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青天の霹靂35(アイスクリーム屋で)

「おごりますよ」
冬眞がそう言うと、廉夏は嬉しそうに言う。
「やっぱり冬眞には、そう聞こえてたんだね。ありがとう。あっ、行くなら駅前のね」
そのアイスクリーム屋は、今巷で、大人気のアイスクリーム屋だ。
入るのにも並ぶくらいである。
「分かりました。じゃあ、行きましょう」
「ヤッター」
だけど、その着いたアイスクリーム屋は変な緊張感に、包まれていた。
何故か、客がいない。
っていうか、入れない客が店の前に沢山いた。
その理由はすぐ分かる。
さらに、店内にいるその客が思わぬ事件を起こすこととなる。
「何にしますか?」
「えっとね、クッキー&クリームでお願い」
「分かりました。でも、シングルで宜しいのですか?」
「全然良いよ。あっ、コーンでね。カップなんか駄目よ」
「分かりました。では買ってきます」
「サンクス」
そう言って、夏海は空いてる席に着く。
他には、客は1組しかいない。
その客が異様な雰囲気を醸し出している。
買って、戻ってきた冬眞は言う。
「何か、雰囲気悪いですね。外で食べますか?」
「何で? 外だと暑いよ」
そう言ったときにその男が女を思いっきり蹴った。
「ちげぇよ。これじゃねぇよ。買い物も満足に出来ないのかよ。てめぇは」
「ご、ごめんなさい、すぐ買い直すから」
そう言って、アイスを持って、女の人は走っていく。
女の人の唇から血が出ている。
それだけで、店の雰囲気は最悪だった。
店員さんもどうして良いか分からず、オロオロするばかりだった。
「はい、これで良かった?」
「ああ、これだこれ」
男は食べ始める。
すると、男は急にアイスを床に落とす。
「ウッッ……」
「どうしたの? 劉(リュウ)君」
首を押さえる。
そして、男は呻き、血を吐き、最後には倒れる。
「キャー」
と、一緒に来ていた、女は叫ぶ。
泣いて縋(すが)り着こうとしたのを冬眞が止める。
「何で?」
女性は冬眞を睨む。
「これは、事件性がありますから。触らないで下さい。すいません。ちょっと、離れていて下さい。廉夏時間を」
「もう、抜かりはないよ。12時36分」
「ありがとうございます。と、言うことは、お昼を食べてそう時間は経っていないわけですね」
そう言って、男性の首に触れる。
そして、ゆっくり冬眞は首を振る。
「もう、助からない?」
「ええ、もう亡くなっています」
「そう?」
廉夏はそれを聞いて、男の見開いた目を閉じる。
女の人は、崩れるように座りこんで泣く。
「劉君」
「死因は多分、エタノールでしょうね?」
「エタノールって、あのお酒に使われているやつ?」
「ええ、そうです。だから、毎年中毒患者が出るんです」
冬眞が断言する。
すると、冬眞の言葉に女の人は驚く。
「何故そんなことが?」
「多分、毒を飲んだのはもっと前と考えると、毒が効くまでにだいぶ時間が経っていることが推察できます」
冬眞は言う。
「な、んなの?」
「ただの社会人です」
「冬眞は、これをどう読み解く?」
「どうとは?」
「店にあるのに最初っから、毒が混ぜられてたのかな?」
「いえ、混ぜられてたとしたら、もっと、被害者が出ているはずです」
店員さんも慌てる。
「他に被害者は出てません。この店のモノは全て安全です」
自信を持って言う。
「それに、エタノールなら、殺すのに時間がかかります」
「と言うことは、あれだけに混ざっていたということになりますね。どうやって混ぜられたのかが、疑問ですね」
廉夏が店員さんに言う。
「すいません、彼と同じアイスを一口、もらえますか?」
言われた店員は、廉夏にすぐにスプーンでアイスを取る。
そのスプーンを渡す。
「はい、これでいいですか?」
「全然、良いです。私が食べるだけなので」
スプーンを受け取ると、廉夏は躊躇わず、舐める。
みんな緊張したように、廉夏を見つめる。
「う~ん、美味しい」
ニンマリ、廉夏は笑う。
「つまり、ここにあるアイスは関係ないんですね」
「うん、全く。こっちには、毒は混ざってないよ」
「どうしてそんなこと、言えるのよ」
まるで、ムキになったように女の人が言う。
廉夏はそれに、にっこり笑って言う。
「まるで、これに毒が、入ってたと言われたいみたいね」
「そんなこと……」
「じゃあ、なんて言われたかったの、被害者さん」
廉夏は彼女の腕を取ると、袖をメクる。
そには、青あざだらけだった。
冬眞は目を見張る。
「DVね」
「ということは、毒は、毎日ちょっとずつ食べ物に混ぜたんでしょう。それが今日、規定の容量に達しちゃったっていうわけですか? 多分、今日の昼にも混ぜたのかな?」
「なんなの。なんなのよ~」
泣き叫ぶ女に、冬眞は再度言う。
「だから、ただの、社会人ですって」
「だって、もう、我慢できなかったのよ」
「だったら、逃げれば、良いじゃない」
「逃げると、泣いて謝るの。暫くはすごく優しいの」
「それで、許しちゃうって。典型的に男を駄目にするタイプね」
「廉夏、言い過ぎです」
冬眞が怒る。
「ごめんなさい」
廉夏が謝ったことで、初めて冬眞は気づく。
「僕こそごめん。強く言い過ぎました」
「ううん。新鮮だった、男らしい冬眞も格好良かったよ」
「いいな。そんな格好いい彼氏がいて」
泣きながら笑って犯人の女性が言う。
「ううん。彼氏じゃない」
「じゃあ、友達?」
「違う。旦那」
「ええ~。私より、年下だよね?」
「16だけど」
「やっぱ、年下だ」
「多分、このままいけば、情状酌量の余地があるから、刑は軽くなるんじゃないかな。出てきたら新しい人探しなよ」
「見つかるかな」
「あなたがイヤなことはイヤと言える勇気があれば、見つかるよ」
廉夏は言う。
そこに、店からの通報で警察も到着する。

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