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マイク・フォードで語るMLBとNPBの選手契約<後編>

こちらの投稿は、下記リンク記事の後編となりますので、よろしければ前編からお読みください。



2021年:終わりなき旅のはじまり

NYYからTB(タンパベイ・レイズ)へ

2021シーズンも引き続き低調な成績(6月時点で打率.130)が続いていたフォードにチームもついに、見切りをつける。
NYYは、ザック・ブリットンを故障者リストから、復帰させる枠を空けるため、フォードをDFAとした。

DFA
選手を40人枠から外すことを指す。
40人枠外となった選手はウェイバー公示にかけられ、同一リーグの成績下位チームから優先して獲得権利が与えられる(同一リーグで獲得希望球団が現れなければ、別リーグの成績下位チームから優先して権利が与えられる)。選手を請求された元球団は、請求球団との間でトレードを行うか、請求を拒否して選手を40人枠に戻すか、選手を譲渡(残りの契約を含む)するか選択する。ただし、その選手を、40人枠に戻せるのはシーズン中一度きりである。
請求球団が現れなかった場合、選手はマイナー降格となるか、降格を拒否してFAとなる。この辺りは、MLB在籍年数や、契約などによって様々な制約があり選手ごとに対応が異なる(例を挙げると、MLB在籍5年以上の選手はマイナー降格拒否権をもっているため、多くの場合FAを選択する)。

事実上の戦力外と訳されることが多いが、70人を支配下登録できるNPBと、40人のMLBでは競争率が倍近く違うので、日本における戦力外とイコールではない。
また、MLBではマイナー・オプションを使い果たした選手や、マイナー降格拒否権を取得した選手を26人枠に残したままマイナーへ降格させることはできないため、実力は認められながらも成績が振るわない選手を26人枠から外す措置としてDFAが用いられる。そうした選手は、DFA後の移籍先で戦力として機能することが多々あるため、戦力外とは全く言えない。

NPBで例えると、中田翔坂本勇人など実績十分のベテランが不振のため2軍降格を命じられるも、降格拒否権を発動したためDFAとなったとする。その場合、彼らを戦力外と言えるのかと考えると「事実上の戦力外」という呼称がそぐわないことが、わかると思う。

https://en.wikipedia.org/wiki/Designated_for_assignment

その後、TB(タンパベイ・レイズ)NYYとの間でトレードが成立。NYYは見返りとして、TBから22歳の若手内野手と金銭を獲得する。対価の内野手は有望株(プロスペクト)とはいえないレベルの選手だったが、対価を得られていることから、フォードが完全に戦力外と見られてはいなかったことが伺える。TBは、怪我がちのチェ・ジマンのデプスとしてフォードを獲得したようだが、結局一度もメジャー昇格することなく、8月に再びDFAとなった。
ちなみにフォードが移籍する1カ月前に筒香選手がDFAとなっており、後にDenaでチームメイトになる両者だが、この時点ではすれ違うだけに終わっている。

レイズ時代の筒香。

シーズン2度目のDFA、WSH(ワシントン・ナショナルズ)へ

WSH(ワシントン・ナショナルズ)とはトレードが成立せず、ウェイバー移籍。フアン・ソトをはじめとする主力の放出により、スカスカとなったロースターの、穴埋めとしての獲得だったようだが、ここでもメジャー昇格できなかった。
最終的に、2球団からDFAされたフォードは、WSHのマイナーでシーズンを終え、シーズン後にノンテンダーFAとなった。

◆ノンテンダーFA
FA権のない、プロ6年未満の選手に対し、期限日までに球団が契約を結ばなかった場合、その選手はノンテンダーFAとなる。通常6年間(3年目以降は年俸調停権あり)存在する保有権を放棄するというもの。

NPBにおいても、ノンテンダーFAという言い回しが、一瞬だけ使われたことがあったが、選手会の猛抗議によって使用禁止ワードになっている。
NPBでは翌年度も契約継続を希望する選手については「契約保留選手名簿」に記載するルールになっており、期限日の11/30までにこの名簿に記載されない選手は全員、自由契約選手(=ノンテンダーFA)となる。
2021年に、日本ハムが、西川遥輝、秋吉亮、大田泰示の三選手を「ノンテンダーFA」と称し、来季の契約を結ばないと発表した。その際、選手会は下記の点を問題視し抗議の声を上げたようだ。

●実質戦力外通告のことをノンテンダーFAと称して語義を和らげ、社会一般に誤解を広げていること。
●これまで戦力外とならなかった(契約継続されていた)レベルの選手に対し実質戦力外(来季契約の見送り)宣告をしていること。
●来季の契約を結ばないと球団側が判断した場合、通常は「減額制限超え(元の年俸が1億円を超える場合は40%)」の年俸を提示し、選手側に「減額制限超えの年俸を受け入れるか」、「FA権を行使するか」、「自由契約」になるかを決めさせる慣例を破ったからというものだった。

一定以上の実績のある選手に対しては、低年俸でも来季の契約のオファーをすべきというのが選手会の考えのようだが、球団にはそんな義務はない。
また、実質戦力外通告のことをノンテンダーFAと称して語義を和らげているという批判だが、日本ハム側が再契約の可能性を閉ざしていない以上(再契約する気は、さらさらないのかもしれないが)、戦力外と分けて使用するのを止められるわけもない。通常行われているという慣例についても、低年俸の選手に対しわざわざ、こんな面倒な処置をとっているとは思えないので、高年俸選手に対してのみ特別対応をすべきと選手会が言っているように聞こえるが、それはそれで問題じゃないのか。
総じて、ドライな対応をとった日本ハムに対して、「冷たすぎる」という感情論をぶつけている印象で、それはそれでファンから批判があってしかるべきだが、選手会が批判すべきことではないだろう。

https://www.bengo4.com/c_18/n_14358/

2022年:シーズン5度のDFA

本格的にジャーニーマン化

2022年のフォードは、昨年よりさらに慌ただしくチームを移り変わった。
オフにSEAとマイナー契約を交わし、26人枠(アクティブ・ロースター)入りするも、試合に出場することなくDFAとなった。
ウェイバー公示されたフォードは、金銭トレードで、SF(サンフランシスコ・ジャイアンツ)に移籍するも、1試合に出場したのみで再びDFAされる。
そして、再び金銭トレードでSEAに舞い戻った。この間わずか2週間である。
今シーズン二度目のSEAでも、結果を残せず、再びDFAとなると、ATL(アトランタ・ブレーブス)がウェイバーで獲得。
ATLでもわずかな在籍期間で、DFAされFAとなったフォードは、LAA(ロサンゼルス・エンゼルス)とマイナー契約を交わす。すでにワイルドカード争いからも退き、ただシーズンを消化するだけのLAAで、メジャー昇格を果たしたフォードやっと落ち着いて試合に出場できるようになり、シーズン初本塁打(結局、2022年の計3本のホームランはLAAで記録)も放った。
だが、シーズン終盤に、IL(故障者リスト)からアンソニー・レンドンが復帰するに伴い、LAAはフォードをDFAとした。フォードにとっては、これがシーズン5度目のDFAとなり、アメリカ中を駆け巡ったシーズンも幕を閉じた。

SF(サンフランシスコ・ジャイアンツ)在籍時のフォード。

★故障者リスト
10日間IL、15日間IL、60日間ILの3種類がある。負傷した選手をロースター枠に入れながら、適宜、マイナーなどから選手を補充するための制度。故障者リストから選手を戻す際、枠を空けるためDFAが行われることが多い。

・10日間IL…野手のみ登録できる。登録された選手は10日間26人枠の人数計算から外れ、野手は20日間まで、マイナーリーグの試合にリハビリを目的として出場する期間が得られる。
・15日間IL…投手、二刀流選手のみ登録できる。登録された選手は15日間26人枠の人数計算から外れ、投手は30日間まで、マイナーリーグの試合にリハビリを目的として出場する期間が得られる。
・60日間IL…登録された選手は60日間26人・40人枠の人数計算から外れる。野手は20日間、投手は30日間、マイナーの試合にリハビリ目的で出場する期間が得られる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%85%E9%9A%9C%E8%80%85%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88

穴埋め要因として使い捨てにされた1年

2022年のフォードは、4チームを渡り歩くも(SEAとは2度も契約している)、怪我人の穴埋めや、主力が怪我した場合の保険で獲得されているため、出場機会は限られたものだった。
このような穴埋め要因は用が無くなればすぐにDFAとなる厳しい立場である一方、球団からは、その使い勝手の良さから重宝がられているのもまた事実である。
怪我人が出た場合、傘下のマイナーから若手の有望選手を昇格させて穴埋めすることもできる(NPBでは、多くの場合この措置が取られる)。
ただ、主力が復帰すれば、有望選手をマイナー・オプションを消費してマイナーに降格させなければならない。無駄にマイナー・オプションを消費させるくらいなら、フォードのような選手で、一旦穴埋めし、主力の復帰とともにDFAした方がコスパがいいのである。
MLBは、ともかくパイが大きいので、FA選手かシーズン中でも山ほど転がっており、ダメなら次とばかりに獲得してはDFAを繰り返すことも可能である。特に数が必要で、消耗の激しいブルペン投手は、怪我人が戻ってくるまでの穴埋めとして獲得されることが多い。

2023年:復活のフォード

SEAとマイナー契約

2022年オフにSEAとマイナー契約を結んだフォード。
2023年シーズンが始まると、SEAのマイナーで打ちまくり(打率.302/出塁率.427/長打率.605/wRC+143)、メジャー昇格に十分な成績を残すも、球団からマイナー漬けにされる。このあたりの事情は定かではないが、マイナーオプション切れのフォードを昇格させ、成績が振るわない場合、フォードをDFAしなければならない。そうなると他球団に獲られる可能性があるため、できるだけ長く支配下に置いて置きたいという思惑があったのだと思われる。
だが、好調を維持している間にメジャー昇格を果たしたいフォードは、契約時に取り交わした、オプトアウトの条項を6/1に行使した。
これにより、SEAは2日以内にフォードを26人枠に入れるか、FAとするか選択を迫られ前者を選んだ。

・オプトアウト
選手自ら、契約を見直したり破棄したりできる制度。
マイナー契約の際に期限日までの26人枠入りを盛り込む場合(フォードはこの例)や、複数年契約の途中に契約を破棄したり見直したい場合に組み込まれる条項。
マイナー契約の選手は、「〇/▲までに26人枠入りしていない場合FAとなれる」といった条項を結んでいる場合が多い。
複数年契約の選手の場合は契約途中年でFAになれる条項を結んでいることが多い。

https://full-count.jp/2021/02/01/post1072204/

メジャー昇格後結果を残すも…

メジャー昇格を果たしたフォードは、主に右投手相手にプラトーン起用されキャリア最多の83試合に出場。打率.228/出塁率.323/長打率.475/wRC+123と打者不利のT-モバイル・パークにおいて素晴らしい成績を残す(wRC+はチーム4番目の数字)。2019年のデビューイヤーに並ぶ活躍をみせた。

復活の1年となったフォードだったが、SEAからは来季の契約を得られず、ノンテンダーFAとなった。来季のチーム目標に三振数の減少を掲げているSEAとしては、三振率が32.3%と多いフォードは構想外であり、守備も一塁に限られ(一塁守備も上手くはない)、使い勝手が悪いことも契約を見送られた原因と思われる。
また、既にマイナー・オプションが切れているため、契約を継続したとしても来季成績が下降すればマイナーに落とすこともできず、DFAとするしかない。その場合フォードに割いていた枠は全く無駄になるので、ロースター編成上もフォードと契約するメリットは薄かった。
NPBのように、とりあえず契約してダメだったら2軍に送ればいいというわけには、いかないのがMLBなのである。

SEAは、フォードのFAによって空いた40人枠にルール5ドラフトでの流出を防ぐ目的で、外野手の有望株、ザック・デローシュを割り当てた。
何の実績もないが、最低年俸で3年コントロールできる若手有望株の方がフォードより価値があるとSEAは判断したのである。デローシュは、そのすぐ後、CWS(シカゴ・ホワイトソックス)とのトレードでグレゴリー・サントスの対価として活用された。

このように、選手登録枠(ロースター)の制限が厳しいMLBでは、フォードのような実績の乏しい中堅選手は1シーズン活躍したくらいでは契約を継続させてもらえないのが現実である。

↑2023年のフォードのホームラン集

2024年:CIN(シンシナティ・レッズ)との短い付き合い。

CINとマイナー契約

2023年オフ、FAとなったフォードは、CINとマイナー契約を交わしスプリングトレーニングに参加。10試合で、打率.455/出塁率.486/長打率.727、3本塁打と最高の結果を残す。
しかし、打撃成績では圧倒的に上回りながらも、外野も守れ、マイナーオプションも一つ残っていたニック・マルティーニとのロースター争いに敗れてしまう。
CINから見限られたフォードは、FAとなるが獲得する球団は現れず、再び3/28にCINとマイナー契約を交わした。

開幕をCINのマイナーで迎えたフォードは、打率297/出塁率.381/長打率.538/6本塁打と打ちまくっていたが、メジャー昇格は果たせず、5/1にオプトアウト。昨季のSEAと同じパターンだが、CINはフォードのロースター入りを回避し2度目の解雇を選択。
だが、そのすぐ後に一塁手のレギュラーだった、クリスチャン・エンカーナシオン=ストランドが負傷により長期離脱。CINは、その穴埋めとしてフォードとメジャー契約を交わした。

メジャー昇格を果たすも結果を残せずDFAに

念願のメジャー昇格を果たしたフォードだったが、マイナーでの好調を維持することはできなかった。17試合に出場し、打率.150/出塁率.177/長打率.233/1本塁打と惨憺たる結果に終わる。この間BABIP.182と運にも見放され、5/29にDFAとなりマイナー降格を拒否してFAとなった。
CINと情緒不安定なカップルのように別れてはよりを戻すを繰り返していたことが示す通り、もはや今のフォードを受け入れてくれるMLB球団はCIN以外には無く、1カ月以上FAの状態が続くことになる。

CIN時代のフォード

フォードの旅(ジャーニー)は、ついに国境を越える

新天地日本へ

7/5、NPB横浜DeNAベイスターズが、フォードの獲得を発表。同じく一塁手のタイラー・オースティンのバックアップ、怪我で離脱した筒香に代わる左の長距離砲としての獲得だった。
国が移り変わっても、穴埋め要因としてしか見られていないところにフォードという男の悲哀があるのだが、ある意味起用法や期待度も変わらないので、そこはやりやすいかもしれない。

現在、二軍で調整中とのことなので、順調にいけばオールスター明けに1軍登録となる見込み。バレルに打ち込む技術はMLBでも群を抜いており、歴史的な打低シーズンを送るNPBで自慢の長打力が発揮できれば十分活躍のチャンスはあるだろう。

ここが旅の終着点なのか、通過点に過ぎないのか、それは、フォード自身にもわからない。彼のようなジャーニーマンにとって、終着点は彼自身が決めるものではなく、場所は違えど戻ってくるいつもの場所、バッターボックスに立つ機会を誰からも与えられなくなる時なのだから。

打撃練習中のフォード。意外と小さい。

最後に

MLBでは活発な移籍市場を前提に選手個人が、球団を渡り歩きながらキャリアを磨いていく。能力が不足していれば、シーズン中でも解雇されるし、選手側も球団に「NO」をつきつけFAとなることもできる。球団と選手は対等でありお互いにルールを守ってビジネスライクに対応する。
一方、移籍市場が閉鎖的なNPBでは、新卒一括採用式にドラフトで指名され、一つの球団でキャリアを終えることが望ましいとされる。シーズン中は解雇されることもないし、トレードされることもほとんどない。球団と選手は平等ではなく、FA権を獲得するまで、選手側からFAとなることはできないが、球団側も選手との契約をできるだけ継続するように努めることが期待されている。

もし、フォードのような選手がNPBにいたしたとして、最初の球団で選手層の厚さに阻まれたが最後、1軍で何試合か試されてダメなら、そのまま引退していた可能性が高い。
フォードのようなドラフト下位の選手にとっては、何よりも出場機会を得ることが大事であり、飼い殺しを防ぐ様々なルールが充実したMLBのほうが、そのチャンスは、はるかに多いのである。

個人的に、NPBの移籍市場の活発化は、どんどん進んでほしいと思う。交流戦MVPに輝いた水谷瞬が、現役ドラフトがなければ今も二軍で飼い殺されていたと思うとうすら寒いものを感じるのは自分だけではないはず。
恐らく今まで、選手層の厚さに押しつぶされて、飼い殺しにされて消えていった選手は想像以上に多いのではないだろうか。
もちろん、移籍市場が活発化すれば割を食う選手が当然出てくるし、競争が激化すれば、生え抜きだから、ドラフト上位だからという理由で起用されていた選手の出場機会は減るだろう。
だが野球界全体のことを考えれば競技レベル向上のためにも、FA権取得年の短縮や、それに付随する年俸調停権獲得の後ろ倒しなどMLBに近い選手契約へ変更するべきだと個人的には思っている。

予想以上に長くなってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。









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