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残業規制は誰のため

現役時代、「三六協定さぶろくきょうてい」という言葉を知った。
労働基準法第36条で定められている呼称であり、主に「時間外労働」に関する基準が規定されてる。

労働基準法には「1日8時間、週に40時間を超えて労働させてはならない」「労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は、少なくとも1時間は休憩を与える」とある(法定労働時間)。

従業員に時間外労働を要請したい場合は、労働基準法の第36条にのっとった方法で雇用者と労働者の間で協定を結び、管轄の労働基準監督署へ届け出なければならない。

30歳を過ぎて初めて就職した会社は、労働集約型の不人気業種だったため、慢性的な人手不足だった。
僕が入社した時代(1990年代初め)は雇用契約書さえ交わされない状態で、三六協定さぶろくきょうていなんて言葉を知ったのも、中間管理職に就いた辺りからである。
そうなるまでに従業員とのトラブルが幾度となくあったから、会社側が足をすくわれない雇用契約の形態も、徐々に整えられていった。

20代は仲間内で店をやっていて、365日、明確な休みなどなかった。
必要のある時だけ誰かと交代してもらう以外は、昼は店をやり、夜は週に3回仕入れのため、走行と搬入で7~8時間かかる道のりを、ボロのワンボックスで往復していた。
無給なのに集金バッグはいつも僕の手元にあり、買いたいレコードや週刊プロレス、仕入れの途中に立ち寄る長崎ちゃんぽんの食事代など、全てそこからまかなっていた。
それで当たり前だったし、不満に思ったこともない。車のシートがひどくて腰痛にはなったが、とくに体を壊すようなこともなかった。
最後は別の理由からたもとを分かつ形となったが、代え難い経験をさせてもらったと、今も感謝している。

31歳新人社員は、入社した時から労基法の様々な問題に直面するようになる。
入社当日、契約先を回ると短時間パートの女性に有給休暇の有無を問われ、有給休暇がなんであるか知らず総務に聞いた。
「パートさんに有休なんてないわよ」との返事である。
当時はネットで検索なんて出来ないから、スチール棚に収まっていた労働基準関係リーフレットを開き、念のためと調べてみる。
すると短時間パートであっても、雇用契約時間に応じた有休が保証されていると載っている。

入りたての新人がベテランの総務にリーフレットを示しながら、有休を認めないのはルール違反だといくら指摘しても、その風潮はしばらく変わらなかった。
けっきょく別の場所から同じ案件で問題が生じ、全ての従業員に有休が保証されるようになる。
それでも総務のこの女性、辞めるまでご本人が有休を使うことはなかった。「働かないのに給料が出る」のは、おかしいと思っていた節がある。

当時はまだ、有休未消化でも企業に対するペナルティはなかった。
それでも国が定めたルールである以上、低賃金のパート従業員は取らなきゃ損とばかり、申請が相次ぐようになる。
ただでさえ人手不足なのに、休みが増えれば高い求人費をかけ人を補充しなければならなくなる。すると、補充した人間にも有休が発生するから、さらに人を手配しなければならなくなる。

有休はほんの一例だが、WTOといった外圧も加わり、中小企業の利益が先細りしていく構造が、僕が入社した辺りには始まっていた。
そちらにも触れたいが、あまり幅を広げ過ぎても収拾がつかない。
明日の新年度より、働き方改革関連法に基づく時間外労働(残業)の上限規制が、罰則付きで導入される。
今となっては関係のない世界に生きている僕でも、この国の行く末をうれうる気持ちがぬぐえない。

このままに事が進めば、限られた人間だけに富が集中し、それすらも外国資本に吞み込まれていく暗い未来しか見えてこないからだ。
持ちつ持たれつの良き伝統を持つ我が国が、弱肉強食の欧米型に馴染めるとは思えず、衰退の一途を辿る気がしてならない。

明日に続く。

hanami🛸|ω・)و


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