「謎の研究所:藤宮慧の推理」 推理小説
第1章:孤島への招待
藤宮慧は手紙を読み終えた。招待状の綺麗な文字が、「謎の研究所にて、あなたの知性をお待ちしています」と告げていた。彼はその手紙を持参して、定期船に乗った。目的地は離れ小島に建つ研究所。
「教授、やはり来られましたか。」
船内で声をかけてきたのは、美しいが何とも不気味な女性、鬼束千尋だった。
「鬼束さん、これは何かの招待ですか?」藤宮は眉をひそめた。
「そうですとも。しかし、詳細は研究所に着いてからのお楽しみ。」
船が小島に着くと、すぐに目に入ったのは近代的な建築物。ガラスと鉄で構成されたその研究所は、どこか非現実的な雰囲気を纏っていた。
「どうぞ、こちらへ。」鬼束が案内する。
研究所内部は静まり返っていた。しかし、その静けさが何かを物語っているような気がした。
「こちらが研究所のオーナー、石沢博士です。」鬼束が紹介すると、中年の男が微笑んで手を振った。
「藤宮教授、ようこそ。私たちは、ある“実験”のためにあなたを招待しました。」
「実験?」藤宮が疑問に思う。
「はい、とても重要な実験です。しかし、その前に…」
突然、研究所全体が揺れ、一瞬停電した。
「何が起きたんですか!?」藤宮が叫ぶ。
「それは今から解明することです。」石沢博士が静かに言った。
第2章:真実の仮面
「何が起きたというのですか、石沢博士?」藤宮慧は急に厳しい表情になった。
「残念ながら、我々も詳細はわかりません。しかし、この研究所には大量の貴重なデータが保存されています。そのいくつかが失われたようです。」石沢博士が説明する。
藤宮はすぐに判断した。「そのデータを取り戻す方法は?」
「我々自身で解決しようと試みていますが、成功していません。」
「じゃあ、手伝いましょう。」藤宮が断言すると、石沢博士と鬼束千尋は顔を見合わせた。
「感謝します、藤宮教授。」石沢博士が礼を言った。
研究所の中央制御室に行くと、多くのスクリーンが点滅していた。藤宮はすぐに気づいた。
「これは外部からの攻撃ですか?」
「いいえ、内部からです。」鬼束が静かに答えた。
藤宮は納得した。外部からの攻撃であれば、すでに防御措置がとられていただろう。
「問題は、誰が何のためにデータを消したのかです。」藤宮は思考を巡らせた。
「いくつかの手がかりがあります。」石沢博士が指摘すると、藤宮はそれを論理的に解析した。
研究所には限られた数の人しか入れない。
攻撃は内部から行われた。
価値のあるデータだけが選ばれて消去された。
「これらの事実から考えると、犯人は研究所の内部にいる誰かです。そしてその人は、どのデータが重要かを知っています。」
藤宮がこの結論に達すると、石沢博士は静かに頷いた。
「藤宮教授、この謎を解くためには、あなたの力が必要です。」
「了解しました。しかし、その前に一つ確認させてください。」
「何でしょう?」
「鬼束さん、あなたは何故、この研究所に関わっているのですか?」
鬼束はしばらく沈黙した後、薄く微笑んだ。
「それは、次の章で明らかにしましょう。」
第3章:千尋の秘密
「それは、次の章で明らかにしましょう」と鬼束千尋が言った瞬間、研究所の照明が一瞬弱まる。
「今度は何ですか?」藤宮慧が急に警戒態勢に入る。
「またデータが消去されました。」石沢博士がディスプレイを指摘する。
「ますます手がかりが増えてきましたね。」藤宮は何かを感じ取ったようだ。
「藤宮教授、私の話に戻りましょう。」鬼束が改めて言った。
「お願いします、鬼束さん。」
「私はこの研究所でセキュリティを担当しています。ただ、その正体は少し異なります。私は実際には、石沢博士の調査を行っていた特別捜査官です。」
「特別捜査官?」藤宮が驚く。
「はい。この研究所で行われている研究には、国家にとって危険なものもあります。私はその調査と監視のために送り込まれました。」
「それは驚きですが、では、石沢博士は?」
石沢博士が静かに答えた。「私は単なる科学者です。しかし、私の研究が何らかの形で悪用される可能性には警戒しています。だからこそ、鬼束さんがここにいることに協力しています。」
藤宮はしばらく考えた後、言った。「だとすると、この事件に関与しているのは、外部の人間か、研究所のスタッフのどちらかです。」
「その可能性は高い。」鬼束が頷く。
「しかし、どうしても納得できないことが一つあります。」
「何ですか、藤宮教授?」
「データの消去は高度な技術が必要です。研究所のスタッフ以外、そんなことができる人間は限られています。」
鬼束と石沢博士は再び顔を見合わせた。
「それは確かに問題です。」石沢博士が言った。
「問題というか、これが最大の手がかりです。」藤宮慧が緊迫した表情で言った。
第4章:密室の犯罪
「では、その手がかりを元に、何ができますか?」石沢博士が問う。
「まず、この研究所にいるすべての人のアリバイとスキルセットを確認する必要があります。」藤宮慧は確信に満ちた声で答えた。
藤宮、石沢博士、鬼束千尋の三人は中央制御室から出て、各研究室を訪れ始めた。最初に行ったのは生物工学の研究室。
「こんにちは、私たちは事件の調査をしています。」藤宮が科学者たちに説明すると、皆驚いた表情を浮かべた。
「事件? 何があったんですか?」一人の研究員、名前は光永幸一と名札に書かれている、が聞いた。
「詳細は言えませんが、非常に重要なデータが何者かによって消去されました。」鬼束が答える。
藤宮は質問を続けた。「あなたたちは、過去1時間でこの研究室から出たことはありますか?」
「いいえ、全員ここにいました。」光永が答えた。
次に訪れたのは量子物理学の研究室。こちらも同様に、誰も研究室から出ていなかった。
「これはいわゆる“密室犯罪”ですね。」石沢博士が言った。
「そうです。しかし、この研究所は多くのセキュリティシステムで囲まれています。つまり、研究所の外からデータを消去することはほぼ不可能です。」藤宮が分析した。
「藤宮教授、何を言いたいのですか?」鬼束が尋ねた。
「犯人は確実にこの研究所にいます。そして、それなりの技術を持っています。さらに、全員がアリバイを持っているので、誰一人として疑う余地がありません。しかし、データは確実に消去されました。これは矛盾しています。」
三人は中央制御室に戻った。藤宮は深く考えていた。
「なるほど、これは複雑な問題ですが、解決する方法があります。」
「何ですか?」石沢博士と鬼束が同時に聞いた。
「次の章で明らかにしましょう。」
第5章:解明への鍵
藤宮慧が中央制御室の椅子に座り、石沢博士と鬼束千尋に目を向けた。
「まず、私たちがこれまでに確認した事実を整理しましょう。一つ目、データは消去されました。二つ目、研究所のメンバー全員にアリバイがあります。三つ目、外部からのアクセスはほぼ不可能です。これが事実ですよね?」
石沢と鬼束は頷いた。
「良い。ここで矛盾が生まれています。全員にアリバイがあるなら、誰がデータを消去したのか?」
「それが問題です。」鬼束が答えた。
藤宮は深く息を吸い、言った。「答えはシンプルです。この研究所での研究を知っている、そして高度な技術スキルを持つ人物が、遠隔操作でデータを消去したのです。」
石沢博士が眉をひそめた。「遠隔操作ですか? しかし、セキュリティが厳重なはずです。」
「その点は鬼束さんが明らかにできますよね?」
鬼束はしばらくの沈黙の後、頷いた。「確かに、この研究所のセキュリティシステムには一つだけ、緊急時に遠隔操作でシステムにアクセスできるバックドアがあります。」
「そのバックドアの存在を知っているのは?」
「私と、石沢博士、そして研究所の所長です。」
藤宮は石沢博士を見た。「所長は今どこにいますか?」
「出張中です。しかし、バックドアのコードは所長しか知りません。」
藤宮は微笑んだ。「それならば、犯人は所長しか考えられません。」
石沢と鬼束は目を見開いた。
「しかし、なぜ所長が?」
「その答えは、次の章で明らかにしましょう。」
第6章:終局への一手
石沢博士と鬼束千尋は藤宮慧に注目していた。藤宮はゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「私たちがここで何をしているか、考えたことはありますか?」
石沢博士は即座に答えた。「我々は、人類の未来に対する貢献をするための研究をしています。」
「その通りです。しかし、所長にとって、この研究所は何でしょうか?」
鬼束千尋は疑問顔で答えた。「研究所は、所長にとっても、同じく人類への貢献の場であるはずです。」
藤宮は深く頷いた。「確かにそうですが、同時にこの研究所は政府からの資金提供を受けています。その資金は、研究が成功すれば倍返しになるという前提で提供されています。」
石沢博士が驚いた。「つまり、所長は資金を得るために、この事件を起こしたというのですか?」
「正確には、研究が成功する前提での資金提供です。我々が成功しそうであれば、所長は政府に追加資金を要求できます。しかし、もし我々が失敗するようなことが発覚したら、その資金は危うくなります。」
「なるほど、データを消去することで、失敗の証拠を隠すと。」鬼束が納得した。
「それだけではありません。所長がこの事件を起こしたことを隠すためには、誰かを犯人に仕立て上げる必要があります。そしてその犯人とされた人物は、研究失敗の責任を取らされるでしょう。」
石沢博士は困った顔をした。「しかし、所長がいない今、どうやってその証拠を得るのですか?」
藤宮は微笑んだ。「それは、次の章で明らかにしましょう。」
第7章:証拠と対決
藤宮慧は手元のタブレットを操作し、プロジェクターで中央制御室の壁に何かを映し出した。それは所長のメールアカウントからの送信履歴だった。
「どうやって?」石沢博士は驚いた。
「鬼束さん、バックドアの存在を利用していますよね? 私も似たようなスキルを持っています。」藤宮は微笑んだ。
鬼束千尋は目を細めた。「このメールは一体何なのか?」
「ご覧の通り、このメールは所長から内閣官房に送られたものです。"研究は成功に近づいているが、追加の資金が必要"という内容ですね。」
石沢博士は苦笑いした。「これが証拠ですか?」
「証拠の一部です。このメールが送られた後、私たちの研究データが突然消えた。そして、このメールは今朝、私たちが研究所に到着する前に送られました。」
「つまり、所長が研究所にいない今、バックドアを使ってデータを消去したと。」鬼束が頷いた。
「正確には、所長が消去するよう命じたのは一人か二人の信頼できる部下でしょう。この研究所には、所長の意を理解して行動できる人物がいるはずです。」
その瞬間、中央制御室のドアが勢いよく開かれ、所長である花房潤一が入ってきた。
「何をしているんだ、皆さん?」
藤宮は立ち上がり、花房所長を直視した。「真実を暴くために、所長。」
第8章:真実の暴露
花房潤一所長の顔色は一変した。明らかに何かを隠しているようだった。
「真実を暴く? なにを言っているのか、藤宮君。」
藤宮慧はプロジェクターに映し出されたメールを指差した。「このメールですよ、所長。このメールはあなたが内閣官房に送ったものですね?」
「そんなことはどうでもいい。メールを盗み見るなど、法に触れる行為だ。」
鬼束千尋が口を挟んだ。「そちらこそ、研究データを消去するよう指示を出し、私たちの研究成果を台無しにしたのはどうなのでしょう?」
花房所長は何も言わなかった。その表情からは、何を考えているのか読み取れなかった。
石沢博士は冷静に質問した。「所長、あなたが研究データを消去した理由を聞かせてください。」
「……いいだろう。説明しよう。事実、私が研究データを消去するよう指示を出した。しかし、それには十分な理由がある。」
「どんな理由が?」藤宮は詰め寄った。
「この研究は危険だ。その事実に今更気づいた。政府に追加の資金を求めるメールを送った後、私は何をしているのだと疑問に思った。その答えは、危険な研究を加速させているだけだった。」
藤宮は微笑んだ。「なるほど、貴方が言う危険とは何ですか?」
「それは次の章で語るとしよう。」
第9章:危険の正体
花房潤一所長の目には複雑な感情が浮かんでいた。彼は深呼吸を一つして、言葉を続けた。
「この研究が危険である理由は、未知の技術がもたらすリスクにあります。それを証明する資料を持っています。」
所長はスーツの内ポケットから一枚の書類を取り出し、テーブルに置いた。
石沢博士がその書類を拾って内容を確認した。「これは…研究データが改ざんされる可能性について書かれていますが…」
「正確には、研究データが外部から容易に改ざんできる構造になっている。それを証明するテストも行いました。」
藤宮慧は目を細めた。「それが理由で、私たちの研究データを消去したんですか?」
「そうだ。研究データが改ざんされれば、実験結果は信用できなくなる。それどころか、そのデータに基づいて作られる製品が人々の生命を脅かす可能性もある。」
鬼束千尋が口を開いた。「しかし、その問題を解決するためにデータを消去する必要はありません。」
「それが最良の選択だと判断した。」花房所長は堂々と言った。
「その判断が正しかったのかどうか、確認する方法があります。」藤宮はタブレットを操作して、別のデータをプロジェクターに映し出した。
「これは何だ?」所長は驚いた表情で問いた。
「私たちが独自にセキュリティテストを行い、データ改ざんのリスクを排除した後の新しい研究データです。」
全員の目が花房所長に注がれた。彼は何も言わなかった。その沈黙が、すべてを物語っていた。
第10章:評決
花房潤一所長の沈黙が重く室内に響いた。緊迫した空気が広がる中、藤宮慧が再び口を開いた。
「さて、所長。私たちが示したデータを見て、どう考えますか?」
「……正直に言うと、君たちの努力には感心した。しかし、研究データが安全であるとしても、その後に生じる不測の事態に対する責任は誰が取るのだ?」
石沢博士がゆっくりと言葉を紡いだ。「責任は、私たち研究者が共有すべきです。そして、それを逃れるために研究を中止することは許されない。」
「もし所長が心から研究の危険性を懸念しているのなら、それを共に解決していくべきです。」鬼束千尋の声も力強かった。
花房所長はようやく頷いた。「確かに、君たちの言う通りだ。私のやり方は間違っていた。」
「それでは、私たちは再度この研究を立ち上げ、所長とともに問題解決のために取り組んでいく。皆さん、よろしいですか?」
藤宮の質問に、石沢博士と鬼束千尋は頷いた。
「それでは、新たなるスタートを切りましょう。」藤宮が宣言し、全員が握手を交わした。そして、重い扉が開き、彼らは新たな希望に胸を膨らませながら研究室を後にした。
END
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