日以上を想定しているようですが、ちょっと期間が短過ぎるということがあります。例えば、年金受給者の子供などは、子などは、親族が、帰省したときに郵便物を確認するということも多いです。先日お話を聞いた方も、2か月ペースで帰省をして郵便物を確認をして、手続が必要だったらそのときしているから、ちょっと30日間じゃ短過ぎるなというお話をしていました。

第211回国会参議院地方創生及びデジタル社会の形成等に関する特別委員会第11号(2023年5月19日)岸委員発言(No.40)

今般の特例制度においては、事前通知に係る書面が到達した日から起算をして30日以上が経過した日までの期間としてデジタル庁令で定める期間を経過するまでの間に同意又は不同意の回答がないときは同意をしたものとして取り扱うこととしておりまして、具体的な期間につきましては今後デジタル庁令において定めることを予定をしております。  
具体的な期間につきましては、周知に係る期間等踏まえて適切に検討してまいりたいというふうに考えております。

第211回国会参議院地方創生及びデジタル社会の形成等に関する特別委員会第11号(2023年5月19日)楠政府参考人発言(No.41)

公金受取口座の変更関係

年金の受取口座は、年金受給権者受取機関変更届というものがあって、これを提出すれば任意で変更できると承知しています。その際、変更後の受取機関が公金受取口座として登録済みの場合は金融機関の証明や通帳等のコピーの添付が不要となるので、これは利用者の手続簡素化、メリットと言えます。  
一方で、公金受取口座と年金受取口座は当然ですが連動はしていないので、変更する場合にはそれぞれの手続が必要になります。こういったことがきちんと周知されなければ、例えば年金受給者である本人がどの口座を公金受取口座に登録したのか分からなくなってしまうことも考えられます。  
委員の皆さんも銀行の口座を複数お持ちかと思いますが、日々生活する中で、出入金をですね、自由に口座を使い分けていると思うんですが、そういったように、年金の受取口座も変更するケースというのは決してレアケースではないと聞いています。(中略)
次に、公金受取口座の変更や削除は、デジタル庁のサイトを見ると、マイナポータルでしかできないと読み取れます。それだと、デジタルを不得意とする人には難しいのではないかと。全くのアナログ申請を受け付けないというのはいかがなものかと指摘せざるを得ません。マイナポータルを自力で手続できない人やマイナンバーカードを持っていない人はどうすればいいのか、口座を解約するしかないのかという懸念まであるので、その部分をお答えください。

第211回国会参議院地方創生及びデジタル社会の形成等に関する特別委員会第11号(2023年5月19日)岸委員発言(No.42)

現在も、デジタル庁のウェブサイトやSNS、市区町村や銀行の窓口で配布されるリーフレットにおいて公金受取口座登録制度に係る問合せ先を広く周知しているところでございまして、今般の特例制度の実施に当たっても、対象者に対する事前通知のほか、広報等も通じて、このアナログも含めた問合せ先の周知徹底を図ってまいりたいというふうに考えております。
また、マイナポータル以外の手段での公金受取口座の変更、削除の対応につきましては、2023年度下期以降、順次金融機関において公金受取口座の変更や抹消が可能となる予定としております。

第211回国会参議院地方創生及びデジタル社会の形成等に関する特別委員会第11号(2023年5月19日)楠政府参考人発言(No.43)

以上


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