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青天の霹靂17(庭の散策)

「こんな所にいらしたんですね。もしよろしければ、私が庭を案内いたしますわ」
穂波が言う。
「あっ、行ってみたい」
元気よく返事をする廉夏に、冬眞は心配そうに小声で聞く。
「その足で、大丈夫ですか?」
「平気よ平気。ただ、歩くだけなら問題ないよ。靴も新しくなったし、行こうよ」
「そうですね」
廉夏達一向はこうして庭に出た。
「うわ~、綺麗」
庭も中世ヨーロッパが再現されていて、まず豪華な噴水が照明で照らされ、来た者を出迎える。
「やっぱり、すごい。綺麗だよ。上からも凄かったけど、下で見ると格別だね」
「ああ、ここまで作れれば言うことなしだな」
廉も納得する。
「ありがとうございます。そう言って貰えれば、とても喜ぶと思います」
穂波が頭を下げる。
廉夏も頷きながら、
「上で見たときも、思ったけど。特に、この自然の手入れが、すごいよ」
「ええ、長年大切に管理してきた者の賜物ですわ」
「相当、思い入れがあったんでしょうね」
「そうですわね、その人にしてみれば」
意味心に言うのに、冬眞は引っかかりを覚えたが、廉が何も言わないところをみると、自分の思い過ごしかと思う冬眞だった。
しかし、それは、思い過ごしではなかった。
それが、すぐ分かる。
庭を建物のまわりを巡るように、散策してると突然、穂波が夏海を「危ない」と、付き倒す。
で、夏海がいた場所に花瓶が割れていた。
冬眞はすぐに走り出し上へと行く。
「ダメです、逃げられました。もぬけの殻です」
上の窓から冬眞が顔を出す。
「逃げられたか?」
廉は面白そうに言う。
「ですね」
冬眞は首を捻る。
「あの、大丈夫ですか?」
心底、穂波は心配したように廉夏に聞く。
「うん。穂波ちゃんのお陰で助かったよ。ありがとう」
「いえ、全然。当然のことをしただけです。それより、怖いですし、中に戻りませんか?」
「うん」
って、廉夏は返事をするが、廉は慌てない。
「戻るのは、冬眞が戻ってからにしよう。すれ違う危険がある。そうなると、面倒だ」
「うん」
廉夏は納得する。
そうこうしていると、冬眞が戻ってくる。
「もう、戻ろう。危険だし」
廉夏が言う。
「そうですね」
冬眞も頷く。
でも、戻る前に気になったことを冬眞は穂波に聞く。
「あのちょっと、お聞きしますが、この建物の構造を知っているのは、今日の出席者の中に、どのくらいいますか? 私が上に行ったとき、誰ともすれ違いませんでした。だから、別の道で逃げたことになる」
「そんな、多くはないと思います。今日来てる中となると、設計した会社の社長さんと家の執事たち2人と家族の者でしょうか」
「その中で、廉夏さんに、殺意を持っている者と言ったら、こう言っては、失礼だが、お姉さんって言うことになりますね」
「お恥ずかしい話ですが、私もそう思います。廉夏さん姉には十分気をつけて下さい。私が言えればいいのですが……」
「気にしないで。これからが、面白く、なってくるんだし」
廉夏はニッコリ笑って言う。
「廉夏さんらしい」
冬眞は笑って言う。
廉夏はどう相手をヤつけるかの話に穂波相手に白熱している間、冬眞は廉の元へと行く。
「どうしました?」
「こんな、物があった」
そう言ってみせられたのは、透明な糸だ。
「?」
「これが、花瓶に付けられていたとするなら、上にいなくても落とせる」
「つまり、廉さんは穂波さんを疑っているのですね?」
冬眞が言うと、廉は苦笑いで言う。
「必然的にそうなるな」
廉夏が二人を呼びにくる。
「分からないがな。私の勘だ」
「穂波さんも可哀想に」
それに寂しそうな顔をして冬眞は言う。
「なぜ?」
「疑われてですよ」
「だが、時として信実は残酷なものだ」
廉の言葉に廉夏も「そうね」と、頷く。
「廉夏さんも廉さんと同意見なんですか?」
「私も犯人は廉兄と、同じだけど、そこに至る理由が違う」
「因みに廉さんはどう考えているのですか?」
「私は好きな男の為だ」
「廉兄、穂波ちゃんをバカにしてる。彼女はそれだけじゃ、動かないよ」
「廉夏さんはどのように考えているのですか?」
「彼女はたぶん、間宮家によって、崩壊した全ての家族のためだと思うな。でも、これは、私の出した答えで、真実じゃないわ。冬眞兄ちゃんは廉兄や私とは違う信実を追って。自分が納得出来るところまで」
廉夏はそう言う。
「ええ」
冬眞は頷く。
「僕は見つけて見せます。穂波さんが犯人じゃないと」
「お願い、私に見せて。私達は人の持つ裏側を長年見続けてきたから、穂波ちゃんを信じてあげられない。でも、信じたい。だから、見つけて。そして、私にも違うと言うのを見せて。人を信じられない私にも信じさせて。犯人じゃないと言う確かな証拠を」
そう言って廉夏は、涙を流す。
それを見た冬眞は、力強く言った。
「分かりました。きっと必ず僕が見つけてみせます。廉夏ちゃんは待っていて下さい」
「うん、待ってる」
嬉しそうに廉夏は頷いた。そして、言う。
「もう、戻ろう」

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