見出し画像

青天の霹靂49(最後の旅行)

「あのね、冬眞。旅行行かない」
あまりに、急で冬眞は驚く。
もう、結婚休暇も終わってるし。
新婚旅行にしては遅すぎる。
「あのね。今、SNSで仲良くなった子から、お互いの彼氏誘って旅行行かないかって話になってて」
「と言うことは、向こうの彼氏君も高校生?」
「そう、ダメ?」
「何か、アリバイ作りに利用されている気分で、あまり良い感じはしませんが、僕も廉夏と旅行はしたいので、良いですよ」
「う~ん、一言多いな。私も冬眞と旅行したいし。小6までは一緒に行っていてくれたのに、中学から行ってくれないよね。もしかして、私の胸が出てきたから、冬眞もムラムラした」
廉夏がそう言うと、冬眞は飲んでいた紅茶を噴き出す。
そして、思いっきり噎せる。
「ごめん」
廉夏がティッシュを差し出し、謝ると冬眞はティッシュで口を拭きながら、言う。
「すいません。あまりにも、予想外のことを言われて、ちょっとビックリしました」
「ごめん。でも、久しぶりに冬眞とお泊まりしたいのは、本当だよ。冬眞はやっぱり嫌?」
冬眞を目を潤ませながら言う。
「嫌なわけないでしょう? 僕も嬉いです」
「良かった」
廉夏は嬉しそうに言う。
それに、冬眞は言った。
「もう、約束しているのでしょ?」
「うん」
「じゃあ、その子の為にも、協力します。ところで、僕たちの間柄って?」
「ごめん。言えなくて」
小さな声で、気まずそうに言う。
「そうですね。言えない廉夏の気持ちも分かりますよ」
冬眞は微笑む。
「有り難う。だから、冬眞って好き」
抱き付く。
「でも、強(アナガ)ち間違ってないよ。私達はカモフラージュのため行くんだし」
「カモフラージュ?」
「彼女には、時間がないの」
「時間がない?」
冬眞は不思議そうに聞き返した。
廉夏は辛そうに言う。
「ええ、彼女。白血病らしいわ。だから、死ぬ前に思い出を作りたいんですって。そう言われたら、断れないじゃない」
「そんな子なら、ご両親がなおさら赦さないんじゃ無いですか?」
冬眞は思った事を口にする。
「今、現在命に危機が、ある程じゃ無いらしいわ。だから、今しかないんですって」
「時間が無いか?」
冬眞は物思いに耽るように言った。
「そう、だから思い出を作ってあげたいの。ダメかな? 冬眞がそう言うの嫌いなの、私は知っている。だけど、作って上げたいの」
それに、冬眞は笑う。
こうして廉夏達はダブルデートならぬダブル旅行へと、繰り出した。
「始めまして、日下亜美(クサカアミ)です。こちらは、私の彼の染谷龍(ソメヤリュウ)君です。宜しくお願いします」
そう言って、少女は頭を下げた。
やはり、儚げな少女だった。
背も小さく、細い。
だから、廉夏は会った途端、彼女に抱き付いた。
驚いた彼女は、固まった。
「可愛い。思ったとおりだ」
頬っぺたを突っつくと、彼女は肩を竦(スク)める。
その姿にも、廉夏は悦ぶ。
「可愛い奴じゃ」
「廉夏さん、日下さんが困っていますよ」
冬眞に注意され、ようやく放す。
「仕方ないな。もう。でも、染谷さんが羨ましいな。こんな、可愛い子、彼女にするなんて」
廉夏にそういわれ、照れたように、「そうでしょ? 僕の自慢の彼女です」と言った。
「ご馳走様」
笑って言えば、亜美は焦ったように、否定する。
それに染谷が言う。
「何か、のろけましたか。僕らよりお二人の方がなんか自然で羨ましいですよ」
「僕らの場合、小さい頃から一緒にいたから、どちらかと言うと兄妹ですかね。申し遅れました。神崎冬眞とこちらは彼女の京極廉夏です。よろしくお願いします」
冬眞は廉夏の願い通り、旧姓を名乗る。
「神崎さんは」
亜美が口を開こうとしたとき、冬眞が言う。
「冬眞で良いですよ」
にっこり笑って言った。
「えっと、じゃあ、冬眞さんは廉夏より11も上何ですよね? こんな、若者の集まり何で参加したくなかったんじゃあ、有りませんか? すいません。私がやりたいと言ったから、廉夏も誘わざるおえず」
「いえ、僕も普段の廉夏が見たかったので」
こうして、神崎冬眞として久しぶりに生活を送ることとなった。
こうして、始まった思い出作り。
それが、まさかあんな結末を迎えることになるとは、廉夏達は想像してなかった。
最初は、予約している旅館から近い遊園地へと来た。
物凄く楽しかった。
プリクラも撮ったし、みんなでワイワイ盛り上がった。
今日が始めてとは、思えないほどに。
亜美は楽しんでいた。
だから、余計冬眞は気になった。
染谷が時折り寂しそうな瞳をすることに。
それは、すぐ分かる。
「如何しました?」
冬眞は染谷に、気になり聞いた。
「何でもありません。分からなくていいことですよ」
「えっ?」
「後生です。気付かなかったふりを、して下さい」
染屋が本当に辛そうに言う。 
もう、冬眞は何も言えなかった。
ただ、何だか冬眞には悲しかった。
そして、事件は翌朝に起こった。
廉夏が亜美を起こしに行ったら、その廉夏の悲鳴が、冬眞の耳に届いた。
「如何しました?」
急いで駆けつけた冬眞。
「亜美ちゃんが・・・」
真っ青な顔で指を指す。 
指の先には、毒を煽って亡くなっている亜美の姿があった。  
冬眞はそれに、息を呑む。
遺体のそばには、遺書が置いてあった。
『廉夏ちゃん、ごめんね。実は、私の白血病は、もう末期なの。ただ、死に行く定めなら、その幕引きは自分でします。死を待つだけなんて、もう嫌。沢山の薬を呑んで命を繋がなければ、それだけしか生きる方法が、ないなら、私は最後まで生きるより死を選びます。ごめんなさい。死ぬ前に良い思い出を、廉夏ちゃん、神崎さん、劉君最後に有り難う。龍君、ごめんね。私のことは忘れて他の人となんて、私は絶対言えない。共に生きられない人間が何にを言っているんだと思うかもしれない。その思いを忘れないで。私からの迷惑な贈り物をごめんなさい。でも、龍くんズルい私を許してね。憎んでも良いから忘れないで。どんな風に思っても良い、忘れて欲しく無いの、ごめんね。あなたの記憶の中で私もいついつまでも、生きさせて』 そう綴られていた。
その手紙を書きながら、亜美は泣いたのだろう。

湿って手紙がゆがんでいた。
それを読んだ、染谷は泣きながら言う。
「忘れっかよ。お前みたいないい女、忘れたくても忘れられねぇよ」
そして、警察も呼ばれ、自殺で片付いた。
全部が片付いた時、冬眞が染谷に聞く。
「彼方は知っていたんじゃないですか?」
「冬眞、何を?」
廉夏は驚くが、染谷は感心したように頷く。
「流石だな。やっぱり、あんたは気付いたか。最初から、嫌な予感はしてたんだ。あんたは、気付くってな。あいつがここ最近、何かを考えていることは、俺もあいつの両親も解ってた」
「ご両親も?」
「ああ、たぶんあいつが今回の旅行で何かをするって、覚悟は出来てたと思うぜ」
「解ってたなら・・・」
冬眞がその言葉を遮る。
「廉夏」
首を振る。
それで、廉夏も気付き黙る。
「解っていたから、余計止められねぇよ。あいつは、治そうと必死に頑張ってたけど、どうにも何ねぇだもん。それを横で、見ているのは辛かったよ。あいつが、徐々に壊れて行くのは分かっていた。でも、変わってやれねぇもん。変わってやりたいと思っても、それを言うことが、さらにあいつの重荷なるしな」
そう言われ、廉夏は謝る。
「ごめん、そうだよね。私なんかより良く分かっているよね、染谷君の方が」
「いや、あいつはあんたとメールし始めた時から、まるで病気になる前みたいに、元気になってたよ」
「そう言ってくれて、有り難う」
廉夏は泣きながら、お礼を言う。
冬眞は廉夏を抱き締める。
まるで泣くなと言うように。
「彼女の希望通り、来年は思い出と共に来ましょう」
冬眞の言葉に廉夏は頷く。
「絶対にね。染谷君も」
「ああ」
そして、染谷と冬眞はメールアドレスを交換したのだった。
こうして、悲しい旅行は終わった。
廉夏が元気になるのは、もう少しかかりそうだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?