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ホテルには、4のつく番号がない。よくある話で、死を忌み嫌う風習から由来するんだよな。その日泊まったホテルもそうだった。渡されたキーは、313。次の部屋は315。エレベーターを降りて、館内表示に従ってその部屋に向かい、鍵を回してドアを押したそのとき。

いらっしゃいませ。お酒とお茶のどちらがよろしいでしょうか。

にこにこ笑いながら聞いてきた奴がいた。白い浴衣の着流し姿。背が相当高くて、黒い髪が足元までたっぷりと波打っている。途中三つ編みにして、まとめようとしたみたいな塊があって、顔は淡白な感じ。ホテルマンが着流しを着た感じだった。

多分酔っ払って幻が見えてるんだろと思った。どちらかと言うと安いビジネスホテルに、コンシェルジュが部屋付きでいるなんて、考えられない。さっき先輩から相当飲まされたからな。ちょっと足元も覚束ない。

そいつは、部屋の冷蔵庫を開いて、中からウイスキーの小瓶を取り出すと、戸棚からグラスを取り出して、注いだ。

ロックね!

そいつは薄く笑った。俺をじっと見ながら、グラスを差し出した。ベッド脇の小さなテーブルに置いて、俺をじいっと見る。

あんたも飲む?

いただきます。

そいつは、いそいそと同じグラスを作って、俺の前に立った。ベッドに腰掛けている俺を見下ろしてくるそいつを見上げた時、不意に震えが来た。この部屋の空調は、ひどく寒かった。もう6月で、今日は一日晴れていて汗ばむほどだったから、冷房がかかっているんだろうか?

乾杯!

俺はそいつのグラスに一方的にグラスをカチンとぶつけて、一気飲みした。そいつも、カツンとぶつけた後に、大きく口を開いてそこに、注ぎこんだ。なくなったと思ったら、その大きな口にグラスを放り込んだ。

バリ、ボォリ、バァリ、ボリ

大きな咀嚼音が狭い部屋に響いた。目元が嫌に愉快そうだ。ひいている自分を相変わらず見下ろしながら

ボォリ、ボォリ、、

やっぱり幻?
ベッドにゴロンと横になって、俺は、手を振った。

ごめん、寝るわ。おやすみ。

相当飲んでいたせいか、眠りに落ちたのはあっという間だった。そいつのことは、知らない。

翌朝起きた俺は、待ち合わせの時間に遅れそうなことに気づいて、慌てて起き上がった。支度をして、部屋を出ると、フロントでチェックアウトを頼んだ。冷蔵庫の利用を確認していたフロントスタッフが、怪訝な顔をして、俺に言った。

313、誰も使ってないみたいですけど、、

俺が出したキーをもう一度確認して、首を傾げると、俺に言った。

どの部屋を使いました?

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