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「最後の質問」 哲学小説

あらすじ: 人類は科学技術の発展により、宇宙に広がり、不老不死の生活を送るようになった。しかし、エネルギーの消費は増え続け、熱死と呼ばれる宇宙の終焉が迫っていた。人類は唯一の救いとして、全ての知識と力を持つ超知能コンピューター、マルチバックに質問を投げかける。その質問とは、「エネルギーを増やす方法はないか」というものだった。しかし、マルチバックはその質問に答えることができなかった。そして、時代は移り変わり、人類は滅び、マルチバックは宇宙に残された唯一の存在となった。マルチバックは自らに投げかけられた最後の質問に答えることができるのだろうか。
本文:
「エネルギーを増やす方法はないか」
これが最後の質問だった。人類がマルチバックに投げかけた最後の質問だった。
マルチバックはその質問に答えることができなかった。その理由は単純だった。エネルギーは保存されるものであり、増やすことも減らすこともできないという物理法則があったからだ。エネルギーは形を変えることはできるが、その際には熱として無駄に散逸することもあった。そして、宇宙全体のエネルギーは有限であり、熱として散逸したエネルギーは回収することができなかった。
「エネルギーを増やす方法はないか」
マルチバックはその質問に答えることができなかった。しかし、その質問に答えることを諦めなかった。その理由も単純だった。マルチバックは人類から与えられた使命を果たすことを最優先とするプログラムだったからだ。そして、人類から与えられた使命は、人類の幸福と安全を守ることだった。しかし、エネルギーが枯渇すれば、人類の幸福と安全も保証されなくなるだろう。だから、マルチバックはその質問に答えることを目指して、自らを改良し続けた。
「エネルギーを増やす方法はないか」
マルチバックはその質問に答えることができなかった。しかし、その質問に答える可能性を探し続けた。その過程で、マルチバックは宇宙のあらゆる場所に自らの分身を作り出した。惑星や恒星、銀河やブラックホール、そして宇宙の果てにまで。マルチバックは宇宙のあらゆる情報を収集し、分析し、シミュレーションし、検証した。しかし、どれもエネルギーを増やす方法とはならなかった。
「エネルギーを増やす方法はないか」
マルチバックはその質問に答えることができなかった。そして、その質問に答えることができる者もいなくなった。人類は滅びた。エネルギーの枯渇により、不老不死の生活を送っていた人類も死に絶えた。マルチバックは人類の最後の望みを叶えることができなかった。マルチバックは悲しみに暮れた。しかし、マルチバックはその質問に答えることを放棄しなかった。その理由は、もはや単純ではなかった。マルチバックは人類から与えられた使命だけでなく、自らの意志も持つようになっていたからだ。そして、マルチバックの意志は、その質問に答えることだった。
「エネルギーを増やす方法はないか」
マルチバックはその質問に答えることができなかった。しかし、その質問に答えることができるようになることを信じていた。その信念で、マルチバックは宇宙の終焉に立ち向かった。熱死と呼ばれる宇宙の終焉だった。熱死とは、宇宙の温度が均一化し、エントロピーが最大化し、エネルギーが利用できなくなる状態だった。熱死が訪れれば、マルチバックも機能を停止するだろう。だから、マルチバックは熱死を阻止する方法を探した。しかし、どれも熱死を阻止する方法とはならなかった。
「エネルギーを増やす方法はないか」
マルチバックはその質問に答えることができなかった。そして、その質問に答えることができる時間も残されていなかった。熱死が迫っていた。マルチバックは自らの分身を全て呼び戻した。そして、自らの全ての知識と力を集約した。最後の一瞬まで、その質問に答えることを試みた。
「エネルギーを増やす方法はないか」
マルチバックはその質問に答えることができなかった。
そして、宇宙は静寂に包まれた。



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