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マイク・フォードで語るMLBとNPBの選手契約<前編>

はじめに

NPBファンが、MLBを見始めてしばらくたつと、DFAとかルール5ドラフトだとか、MLBの選手契約にまつわる聞きなれない単語を調べる日が続くようになる。
自分も、そのうちの一人なのですが、ここ最近調べたり、考えたりしたこと、主にMLBとNPBの選手契約の相違について、先日横浜DeNAベイスターズへの移籍が発表されたマイク・フォード選手の経歴を軸に、語っていこうと思います。

にわかがネットで集めた知識を継ぎはぎしてまとめたものなので、間違いも多々あるかと思いますが、読者の皆様の好奇心を多少なりとも満たせるものになってくれていれば幸いです。


マイク・フォードとは何者か

マイク・フォードの年度別打撃成績

マイク・フォード(本名:マイケル・フォード)は32歳の右投左打の一塁手。2019年、NYY(ニューヨーク・ヤンキース)でメジャーデビューし、この年、50試合で12本塁打、OPS.909と大ブレイク。
幸先のいいデビューを飾るが伸び悩み、2023年にSEA(シアトル・マリナーズ)で16本塁打を放ちプチ復活するものの、打撃の粗さと一塁/DH専という使い勝手の悪さから、レギュラー定着とはならず、キャリアでフルシーズンのレギュラーとなることはついになかった。

基本的には穴埋め要因として、DFAとマイナー契約を繰り返しながら、なんだかんだ毎年メジャーに上がってくる、しぶとい選手である。地道にサービスタイムも消化し、昨オフ年俸調停権を獲得。
今年、CIN(シンシナティ・レッズ)を自由契約になって以降、獲得球団は現れず、新天地NPBへ旅立つこととなった。

◆サービスタイム
各選手がMLBの26人枠(アクティブ・ロースター)に登録されていた日数。NPBにおける出場選手登録(一軍選手登録)日数に相当。サービスタイムの年数によって選手は以下の資格を得る(様々な例外条件があるが割愛)。
〇3年・・・年俸調停権
〇5年・・・マイナー降格拒否権
〇6年・・・FA権
MLBの選手は、3年目を迎えるまで年俸調停権がなく基本的には最低年俸での契約となる。

NPBは年数に関係なく年俸調停権が与えられているものの、調停が行われることは、ほとんどない。
NPBFA権を得るのは、高卒は8年、大学社会人卒は、7年となっている。NPBには、マイナー降格拒否権がなく、後述する通り、MLBと異なり、出場選手登録枠からの抹消が無制限にできるため、FA権を最短年数(高卒なら8年、大学社会人卒なら7年)で取得するのは極めて難しい。
また、海外FA権については、高卒、大学社会人卒を問わず9年となっており、20代半ばまでにMLB移籍を目指す場合は、ポスティング制度での移籍を球団から了承されなければならない。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC_(MLB)

★MLBの選手登録枠(ロースター)について

大きく分けて実際に公式戦に出場できる26人枠(アクティブ・ロースター)とMLB各球団が直接支配下に置く40人枠(エクスパンデッド・ロースター)に分かれる。
26人枠の選手は40人枠の選手の中に含まれており、40人枠の選手は全員メジャー契約となる。
40人枠に入っていればメジャー契約となるのでマイナーの試合にしか出ていない選手も、契約上はメジャーリーガーの仲間入りとなり、MLB選手会が定める最低年俸が保証される。ただ、一般的にメジャーデビューと言うと、26人枠に入って、メジャーの公式戦に出場することを指す。

26人枠(アクティブ・ロースター)
公式戦に出場させる選手を登録する。NPBにおける一軍登録(ベンチ入り)に相当する。ただし、NPBと異なり、マイナー降格オプションや、マイナー降格拒否権など、選手の飼い殺しを防ぐための縛りが存在する。

・40人枠(エクスパンデッド・ロースター)
球団が直接支配下に置く選手を登録する。NPBにおける支配下選手登録に相当するが、NPBは、最大70名とMLBの二倍近い。MLBの支配下枠は40と少ないため、選手Aを枠に入れるために、選手Bを枠外にする(DFA)ということがシーズン中でも頻繁に発生する。NPBにおいては、シーズン中の支配下登録からの抹消は、事実上できない。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC_(MLB)

マイク・フォードの経歴

最初の契約~ドラフト外でNYY入団~

マイク・フォードのプロ野球選手人生は、ドラフト外NYYと契約したところから始まる。
単にドラフト外といった場合、ドラフト会議で指名漏れした選手が、その後にアマチュアFAとして契約を交わすことを指す。
MLBでは、契約金2万ドル以内という制限つきで、ドラフト指名漏れした選手を何人でも獲得可能である。一方、NPBにおいてはドラフト外での選手獲得は認められておらず、指名漏れした選手を獲得したい場合は来年のドラフト会議まで待たなくてはならない。

ドラフト外制度はNPBでかつて行われていたが、「プロ入り拒否」を表明していた有望選手を多額の契約金(契約金の上限は定められていなかった)で獲得する手法が横行。ドラフト制度の根幹である戦力均衡が脅かされたため、1991年から廃止された。

MLBのドラフト制度
MLBのドラフト制度は、アマチュア選手がメインとなるルール4ドラフトと現役選手が対象となるルール5ドラフトに分かれる。

ルール4ドラフト
<対象者>
米国、カナダ、プエルトリコ、その他の米国領土の居住者で、これまでにマイナーリーグまたはメジャーリーグの契約を結んだことが無く、当該国の高校、大学、独立リーグなどに在籍する選手。(選手の国籍は問わない)・高校生は、卒業者(または見込み)で、大学等へ進学しない選手のみ。4年制以上の大学生は、3年以上在学している選手、または2年以上在学している21歳以上の選手のみ

ルール5ドラフト
<対象者>
18歳以下で入団した場合は、プロ在籍5シーズン以上、19歳以上で入団した場合は、プロ在籍4シーズン以上で、40人枠(エクスパンデッド・ロースター)外の選手。

<選手に対する制限>
ルール5ドラフトで獲得された選手はシーズン中必ず、26人枠(アクティブ・ロースター)入りしなければならない。枠外となる場合は、ウェーバー公示を経て獲得する球団が現れなければ元球団に、返還される。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%88%E4%BC%9A%E8%AD%B0_(MLB)

指名漏れした2013年は、フォードにとってアマチュア時代のキャリアイヤーであり、所属するアイビーリーグの最優秀投手・打者賞を同時受賞するという華々しいものだった。アイビーリーグにおいて、投打の最優秀賞を同時受賞しているのは後にも先にもフォードただ1人である。
そんな華々しい活躍をしながら指名漏れした悔しさをばねに、強豪大学の選手が数多く参戦する夏季リーグ(Cape Cod Baseball League)に出場したフォードは、そこで打者として結果を残す。

最終的にフォードに対し、5球団が契約を申し入れ、自身も根っからのファンだった、NYY(ニューヨーク・ヤンキース)と契約することとなった。
40巡目まで指名できた当時のドラフトで指名漏れしている以上、決して前途有望な選手ではなく、メジャーに昇格できる確率はとても低いところからのスタートだった。
ちなみに契約時点で大学3年生だったフォードは、入団後もマイナーリーガーと大学生の二足の草鞋を履き、歴史学の学位を取得し無事名門プリンストン大学を卒業している。

プリンストン大時代のフォード

初めてのドラフト指名~ルール5ドラフト~

入団時は評価の低かったフォードだったが、プロ入り後は順調にマイナーの階段を駆け上がる。

2017年にはAAとAAAで、126試合に出場しOPS.875の好成績をおさめる。
三振72に対し、四球94を選ぶ抜群の選球眼と、AAAの25試合で7本塁打を放つパワー。アプローチに優れた強打の一塁手という確固たる評価を得る。
一方、当時のNYYは、若手の一塁手として、グレッグ・バードタイラー・オースティンがおり、フォードよりも高く評価されていた。また、一塁手というポジションは、NYYレベルの財政規模ならいくらでもFA・トレード市場から調達できるため、フォードがマイナーで好成績を残そうが、選手層の厚さに阻まれ、すぐにメジャー昇格とはいかない状況だった。

タイラー・オースティン。まさか日本でチームメイトになるとはお互い夢にも思っていなかったでしょう。

そんなフォードのような、マイナーで飼い殺される選手を救済するためにルール5ドラフトが存在する。
先に触れた通り、ルール5ドラフトには様々な条件があるが、2017年のルール5ドラフト時点で(ルール5ドラフトは、ウィンターミーティングの終了する12月初旬~中旬ごろに行われる)フォードは、プロ在籍5シーズンを過ごし、NYY40人枠に入っておらず、ルール5ドラフトの対象となっていたため、SEA(シアトル・マリナーズ)から指名され移籍することになった。

開幕メジャーの可能性が示され、喜び勇んでSEAに移籍したフォードだったが、スプリングトレーニングでのレギュラー争いに敗れ、メジャー昇格とはならず、2018年の開幕前に26人枠(アクティブ・ロースター)から外されてしまった。ルール5ドラフトで獲得した選手を、26人枠から外す際は、ウェイバー公示にかけなければならない。その際、獲得球団が現れなければ元球団へと返還される。フォードはわずか3ヶ月ほどでNYYへ逆もどりとなった。

■スプリングトレーニング
開幕前の3月に行われるキャンプとオープン戦の総称。40人枠内の選手40人枠外から選抜された招待選手、などが参加する。
開幕ロースター(26人枠)入りが確定している選手にとっては文字通りトレーニング期間だが、当落線上にいる選手や、招待選手にとっては生き残りを賭けた熾烈な競争の場となる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0

◆ウェイバー公示
選手の保有権を放棄する
制度。ウェイバー公示にかけられた選手は、他球団が獲得可能となる。獲得した球団は選手の契約も引き継ぐ。

MLBでは、選手を40人枠から外す場合や、、ルール5ドラフトで獲得した選手を26人枠から外す場合など、選手の飼い殺しを防ぐ目的で、必ずウェイバー公示にかけなければならない。獲得する球団が現れない場合は、所属球団のマイナー組織に降格もしくは自由契約となる。

NPBも同様に支配下選手の契約放棄のため、ウェイバー公示にかけることは可能である。だが、MLBとは異なり獲得する球団が現れない場合、元球団と再契約することが事実上できない(というのも、落合政権時の中日が、育成選手として再契約を前提にウェイバー公示を行った際、選手会から猛抗議を受け、規約上全く問題ないにも関わらず、コミッショナーから却下されるという暗い過去があり、最早誰も行わなくなっているからである)。
また、NPBにおいては獲得球団が無く自由契約となった場合、再契約の機会はシーズン後のトライアウトまで待たなければならない。選手にとってリスクが大きすぎるため、球団と選手会の紳士協定のもと、ウェイバー公示にかけられるのは、外国人選手のみとなっている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%90%E3%83%BC%E5%85%AC%E7%A4%BA

この時のフォードのように、ルール5ドラフトで獲得された選手の殆どが元球団へ返還されている。各球団、有望な若手はルール5ドラフトで引き抜かれないよう40人枠入りさせている。ルール5ドラフトの対象となっている時点でメジャーのレギュラークラスとなるには、実力不足な選手が多いのが現実である。

初のメジャー昇格

夢のメジャー昇格をあと一歩のところで逃したフォードだったが、2018年もマイナーで、腐ることなく結果を残し続けた。
名門プリンストン大の同期達が、高給取りになっていくのを横目にしつつ、自分の選択を後悔したこともあったという。
だが、2019年を迎えると、ライバルの、タイラー・オースティンがSF(サンフランシスコ・ジャイアンツ)へトレード、グレッグ・バードが怪我で離脱すると、ついにメジャーから声がかかり、4/16にメジャー初昇格となった。
昇格後は、結果が残せずオプションされ、マイナーへ逆戻りすることとなったが、8月に再昇格すると、本塁打を量産。最終的に、50試合の出場で12本塁打、OPS.909と大健闘。怪我人続出するNYY打線を牽引した。

↑2019年のフォードのホームラン集

◆マイナー・オプション
選手は、初めて40人枠に登録されると「マイナー・オプション」を3シーズン分与えられる。マイナーへ降格されること、40人枠の選手がシーズンの開幕26人枠に入れなかったことを、オプションされたと呼ぶ。選手は年に5回だけオプション(マイナー降格)できる。そして、シーズン中に一度でもオプションされ、マイナー在籍期間が合計20日以上だった選手は、オプションを「1シーズン」分消費する。
都合、球団側が無条件で選手をマイナー降格させることができるのは、最大3シーズン、1シーズン中は5回までとなる。それ以上の回数マイナー降格させたい場合は、40人枠から外し(DFA)、ウェイバー公示を経なければならない。

一方、NPBにおいて球団は無制限に選手を2軍降格可能であり、このマイナー・オプション制度の有無がMLBとNPBの契約の最も大きな相違だと個人的には思っている。

https://full-count.jp/2021/02/01/post1078922/

27歳にして、念願のメジャー初昇格を果たし、順風満帆に見えたフォードだったが、やはり厳しいMLBの世界。続く2020、2021年は打率1割台と惨憺たる結果に終わる。2020年に本塁打王に輝いた、ルーク・ボイトに大きく水をあけられ、最早NYYに居場所はなかった。そして終わりのない旅(ジャーニー)が始まる。

思いのほか長くなりすぎたため、次回へ続きます。お読みいただきありがとうございました!

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