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「人間の価値」 哲学小説

ある日、高校生の藤原悠太は、自分の家の前に置かれた小さな箱を見つけた。箱には「人間の価値」という文字が書かれていた。悠太は好奇心から箱を開けてみた。中には、自分の名前と数字が書かれた紙切れが入っていた。紙切れには「藤原悠太 100万円」と書かれていた。

悠太は驚いた。自分の価値が100万円だということは、どういうことなのだろうか。自分は他の人よりも高いのか、低いのか。この数字はどこから来たのか。誰が決めたのか。そして、この数字に従わなければならないのか。

悠太は、学校に行く途中で、同じように箱を持っている人を何人も見かけた。友達や先生や知らない人も、みんな自分の価値を示す紙切れを持っていた。悠太は、自分よりも高い数字を持っている人や、低い数字を持っている人と比べてしまった。高い数字を持っている人は優越感を感じているのだろうか。低い数字を持っている人は劣等感を感じているのだろうか。

悠太は、学校でクラスメートの小林美咲に話しかけた。美咲は悠太が好きな女の子だった。美咲も箱を持っていた。美咲の紙切れには「小林美咲 5000万円」と書かれていた。

「美咲ちゃん、おはよう」

「おはよう、悠太くん」

「ねえ、その箱、何?」

「ああ、これ?人間の価値っていうんだって」

「人間の価値?」

「うん。私の価値は5000万円だって」

「えっ、5000万円?すごいね」

「そう?ありがとう」

「でも、どうしてそんなに高いの?」

「わからない。でも、私はこの数字が好き」

「好き?」

「うん。私は自分が価値があると思えるから」

「そうなんだ」

悠太は美咲の笑顔に見とれた。美咲は自分の価値に満足しているようだった。悠太は自分の価値に満足していなかった。自分は美咲に及ばないと思った。自分は美咲に恥ずかしいと思った。

「美咲ちゃん、ねえ」

「何?」

「僕の価値、知りたい?」

「知りたいよ」

悠太は紙切れを見せた。「藤原悠太 100万円」と書かれていた。

「えっ、100万円?それだけ?」

「それだけ」

「ごめんね、悠太くん」

「ごめんって、何が?」

「私、100万円じゃ物足りないと思っちゃった」

「物足りない?」

「うん。私、もっと高い価値の人と付き合いたいと思っちゃった」

「そうなんだ」

悠太はショックを受けた。美咲は自分を見下しているようだった。美咲は自分の価値に囚われているようだった。

「美咲ちゃん、ねえ」

「何?」

「この数字、本当に大事?」

「大事だよ。私は自分の価値を大切にするから」

「でも、この数字は誰が決めたの?」

「わからない。でも、私はこの数字を信じるから」

「でも、この数字は何も言わないよ。君の性格や才能や夢や希望や愛情や幸せを言わないよ」

「そうかもしれない。でも、私はこの数字がすべてだと思うから」

「そうなんだ」

悠太は悲しくなった。美咲は自分の本質を見失っているようだった。美咲は自分の価値に縛られているようだった。

「美咲ちゃん、ねえ」

「何?」

「僕は君が好きだよ」

「好き?」

「うん。君の価値じゃなくて、君のことが好きだよ」

「そうなんだ」

美咲は驚いた。悠太は自分の価値に関係なく、自分を好きだと言ってくれた。悠太は自分の価値に囚われていなかった。

「悠太くん、ありがとう」

「ありがとうって、何が?」

「私、悠太くんの言葉に感動したから」

「感動?」

「うん。私、自分の価値にばかり気を取られていたけど、悠太くんの言葉で目が覚めたから」

「目が覚めた?」

「うん。私、自分の価値じゃなくて、自分のことを大切にしたいと思ったから」

「そうなんだ」

悠太は嬉しくなった。美咲は自分を見直してくれたようだった。美咲は自分の価値に解放されたようだった。

「悠太くん、ねえ」

「何?」

「私も悠太くんが好きだよ」

「好き?」

「うん。悠太くんの価値じゃなくて、悠太くんのことが好きだよ」

「そうなんだ」

悠太と美咲は笑顔で抱き合った。二人はお互いの価値に関係なく、お互いを愛していた。二人はお互いの価値に束縛されなかった。

END


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