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介護生活 後半戦part3


発熱、血尿、足の浮腫、尾てい骨あたりの褥瘡(床ずれ)。

色んな不調が母の体に起きるようになった。

特に、原因不明の発熱が度々あった。

原因不明の発熱は、前触れもなく訪れる。
ある日。
朝、起きたあと、急に母は寒いと言い出した。
寒い季節ではない。違和感を感じた。
母の身体が震え始めた。びっくりして母を寝かせる。
母は、寒い寒いと繰り返して言っている。歯がカチカチと音を立てるくらい震えている。顔面蒼白で私はかなり慌てた。
その時は、救急車を呼んだ。
病院で39度の熱があると言われたが、結局、原因はわからなかった。

その後も、度々同様なことがあった。

発熱に限らず、具合が悪くなれば、当然デイサービスには行けない。
私も仕事を休んで、母を病院に連れて行かなければならない。
ギリギリの人数で回している職場にも迷惑をかけるし、収入も減る。
一番辛かったのは、そこだった。
有給休暇さえ取得できなかった職場であったことを、書き加えておく。

突然、血尿が出たこともある。
ポータブルトイレを覗いて、びっくりした。
まるで、赤ワインのような色の血尿だった。
この時もかなり慌てた。
仕事を休み、行きつけの病院に連れて行った。
高齢のため膀胱内の血管が脆くなっていて、切れて出血したのだろうと言うことだった。飲み薬の止血剤で、1週間ほどできれいに治った。

また、デイサービスなど、座って過ごす時間が長いので、尾てい骨あたりに親指の先ほどの大きさの褥瘡(床ずれ)が出来た。
なかなか治らず、毎日そのケアにも時間をとられた。

足の浮腫も酷くなっていった。
足の筋力低下と心臓の機能の低下が原因で、利尿剤を使うしかないが、使いすぎると腎臓に負担がかかるらしく、かかりつけ医はなかなか処方してくれない。
着圧ソックスなどを履かせるのも、毎日大変な作業で(とても履かせにくい)、段々と浮腫は酷くなる。薄くなった皮膚の下でリンパ液が動くのが透けて見えて、怖かった。
さすがにそこまでいくと、利尿剤が処方されたが、毎日母の体のケアで、私の身体と心は疲弊していった。

ある朝、いつものように朝食を食べようとした時だった。
その日の母は、何かぼんやりとした様子だった。
いきなり母は、
早く食べんと、いけん(早く食べないと、いけない)。
と言って、手づかみでご飯を食べ出したのだ。
慌てて止めたが、
早くせんと、ね、
と言って、私の顔を見て同意を求めるように頷き、なおも手づかみでご飯を食べようとする。
急に認知症になったのか、何か脳に異変が起きたのだろうかと思った。
ケアマネに電話をし、ケアマネから連絡の入ったデイサービスの看護師さんが、お迎えに来てくれた。看護師さんは、脳梗塞のようなものを疑ったようだが、その兆候はない。
私が制止した後は、普通にごはんを食べたが、何か、気もそぞろといった感じだった。
そのままデイサービスに行った。
昼ごはん時に、やはり手づかみで食べるような仕草をしたので、食事介助したと連絡帳には書いてあった。
他には異常はなく、その日以降は何も起こらなかった。

後日かかりつけ医に相談しても、原因はわからなかった。
超高齢なのだから、何が起きても不思議ではない。
と、医者は笑っていた。

後に、思い至った。
私同様、母も疲れていたのだと。

8時半のお迎えのために、5時45分に目覚ましをかけて起床しなければ、間に合わない。
予定より時間がかかると、娘は不機嫌な顔を向けてくる。きっと精神的な圧迫を感じていただろう。
早くしなければと焦って パニックになり、混乱したのかも知れない。
そんな母の心中を慮る余裕は、その時の私にはなかった。

そして、
そんな生活が、もうすぐ終わろうとしていたことに、
私はまだ気づいていなかった。




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